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派手派手しいギャラリーたちのおかげで、着飾った自分が霞んでいます

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 絵に描いたような間抜け面をさらすノアに微笑みかける第二王子。

 元王宮魔術師で、王族の内情を良く知るロキとしては、たったそれだけでアシェルがどれほどノアを想っているのか痛いほど伝わった。

 とはいえ、諸手を上げて二人の婚約を祝う気は無い。

 だってロキはとっくの昔にノアが城に誘拐されたことを知っているし、割の良い仕事が仮初の婚約者を演じることだというのも知っている。

 言っておくが、知っていてノアを放置していたのは、仕送り欲しさからではない。

 かつて王宮魔術師の頂点に君臨していたロキは、魔法のスペシャリスト。大事な孤児院の子供たちすべてに”護りの魔法”を与えている。有事の際にはそれが発動し、身の危険から守ってくれる優れもの。

 ただし、そう簡単には発動しない。むろん、無傷で誘拐された程度ではうんともすんとも言わない。

 ロキは愛情深いが、溺愛はしない。厳しい環境でも雑草のように生き抜いて欲しいと願うロキは、獅子が我が子を千尋の谷に落とすスタイルを貫いている。

 それこそがロキの愛情なのだが、当の本人が子供達に語る気が無いので、ロキはずっと鬼ババアよりの存在だったりする。

 ……という余談は置いておいて、兎にも角にもロキは大事な我が子をたぶらかそうとしている第二王子をギロリと睨み付けた。

「アシェルの坊や、言いたいことはごまんとあるけど……一つだけ、泣かせたら承知しないよ」

 沢山の思いを凝縮した言葉にアシェルは居住まいを正してロキに身体を向ける。

「もちろんです――ノアは私にとって命より大切な人ですから」

 過去、国王陛下の胸倉を掴んで暴言を吐いた凶暴な魔術師を前にしても、アシェルは物怖じすることなくそう言い切った。

 対してこれ以上無いほどの愛の告白を聞いたノアは、間抜け面を維持しつつも顔を真っ赤にする器用な芸を見せる。

 そんな二人を見て、ロキは大仰に溜息を吐く。しかしすぐに意味ありげにニヤリとった。

「あ、そうかい。まぁ、口では何とでも言えるさ。後は坊の頑張り次第だねーーじゃあ、行くよワイアット」
「はっはいっ。って……ちょ、院長っ……苦しいですっ!タイを引っ張るのはやめて……って、苦し!」

 ひらひらとアシェルに軽く手を振って、ロキはワイアットのタイをぐいっと掴むとヒールの音を鳴らして会場の奥へと歩いて行った。

 向かう先は、ローガンとクリスティーナのようだが、盲目のアシェルは都合よく気付かないフリをする。

 そして、真っ赤に染め上がっているノアの小さな耳に、唇を寄せた。

「それじゃあノア、さっそくダンスを踊ろう」 

 ーーこんなふうに踊れるのは、今日で最後だから。

 含みのある最後の言葉は声に出すことはせず、アシェルは優雅にノアをダンスホールへと導いた。
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