銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

文字の大きさ
上 下
148 / 451

第三章

しおりを挟む
第三章

 僕の朝は早い。空が明るくなり始めた頃に自然と目が覚める。まずはベッドから降りて風呂場に向かい、全身を洗う。洗い終わると身体を拭くのだが、着替えが置いてある小部屋の壁に大きな鏡があるために、僕は毎日、いやでも自分の裸体を目にすることになる。
 今朝もじっくりと眺めて、皮肉な笑いを浮かべた。呪われた僕の身体は、なんて恐ろしいのだろう。上半身に広がった、蔦のような模様の黒い痣。知らない人が見れば、恐ろしさに一目散に逃げていくに違いない。僕だって恐ろしいと思うもの。でも、これを見てきれいだと言った人が二人いた。リアムとラズールだ。
 ラズールは僕が生まれた時から傍にいて兄弟みたいなものだから、そう言ってくれるのも納得できる。
 しかしリアムは隣国のバイロン国の王子で、僕とは他人だ。なのにこんな僕をきれいだと好きだと言ってくれる。僕が愛した唯一の人。僕を幸せにしてくれる神様みたいな人。
 使者として訪ねてきたリアムが、この国を出てから三日経った。今頃はもうバイロン国に入って王城に向かってる頃かな。
 最後に会ってからまだ三日だけど、もう会いたいよ。リアム…大好きだよ。

「フィル様、着替えはすみましたか?」
「あ、もう少し待って」
「かしこまりました」

 ぼんやりと考えごとをしていたら、ラズールが来てしまった。小部屋の扉の前で待っている気配がする。
 ラズールは、毎朝僕の部屋にきて、濡れた僕の髪を乾かし整えてくれる。姉上の代わりに女王のフリをしている僕の世話は、全てラズールがしてくれるのだ。
 イヴァル帝国の新たな女王になったフェリが、実は双子の弟フィルだと知る人物は、王城の中では六人しかいない。大宰相と三人の大臣達、軍隊長のトラビスとラズールだ。
 そしてラズールの前でだけ、僕はフィルに戻ると決めた。それ以外では女王フェリになりきろうと努力している。
 でもたまに、トラビスと話す時にフィルに戻ってしまう時がある。何度注意しても、トラビスが僕をフィルとして接してくるからだ。
 トラビスは、僕がフェリのフリをすることに反対している。もう決まったことなのに、未だにそんなことは間違えてると言い続けている。
 僕を僕として認めてくれるのは嬉しい。だけど女王であらねば国が滅んでしまうのだから、決めたことには従ってほしい。

 考えごとをしながらモタモタと黒いシャツを着る。
 リアムが去った後に、白いシャツでは痣が透けてしまうことに気づいた。だから僕は黒いシャツに黒いズボンを履くことにした。ドレスを着るのは特別な時にだけ。格好くらいは好きにさせてほしいと、僕が独断で決めた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

月夜の小鳥は哀切な嘘をつく【オメガバース】

BL / 連載中 24h.ポイント:1,825pt お気に入り:24

暴君に相応しい三番目の妃

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:11,325pt お気に入り:2,533

転生と未来の悪役

BL / 連載中 24h.ポイント:1,321pt お気に入り:575

翡翠の魔法師と小鳥の願い

BL / 完結 24h.ポイント:291pt お気に入り:277

【完結】悪役令息に転生した社畜は物語を変えたい。

BL / 完結 24h.ポイント:951pt お気に入り:4,768

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

BL / 連載中 24h.ポイント:156pt お気に入り:1,955

重なる月

BL / 連載中 24h.ポイント:156pt お気に入り:435

【本編完結】異世界まったり逃避行

BL / 連載中 24h.ポイント:106pt お気に入り:1,014

処理中です...