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トミーさんが僕にくれたのは鍵だった。
なんの鍵かは分からない。
彼女は言った。

『フォゼットにいるラッセを訪ねなさい。フォゼットの中央にあるギルドで聞けばすぐに分かるわ』

僕が宿舎に戻るとキリトが待っていてくれた。

「お帰り!むぎ!どうだった?」

彼の様子からしてすごく心配してくれていたのだと分かる。

「うん、これ」

「鍵?」

僕はキリトにトミーさんに言われたままのことを繰り返した。

「へぇ、それならフォゼットに行ってみようか。ビャクヤが元々いた場所もフォゼットだったみたいだしね」

「ツムギ、すごく心配してる」

僕の言葉にキリトは頷く。

「一度家に帰ろう。アカツキ達とはフォゼットで落ち合えるようにする」

キリトはすぐさま帰る支度をしてくれた。

「じゃあな、紬、キリト」

アカツキさんが見送ってくれる。たった二日間のことだったけれど、色々あったなぁ。

「むぎ、デートみたいなことして嫌じゃなかった?」

「トミーさん、優しかったし励ましてくれた」

「あの子、俺の前だと急にわがままになるのなんだろ?」

キリトが唸っているので、僕は笑ってしまった。

「トミーさんはキリトが大好きなんだよ。
甘えたくなっちゃうくらい」

「ふーん」

キリトはしばらく考えているようだった。
その横顔が夕日に照らされている。
綺麗だなあ。

「うーん、よく分かんないけど現状維持かな」

「キリトはそれでいいと思うよ」

キリトとこうして話せる時間は、多分有限なんだ。僕はツムギなんだから。いつかは僕もツムギになっていくんだろう。

山を超えて、車はスリシアの国境に向かっている。もちろんここにも行列が出来ていた。
門で検閲をしているのだろう。

「キリト、今日何か分かった?」

僕がトミーさんとデートもどきをしていた間、キリトはアカツキさんと行動していた。

「まだ話してなかったね。
まとめると、攫われた子供たちは10歳以下らしい。
性別は半々くらい。今日も通報があった」

キリトは溜め息を吐く。

「どうやっても後手後手に回るの悔しいなぁ」

「それは仕方ないよ。だから僕達はフォゼットに行くんだし」

「ま、それもそうか」

検閲を無事通り抜けて、僕達は山の上にある自宅に帰って来た。
ツムギが向こうから手を振っている。
僕達も振り返したのだった。

「お帰りなさい、紬、キリト様」

「ムギ、体は大丈夫?お腹痛くない?」

キリトがベタベタ、ツムギの体に触っている。
ツムギの顔が赤い。

「あ…あの、キリト様…」

「どうしたの?ムギ?」

いちゃいちゃし始めると長いんだよな。 

「紬殿!お話がございます!」

僕が家に入ろうとしたらカシラさんが静かにやって来た。
もしかして何か分かったのかな?
二人にも伝えた方が良さそうだな。

✢✢✢

僕達は夕飯を食べている。カシラさんも一緒だ。

「は…こんなに肉が」

「たまにでいいなら家に来なよ」

キリトの言葉にカシラさんはぶんぶん首を横に振った。

「我々は森の民。
森と共にあるもの。ありがたいお言葉ですが…」

「じゃ、命令する。カシラさん達は時々家でご飯を食べる。これでどう?」

カシラさん困ってる。しばらく考えてようやく頷いてくれた。

「わ、分かりました。それで本題に移ります、よろしいですかな?」

カシラさんに僕達は頷いたのだった。
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