銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 声の大きいトラビスが、静かに話す時ほど怖いものはない。
 俺は進み始めた側近の男に続いて、馬を歩かせる。
 トラビスが少し遅れてついてくる。今はフィル様の治癒が先だと心得ているのだろう。しかし斬った者に対しての怒りで恐ろしい形相になっている。きっとフィル様を一人にした自分にも怒っているに違いない。
 第二王子とその側近がいるから大丈夫だとは思うが、ここは敵国。フィル様の治癒を終えて国に戻る時に、トラビスがいてくれれば心強い。
 この先の段取りを考えていると、いつの間にかトラビスが隣に並んで俺を見ていた。

「なんだ?」
「ラズール、今回のこと、俺はどんな罰でも受けるつもりだ」
「それならば、命をかけてフィル様をイヴァル帝国に連れて帰れ」
「もちろんだ」

 まだ降り続ける雨音で、俺達の会話は他の者には聞こえない。

「ところで追手はどうした」
「捕まえた。追手を気絶させたちょうどその時に、レナードが現れたぞ。だからレナードに預けた。先に国境に向かっている。レナードはおまえと一緒に来てたのだな」
「ああ。イヴァルの国境沿いには軍を残してある。フィル様の治癒が終わり次第、急ぎ国境へ向かう。第二王子が邪魔をするとは思えないが、こっそりと抜け出すぞ」
「…邪魔をされるかもしれないから、その方がいい。今のリアム王子は、フィル様と出会ってからの記憶がない」
「なんだと?」

 少し大きな声を出してしまったと、慌てて口をつぐむ。しかしトラビス以外には聞こえなかったようで、誰もこちらを気にしていない。
 俺は腕の中のフィル様の白い顔を見て、胸を痛めた。第二王子のことで辛い想いをされたのではないかと、苦しくなった。
 トラビスが話し続ける。

「レナードから聞いてないのか?」
「…俺はフィル様が届けてくださった薬で熱が下がると、すぐに城を出てきた。そして戦場にいたレナードからフィル様が捕虜になったと聞いて、ただひたすら馬を走らせてきた。聞く暇などなかった」
「そうか…。このことも詳しくはフィル様の治癒を終えてからだ。ラズール、魔法でフィル様を暖めているか?」
「もうやってる」
「疲れたなら俺が交代するぞ」
「問題ない。フィル様のためならなんでもできる」
「おまえはそういう奴だったな」

 トラビスが辛そうにフィル様を見て、後ろにさがる。
 馬に乗ってすぐにフィル様の服を乾かした。そして雨に濡れないよう俺とフィル様の身体を透明の膜で覆い、一定の温度で暖め続ける魔法を使っている。だがフィル様の身体は冷たいままだ。ずっと小さく震えている。
 俺の体力や魔力が減ることなど、どうでもいい。フィル様さえ助かれば、俺の命だって喜んで差し出す。だからどうか神様、フィル様を助けてくれ。呪われた子だと言われて辛い思いをし続けてきたこの方を助けてくれ。
 俺はいるかもわからない神に祈り、ふと気づく。
 そういえばなぜ、フィル様の腕は斬れた?俺が刺した時は刃を弾かれたのに。なぜだ?

 
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