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「ラズールおはよう」
「おはようございます、フィル様」
小部屋の扉を開けながら、目の前にいたラズールに挨拶をする。
ラズールが目を細めて挨拶を返してくると、僕を椅子に座らせた。
「もう少しご自分でもよく拭かないと、肩の所が濡れてしまいますよ」
「いいよ。だっておまえが乾かしてくれるじゃないか」
「まあそうですが。フィル様、本日の朝の予定ですが、仕立て屋が服を持ってきます。試着されますか?」
「しない。黒い服なら何だっていい」
「そういうわけには参りません。美しい容姿と銀髪に映えるように、凝った刺繍やレース、宝石でできたボタンを使用するように頼んでます。それらを試着してみて、気に入らなければ作り直させます」
「だからいいって。これからは僕の服は全て質素な黒でいい。僕は目立ちたくないんだ。一昨日、母上と姉上の葬儀が済んだばかりなんだし…」
「わかりました。あなたがそう望むなら」
ラズールが僕の髪に丁寧に布を当てて、水分を拭き取っていく。時おり魔法で風を出してきれいに乾かすと、今度はクシで丁寧にとかし始めた。
母上と姉上の葬儀は、予定を早めて一昨日に終えた。終えると同時に新王として僕は民の前に立った。リアムと対面した時と同じ、黒いドレス姿で。
民からは歓迎されたと思う。女王様フェリ様と叫んで涙を流している者を、あちらこちらで見かけたから。王が交代したところで女王がいる限り安泰だと民は信じてるのだ。
僕はバルコニーから城内の広場に集まった人々を眺めて「僕は女ではない!」と叫ぼうかと、一瞬だけ考えた。しかし止めた。そんなことを言えば暴動が起き、僕は殺されるかよくて国外追放だ。国外追放になれば、すぐにリアムの所へ向かう。だけどその後の国は?きっと混乱して荒れる。そこを他国に付け入られ、侵略されて終わりだ。
実の子を殺そうとしてまで母上が守ってきたイヴァル帝国だ。偽物の女王である僕がどこまで守れるかわからないけど、頑張りたい。そしていつか後継者となる人物が現れれば、即座に王位を譲りリアムの傍で生きたい。
「疲れましたか?葬儀と即位が立て続けにありましたから」
「疲れたけどそうも言ってられない」
「ですからせめて着るものを華やかにされれば、気持ちが上がりますのに」
「いいよ。僕はこの先黒い服しか着ないよ。痣も隠れていいしね」
髪をとき終えたラズールが、前に回ってきて片膝をつき、僕の両手を握った。
「即位されてたったの二日で、あなたが皆になんと呼ばれているか知ってますか」
「なに?脳なし?傀儡?」
「いえ。皆はあなたのことを優秀だと信じてます。そして冷たい方だと思ってるようです」
「ふーん。優秀だと思ってくれてるならいいんじゃないの」
「黒い服など着れば、普通は地味で暗くなるもの。しかしあなたが着れば、逆に美しさが際立ってしまう。黒い服をまとって颯爽と城内を歩くあなたを見た者達の間で、なんと呼ばれていると思いますか」
「だからなに?」
「黒の女王」
「…ふっ、アハハ!いいじゃないっ。気に入ったよ。でも女王と呼ばれるのはやはり嫌だな…。そうだ、黒の王と呼ぶように訂正しておいてよ」
「フィル様はそれでよろしいのですか?」
「うん。いいんだよラズール」
ラズールが困ったように笑った。そして僕の手の甲にキスをすると、箱に入れて運んできた料理を机に並べ始めた。
「おはようございます、フィル様」
小部屋の扉を開けながら、目の前にいたラズールに挨拶をする。
ラズールが目を細めて挨拶を返してくると、僕を椅子に座らせた。
「もう少しご自分でもよく拭かないと、肩の所が濡れてしまいますよ」
「いいよ。だっておまえが乾かしてくれるじゃないか」
「まあそうですが。フィル様、本日の朝の予定ですが、仕立て屋が服を持ってきます。試着されますか?」
「しない。黒い服なら何だっていい」
「そういうわけには参りません。美しい容姿と銀髪に映えるように、凝った刺繍やレース、宝石でできたボタンを使用するように頼んでます。それらを試着してみて、気に入らなければ作り直させます」
「だからいいって。これからは僕の服は全て質素な黒でいい。僕は目立ちたくないんだ。一昨日、母上と姉上の葬儀が済んだばかりなんだし…」
「わかりました。あなたがそう望むなら」
ラズールが僕の髪に丁寧に布を当てて、水分を拭き取っていく。時おり魔法で風を出してきれいに乾かすと、今度はクシで丁寧にとかし始めた。
母上と姉上の葬儀は、予定を早めて一昨日に終えた。終えると同時に新王として僕は民の前に立った。リアムと対面した時と同じ、黒いドレス姿で。
民からは歓迎されたと思う。女王様フェリ様と叫んで涙を流している者を、あちらこちらで見かけたから。王が交代したところで女王がいる限り安泰だと民は信じてるのだ。
僕はバルコニーから城内の広場に集まった人々を眺めて「僕は女ではない!」と叫ぼうかと、一瞬だけ考えた。しかし止めた。そんなことを言えば暴動が起き、僕は殺されるかよくて国外追放だ。国外追放になれば、すぐにリアムの所へ向かう。だけどその後の国は?きっと混乱して荒れる。そこを他国に付け入られ、侵略されて終わりだ。
実の子を殺そうとしてまで母上が守ってきたイヴァル帝国だ。偽物の女王である僕がどこまで守れるかわからないけど、頑張りたい。そしていつか後継者となる人物が現れれば、即座に王位を譲りリアムの傍で生きたい。
「疲れましたか?葬儀と即位が立て続けにありましたから」
「疲れたけどそうも言ってられない」
「ですからせめて着るものを華やかにされれば、気持ちが上がりますのに」
「いいよ。僕はこの先黒い服しか着ないよ。痣も隠れていいしね」
髪をとき終えたラズールが、前に回ってきて片膝をつき、僕の両手を握った。
「即位されてたったの二日で、あなたが皆になんと呼ばれているか知ってますか」
「なに?脳なし?傀儡?」
「いえ。皆はあなたのことを優秀だと信じてます。そして冷たい方だと思ってるようです」
「ふーん。優秀だと思ってくれてるならいいんじゃないの」
「黒い服など着れば、普通は地味で暗くなるもの。しかしあなたが着れば、逆に美しさが際立ってしまう。黒い服をまとって颯爽と城内を歩くあなたを見た者達の間で、なんと呼ばれていると思いますか」
「だからなに?」
「黒の女王」
「…ふっ、アハハ!いいじゃないっ。気に入ったよ。でも女王と呼ばれるのはやはり嫌だな…。そうだ、黒の王と呼ぶように訂正しておいてよ」
「フィル様はそれでよろしいのですか?」
「うん。いいんだよラズール」
ラズールが困ったように笑った。そして僕の手の甲にキスをすると、箱に入れて運んできた料理を机に並べ始めた。
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