銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 使者はすぐに戻ってきた。バイロン国の返事と共に、背中に大きな傷を負って。
 城に着くなり倒れた使者を目にして、僕は震えた。怖いからじゃない。怒りからだ。リアムの生まれた国だから、戦いたくなかった。仲良くしたかった。だけど領土を荒らされ民を傷つけられては、もう黙ってはいられない。
 バイロン国がイヴァル帝国に攻め入った理由が書かれた書状を、僕は冷めた目で見つめた。とっくにわかっていた内容だから、驚きはしなかった。読むにつれて自分の心がどんどんと冷えていくのがわかる。読み終えると同時に戦う決心がついた。リアムのことを思うと苦しいけど、僕が選ぶべきは国と民だ。自分の幸せを優先することはできない。姉上の代わりとして王になると決めたのは僕なのだから。


 城内が慌ただしくなる。国境沿いの領地以外から兵を集める指示を出し、トラビスの指揮の下、戦の準備を進める。
 僕は準備をトラビスに任せて、ラズールに会いに行った。いつもなら薬を飲んで眠っている時間なのに、今日は起きていた。
 僕を見るなり起き上がろうとするラズールに「だめだよ」と怒る。

「熱が上がってくる頃でしょ。起きたらだめだよ」
「…大丈夫です。昨日よりは楽になってますので」
「ウソだ。ほら、顔が熱いよ」

 ベッド横の椅子に座り、ラズールの頬に触れる。僕の手よりもずいぶんと熱くて、未だ治らないことに悲しくなる。

「熱が下がらないね…。もう少し待ってて。必ず薬を手に入れるから」
「薬がなくても自力で治しますよ」
「ラズールは優秀だけど、病までは治せないだろ」
「どうか…されましたか?」

 ラズールが手を伸ばして僕の銀髪を撫でる。
 僕は無言で俯いた。
 ラズールに話すべきかどうか。身体が弱っているラズールに、これ以上負担はかけたくなかったけど、黙っていてもいずれ耳に入るだろう。それならば僕の口からちゃんと話しておきたい。
 僕は顔を上げてラズールと目を合わせると、銀髪を撫でる手を握った。

「ラズール、黙って最後まで聞いて。バイロン国が攻めてきた。イヴァル帝国民が国境沿いの村の採掘場の石を盗んだことを理由に掲げて。でもあの盗難を仕組んだのはバイロン国側だ。我が国に攻め入る理由を作るために卑劣な手を使ったんだ。そして今、国境沿いの村が攻められている。こうしている間にも領地が奪われ、民の命が脅かされている。だから…決めたんだ。僕は戦うと」

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