銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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第五章

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 庭に設けられた東屋の机の上に、お茶とお菓子と軽食が並べられている。ラズールが使用人に命じて、僕が着く前に用意させたのだ。
 ラズールに手を引かれて椅子に座る。僕の隣に立つラズールにも座るように言うと、頭を下げて僕の向かい側に座った。

「こうしてると懐かしいね。子供の頃、母上がいない時に二人でお茶を飲んだね」
「そうですね。楽しかったですよ」
「ふふ、僕も。必ず刺客に襲われて大変だったけど。でも…不思議なんだけど、王となった今の方が襲われなくて平和だ…。子供の頃は、誰に狙われてたんだろう?」
「……さあ。俺もわかりません。しかし狙われなくなったのは、いいことではありませんか。もちろん油断してはいけませんが」

 僕は良い香りのお茶をひと口飲むと、ずっと優しい目で僕を見てくるラズールの後ろの花に目をとめた。カップを置いて席を立ち、ラズールに近づく。
「どうされました?」と驚くラズールの横を通り過ぎると、紫色の小さな花に手を伸ばした。

「これ…なんて名前の花だろう。キレイな色で、好きだな」
「…そうですか?俺は、隣の赤い花の方がキレイだと思います」
「ホントだ。これもキレイだね」

 腰を曲げて花の匂いを嗅ごうと顔を近づけた。その瞬間、ズキンと頭が痛くなり、その場に座りこんでしまう。

「あっ…痛…」
「フィル様!」

 ラズールが素早く僕の肩を抱きしめて「どうしました?」と聞く。

「ごめん…大丈夫だよ。少し…頭が痛くなっただけ…」
「部屋に戻りますか?」
「すぐに治るから…ここにいたい。ダメ?」
「…また痛くなったら、すぐに戻ると約束してくださいますか?」
「うん…する」
「わかりました。ではお茶の続きをしましょうか」
「ありがとう…」

 ラズールか困ったように笑い、僕を軽々と抱き上げて椅子に座らせた。 
 頭痛はほんの一瞬で、もう大丈夫だ。頭を揺らすと少しだけ痛いけど、花を見てお茶を飲む余裕はある。
 小鳥のさえずりを聞きながら、好きな焼き菓子を食べていると、庭を横切るネロとトラビスを見つけた。
 僕が目覚めてから、トラビスとネロが一緒にいる所をよく見かける。ネロを見張る役目があるから一緒にいるのですとトラビスが話してたけど。
 僕は手を上げて二人を呼んだ。
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