銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 しばらく壁伝いに歩き、建物と建物の細い隙間に身体を潜りこませて進む。
 あまり人を見かけないから順調に進めている。

「すんなりたどり着けそうだね」

 そうゼノに言うと、ゼノが振り向いて小さな声で答えてくれる。

「この時刻は会議や鍛錬が行われていますから気づかれにくい。それに使用人達も食事の後片付けや掃除で忙しいはずです。もちろん不審者は、王城に入る前に気づかれますが」
「この時刻に鍛錬?」
「イヴァルでは違うのですか?」
「うん、朝に会議はあるけど、鍛錬の時刻は決まっていない。そうだよねラズール?」
「はい。しかし最近は、トラビスが鍛錬の時刻を決めて、騎士達を鍛えていたはずですよ」
「…だから僕が昼に鍛錬場に行っても誰もいなかったんだ」
「そうですよ。おかげでたくさん練習できたでしょう?」
「うん…」
「しっ…!静かに」

 いきなりゼノが足を止めた。そして壁に背中をつけて、僕とラズールにも同じようにしろと手で合図をする。
 僕は壁に張りついて息を殺す。 
 しばらくゼノが様子をうかがっていたが、「もう大丈夫です」と言って建物の隙間から出た
 ゼノの後に続きながら聞く。

「誰かいたの?」
「はい。クルト王子の配下の騎士です。北の方角から来たので、リアム様の牢の周辺を見回っていたのかもしれません」

 僕はハッとする。
 そうだ。クルト王子も王城に戻ってきてる。彼は今、どのような状況下に置かれているのか。イヴァルの王との婚姻を果たせず、攻めることもできずに戻ってきたのだ。当然、王に咎められるのでは?そうなるとリアムは牢から出してもらえるのではないか?
 どんどん建物の北側へと向かいながら、僕の胸が期待で高まってきた。早足で進むゼノの服の裾を掴んで引っ張る。
 すぐにゼノが止まって振り向いた。

「どうかされましたか?」
「ねぇ、今回のことでクルト王子も罰を与えられるんじゃ…」
「ああ、そうですね。今回の遠征は失敗しましたからね」
「じゃあ、クルト王子が牢に入れられる代わりに、リアムが出されたりしない?」
「ないです。リアム様は敵国の王を逃がしたのですから、罪の重さが違います。クルト王子は、せいぜい謹慎ですよ」
「そう…」
「きつい言い方をして申しわけありません。あの時、リアム様がしなくとも、俺がフィル様をイヴァルへ戻すつもりでしたよ」
「うん…わかってる。リアムが牢から出してもらえないなら、やはり僕達が助けなきゃ。ゼノ、ラズール、早く行こう」
「もちろん」
「はい」

 三人で頷きあって再び進み出す。
 黙々と進み続け、ようやくリアムがいる建物が見えた。
 扉の前に警備の兵が二人いる。

「お任せを」

 ラズールが小袋から出した粉を風に乗せて飛ばすと、二人の兵がその場に座り込んで動かなくなった。
 ゼノが興味津々にラズールの手のひらを見ている。

「ラズール殿、それは採掘場で俺に使ったものでは?」
「そうだ。あの時は悪かった」
「過ぎたことだ。しかしその粉は便利だな」
「俺を助けてくれた薬の礼に、後で分けてやる」
「本当か?ありがとう。持つべきものは他国の友だな」
「友…」

 なんとも言えない顔で呟くラズールに、僕は「よかったね」と笑う。
 ラズールが寂しくないように、ラズールのことを思ってくれる人が増えたら嬉しいな。

 


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