時々、僕は透明になる

小原ききょう

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水沢純子に見えるもの①

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◆水沢純子に見えるもの

 二人が席に着くのを見て、速水さんが、
「加藤さん、念を押しておくけれど、読書会にゲスト参加と言っても、本を読まなければならないのよ」と言った。
 速水部長、手厳しいな。
「読む、読む」と加藤は二度返事をして「ねえ、鈴木、何かおすすめの本ある?」と訊いた。
 そんな質問を投げかける加藤に、速水さんは更に、
「加藤さん、読書会の本は、担当者が選ぶものなの。自分で選ぶものじゃないのよ」と追い打ちをかけた。
「へえっ、そんな決まりがあるんだ・・」とよくわからない顔をする加藤。

「私、加藤さんが参加する時には、思いっきり難しい本を提案することにするわ」
「速水さん、それ、ひどいよぉ」
 言い負かされてばかりの加藤ゆかり。体育会系の完敗だな。

「それで・・加藤さんの話の続き・・幽霊の意見?・・だったかしら?」と訊いた。
 加藤は「私の感想だよ!」と改めて強く言った。
「それに、幽霊の意見って、何よ、それ?」
 加藤の言葉に、小清水さんがぷっと吹きだして、
「先ほどの幽霊の話の続きですよね?」と確認する。小清水さんは幽霊の話を聞くには心の準備が必要なのだろう。
 
「そうなんだけど・・私、何か、おかしい、と感じたんだよね」
 加藤はようやく話をする体勢になる。
 小清水さんは静かに加藤の次の言葉を待っている。

「・・というわけで、ここからは、私の疑問なんだよ」
 水沢さんの幽霊話じゃないのか? 少し興味が薄れる。

「純子のことなんだけどさ・・」
 やっぱり、水沢さんの話か。僕は加藤の話に耳を傾ける態勢をとる。
 
 すると加藤は小さくこう言った。
「あれは恋をしている目だよ」
 恋をする目・・水沢さんが恋を?・・・・
 しかし、さっき加藤は幽霊の話の続きだと言っていた。
 幽霊と恋が、どう話が結びつくんだ?
 
「加藤さん、申し訳ないのだけれど、何の話なのか全然見えてこないわ」
 速水さんの冷徹な視線が加藤に刺さる。確かに速水さんの言う通りだ。

 加藤は「ごめんねっ、私、話が下手でさぁ」と素直に謝り、
「でも、ありえないよねえ・・見えないものに恋するなんてさ」
 見えないもの・・幽霊・・透明になった僕・・ということなのか?
 確かに加藤の言う通り、ありえない話だ。
 人は姿かたちのないものに恋はしない・・と思う。

 すると小清水さんが「そんな話を・・加藤さんのお友達の水沢さんのことを・・ここで勝手に話していいんですか?」
 当然の疑問だ。小清水さんらしい。

 加藤は「小清水・・」と言いかけ「沙希ちゃん・・これから、沙希ちゃんって呼んでいいかな?」と加藤は前置きをした。小清水さんは「いいですけど・・」と恥ずかしそうに答えた。そう呼ばれることに慣れていないのかもしれない。ついでに速水部長も「沙織ちゃん」とか呼んだらいいのに。

「沙希ちゃん。違うんだよ。実はこの話も、私、純子に相談されてさ」
 小清水さんは「そうなんですか」と納得した。
 
 そして、僕は加藤に、
「加藤は水沢さんに何て相談されたんだ?」と思わず言った。
 加藤は僕を見て少し笑顔を見せ、
「私がね・・純子の目、何だか、恋する女の子の目だなあって、思っているとさ」
 そう思っていると・・
「純子、私の考えていることがわかるみたいに、『やっぱり、ゆかりにはわかるのね』って言ったんだよ」
 加藤は続けて、「私、何のことか分からなかったけど、『それはわかるよ、親友の考えてることだもん』って答えちゃったんだよ。あははっ」と言ってまた笑った。
 加藤・・本当に水沢さんと親友なのか?
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