銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 ラズールが出て行ったすぐ後に、トラビスが来た。部屋に入るなり「なにか御用はありませんか?」と聞かれたけど、特に用はない。
 見るからに機嫌が良さそうなトラビスに、僕は首を小さく傾ける。

「どうしたの?なにかいいことがあった?」
「えっ?なぜですか?」
「嬉しそう」
「えっ!そっ、それは…フィル様の世話を…あのっ」
「いいことがあったのなら良かったね。ところで僕は、今日は一日部屋で勉強をするから、特に用はないよ。だから自分の持ち場に戻っていいよ」
「いえ、そういうわけには参りません」
 
 そう言って背筋を伸ばしたトラビスが、机を挟んだ向かい側に立ったまま動こうとしない。
 僕は気づかれないように小さく息を吐いた。
 トラビスに部屋にいられると、今からやろうと考えてることができなくて困るんだけどな。
 僕はしばらく無言で机に置いてあった本に目を通すフリをしていたけど、トラビスを追い出す方法を思いついて勢いよく顔を上げた。
 僕を見ていたトラビスが、少しだけ肩を揺らす。

「どうかされましたか?」
「ねぇトラビス、僕は王になったし、王として相応しい剣が欲しいと考えている。おまえが懇意にしてる鍛冶屋に行って、僕の剣を作るように頼んできてくれないかな」
「よろしいですよ。それならばフィル様も一緒に行きませんか?」
「いや…僕はまだまだ未熟だから、立派な王になるために勉強をしなきゃならない。早く民が安心できるよう努力しなきゃならない。だから少しの時間も惜しいんだ。おまえが僕に合う剣を代わりに注文してくれればいい。だめかな…」

 僕は机の上で願うように両手を組んで、トラビスの顔を上目づかいで見つめた。
 トラビスは一瞬戸惑ったような顔をしたけど、すぐに「かしこまりました」と頷く。
 僕は「ありがとう。よろしく頼むよ」と言いながら立ち上がった。そしてトラビスに近寄り、背中に手を当てて押す。

「フィル様?」
「そうと決まれば早く頼んできて。僕にはどんな感じのものが合うかよく相談してきてね。あ、王都に出るならついでに、甘いお菓子も買ってきてほしいな。甘い物を食べると疲れが取れるから」
「ふふっ」
「なに」
「ずいぶん我がままを申されるようになりましたね」
「だめかな」
「いえ。どんどん言えばいいと思いますよ。今まで我慢してきた分も。他の者に言えなくても、俺には言ってほしいです。ラズールに言えないことでも、話してくれると嬉しいです」

 扉の前でトラビスが振り返り、僕の肩に手を乗せる。その手を横目で見ながら、トラビスの手はリアムやラズールよりも大きいなと思った。
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