銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 フィル様はしばらくうつむいていたけど、何か思い出したように顔を上げた。

「ネロ、僕、ネロに茶葉を持ってきたんだ。使用人に渡したから、寝る前に飲んでみて」
「茶葉?美味いの?」
「うん、美味しいよ。それにさわやかな風味と匂いで、頭の中がすっきりするし疲れもとれてよく眠れるんだよ。僕も飲んでる。王様をやってると、すごく疲れるでしょ?だから少しでもネロを癒してあげたくて…」
「フィルは相変わらず優しいな。ありがとう。今夜から飲むよ」
 
 フィル様が安心したように頷いた。
 きっとイヴァルを離れてから、ネロのこと国のことを心配し続けていたに違いない。お優しい方だから。国を離れたフィル様を悪くいう者もいたが、俺が黙らせた。
 勝手なことを言うな。何も知らないくせに。フィル様がどれほど辛い想いをしてきたか。どれほど命を削ってきたか。それでも文句も言わずに頑張ってきたのだ。
 呪いから解放される時に、フィル様は一度死んだ。その時にイヴァルのフィル様は死んだのだ。だからもう、国にとらわれずに自身の幸せだけを願ってほしい。俺はそう望んでいたのだが、フィル様をこの国に縛りつける役目を担ってしまった。
 フィル様がバイロン国で暮らし始めて数ヶ月が経った頃、ネロがフィル様をグランドデュークに任命した。いつでも自由にイヴァルの王城に戻れるようにとの配慮だ。頭の硬い大宰相や大臣達は渋っていたが、俺やトラビスやレナードは喜んで賛成した。そしてそれをバイロンにおいてフィル様の後見人のような存在の、ラシェット公爵に伝えるために昼夜を問わず馬を走らせた。
 グランドデューク任命を聞いたフィル様が、どのような反応をされたのかわからない。だがネロの元へ礼状が届き、後日会った時に「嬉しい」と話していたので喜んでいると信じて疑わなかった。
 しかし月日が経つにつれて俺は悩み始めた。任命は間違っていたのでは?皆が賛成でも、俺だけは反対しなければいけなかったのでは?生まれた瞬間から呪いで苦しまれたフィル様。その元凶であるイヴァルから離れて、愛する人と新しい人生を歩まれているのに、またイヴァルに縛り付けてしまったのでは?
 俺の中に疑問や後悔がグルグルとうずまき、いつかフィル様の想いを聞こうと思っていた。今がその時かもしれない。この部屋には、現国王のネロや、近い将来、王を支えていく者達が集っている。

「フィル様」
「うん、なに?」

 俺はフィル様の正面で片膝をつき、フィル様の両手を握りしめた。
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