銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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ラズールの至宝

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ラズールの至宝

 初めてフィル様を目にした瞬間から、俺の全てをかけて守ろうと決意した。

 フィル様と出会ったのは、雪が降る寒い冬の朝だ。彼がこの世に生まれて最初にあげた泣き声を、俺は隣の部屋で聞いていた。
 フィル様は双子で生まれた。イヴァル帝国では昔から双子は忌み嫌われる存在だ。しかも王となれるのは女のみ。双子の一人、女であるフェリ様の誕生はとても喜ばれたが、フィル様の誕生を喜ぶものは、父親しかいなかった。
 フィル様は、すぐにでも城から出されるはずだった。だがフィル様の父親が、せめて一晩は手元に置いておきたいと懇願したために、城に留めおかれた。
 そして翌日にフェリ様が高熱を出した。フェリ様を死なせるわけにはいかない女王と高官達は、元気なフィル様を王女の身代わりとすることに決めた。生まれたばかりの王女が病弱だと他国に知られたくなかったという理由もある。
 フィル様の父親は、身代わりだしてもフィル様が城に残れることを喜んだ。しかしフィル様が生まれてひと月経った頃に、不審な死に方をした。
 俺は、彼は殺されたのだと思っている。後継ぎが生まれて用無しになったこと、そして双子の秘密を知ってるがゆえに。

 俺はフィル様がフェリ様の身代わりをすることに決まった日から、フィル様の世話を命じられた。小さなベッドの上でモゾモゾと手足を動かす小さな生きものの世話をするなど、正直面倒だと思いながら、仕方なくまだ何もわからないフィル様に挨拶をした。この時、フィル様は生まれて一日目だ。本当に何もわかっていない。なのに俺が名前を呼ぶと、可愛らしく笑ったのだ。
 この瞬間に、俺の心は囚われた。この方のために、一生を捧げようと決めた。
 そっと指を差し出すと、とても小さな手で俺の指を強く握った。あの時のフィル様の手の感触と温もりは、今でも覚えている。俺の中が愛おしさで満ちて溢れて涙が出た。
 俺の隣にいたフィル様の父親が、俺の頭を撫でながら「どうしたの?」と聞いてきた。

「わからないです…。胸がいっぱいになって…この方を守りたいって…思います」
「うん、ありがとう。この子はきっと辛い道を行くことになる。でもラズールが守ってくれるなら安心だ。家来というより、兄のように接してあげて欲しい」
「はい…。こんなことを言うと失礼ですが、俺も兄弟が欲しかったので」
「そうか。フィル、よかったなぁ。おまえには頼もしい兄がいるよ。困ったことがあればラズールを頼るんだよ」

 そう言いながらフィル様の父親がフィル様を抱き上げた。途端にフィル様が泣き出した。
 慌てたフィル様の父親の腕からフィル様を受け取ってそっと抱きしめた。するとフィル様は可愛らしく笑って、俺の胸にペタリと頬を寄せた。

「ははっ!フィルはもうラズールのことが大好きなんだな。少し悔しいよ」
「そんな…」

 フィル様の父親に申しわけないと思ったけど、俺に身を寄せる小さなフィル様が可愛くて愛おしくて、俺の胸が震えた。
 
 
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