銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 想定もしていなかったことが起こって、考えもしていなかった未来を提示されて、溢れるように流れていた涙がピタリと止まった。
 僕が今置かれているこの状況から逃れるには、やはり死ぬしかない。でも剣では死ねない。それなら毒を飲んで死のうか。そう思うのだけど、きっと僕はやらないだろう。だって僕は、イヴァル帝国と国民を見捨てることができないから。姉上が元気でいてくれたなら、バイロン国でリアムと生きていきたかった。だけどもう、僕しかこの国を守れる人がいないというなら、死んで逃げるという勝手はできない。

「少しだけ、姉上と二人にさせて。お願い…」
 
 しばらく考えて、僕は皆を部屋から出した。
 大宰相に続き大臣達とトラビスが出ていき、最後にラズールが、僕を抱きしめて離れた。
 扉が閉まると同時に、僕は這うようにしてベッドに近寄る。そしてフラフラと立ち上がると、ベッドに上がって姉上を抱きしめた。
 冷たく固くなってしまった姉上の身体。こうやって抱きしめている内に、僕の命が姉上に移らないかな。

「姉上…フェリ、ごめんなさい。ぼくよりもフェリが生きるべきだったのに…僕が残ってごめんなさい…。母上がすごく怒ってると思うんだ…。天国で母上に会ったら、代わりに謝ってくれると嬉しいな…。約束を守れなくてごめんなさいって」
 
 少し身体を離して、姉上の顔を見つめる。
 僕と同じ顔だけど、僕よりも柔らかい感じがする。もしもリアムが僕じゃなくフェリと出会っていたら、フェリを妻にしたのかな。だってリアムは、最初は僕の容姿を見て好意を持ってくれたみたいだし。
 でも、もしもなんてないんだ。リアムと出会ったのは僕で、妻にと望まれたのも僕だ。そして姉上を助けられなかったのも僕だ。
 僕は身体を起こしてベッドから降りると、姉上の銀髪を撫でて整えた。
 
「姉上、もう一度僕が姉上の代わりをします。国のために出来るかぎり頑張ります。僕が姉上を殺したようなものだから…。僕自身の幸せは考えません。精一杯国を守って役目を終えたら、地獄へいきます。…本当は、もっと姉上と遊びたかった。遊んで笑って喧嘩して怒って…もっと一緒に過ごしたかった。姉上、僕はあなたのこと、大好きでしたよ」

 僕は静かに語りかけ、最後に姉上の額にキスをした。
 部屋を出る直前に振り返り、姉上の姿を目に焼きつける。陽の光の下で輝いていた姉上の銀髪が、光を失ったくすんだ色に変わったような気がした。
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