塩飽の真珠 0  空海を継ぐ者

大手電機メーカーの開発部に勤務する堂島悟司は、記録的な大雪の降りしきる元旦の深夜、拭い切れぬ不安を抱えたまま規制の途に就いた。横浜市内の自宅を出たものの、実家の在る瀬戸内海は遥かに遠い。予定では昨年末に帰省する計画だったのだが、仕事が大幅にズレ込み、このタイミングになってしまった。中間管理職の悲しい性で、部下に休暇を取らせようと思えば、自らが進んで犠牲になるより他はない。堂島は分厚い鉛色の雲を見上げると、車のハンドルを握ったまま乾いたため息を吐いた。堂島の場合、この手の悪い予感が不思議なくらいに的中する。帰省を断念しようかとも考えたが、故郷では年老いた父が一人、今年も山頂に建つ寺で侘しい正月を過ごしている。迷った挙げ句に帰省を決行した堂島だったが、不安は消え去るどころか募る一方だった。堂島一人なら何の問題もないのだが、後部座席には最愛の妻と生後九カ月になる愛娘を乗せている。まるで避けようのない「運命」に導かれるかのように、一家を乗せた車は名神高速道路を進んで行く。取り越し苦労であってくれたら良いのだが・・・。堂島の不安は最悪の形で的中する。そこで待ち受けていたのは、関ヶ原のトンネル内で起こる史上最悪の玉突き事故だった。幾つもの「偶然」が一点に集約され、前代未聞の大惨事は起こった。深々と雪の降りしきる最悪の気象条件の中、百台以上の車両が巻き込まれた玉突き事故は、正月のお屠蘇気分に浸る日本列島を震撼させた。トンネルの両側から救助に入った三県合同のレスキュー隊だったが、現場の惨状は目を覆うばかりだった。トンネルの内部に進むに連れ、状況は更に悲惨さを増した。堂島悟司と妻の多賀子は、愛娘の命を救うため、懸命に死力を尽くしたが・・・。最後は力尽き、最愛の娘を残して斃れてしまう。更なる生存者の発見が絶望視される中、レスキュー隊員はチャイルド・シートの中に幼女を発見する。両親を同時に失うという悲劇に見舞われたものの、生後九カ月の幼女は絶望の淵から「奇跡」の生還を果たす。一方、彦根市内の病院で初めて孫の茜と対面した祖父の法悦は、この孫娘が只者ではないことを即座に見抜く。この救出劇は「奇跡」ンドではなく、孫の茜は神仏により手厚く護られていた。この瞬間、法悦は全てを悟り、茜を引き取ることを決意する。法悦が住職を務める
龍臥寺は、千二百年前、弘法大師・空海が自ら創建した寺だった。寺の庫裏には空海著/「虚空蔵菩薩求聞持法」が所蔵されている。これは単なる「偶然」などではなかった。伝説の類だろうと思っていたが、空海の後継者が現れるという話は本当だった。それにしても、まさか自分の代で現れようとは・・・。法悦にとっては青天の霹靂だった。密教には「求聞持法」という伝説の修行法があり、成就した暁には無限の「知恵」と「記憶力」が得られるという。その究極の荒行に、この祖父と孫娘は挑もうというのだ。
24h.ポイント 49pt
0
小説 17,440 位 / 219,516件 現代文学 206 位 / 9,179件

あなたにおすすめの小説

ナースコール

wawabubu
大衆娯楽
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

【短編集】こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…