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聖女の旅行
ウォータースライダー!
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リリンと一緒に浮き輪で遊んでいたクララは、ある事に気が付いた。
「あれ? サーファさんは、泳がないんですか?」
こんな風に遊んでいる中で、サーファはずっとプールに脚を浸けるだけで、中には入っていなかった。基本的に、クララ達を見ているわけでもなく、周囲を見回している。
「いえ、そろそろ泳ぐはずです。周囲を警戒してもらっているのです。あれもサーファの仕事ですので」
「なるほど」
そんな話をしていると、サーファが、クララ達に向かって手を振り始めた。
「何も問題無かったようですね。次は、流れるプールに行きましょう」
「はい」
サーファと合流したクララ達は、流れるプールの方に移動する。スロープを使って、中に入っていく。深さは、先程のプールと同じくらいの深さとなっている。
「クララさん、絶対に手を離さないようにして下さい」
「はい」
プールの中に入ったクララは、身体で水の流れを感じていた。その流れで、身体が持っていかれそうになるが、リリンが支えてくれたため、ギリギリで耐える事が出来た。
「リ、リリンさん……」
「大丈夫ですよ。しっかりと掴まっていて下さい」
リリンは、クララが流されないようにしっかりと支える。
「こんな流れのある場所に行く予定はありませんが、こういうところもありますので、覚えていて下さい」
「は、はい」
「それでは、こちらに乗って下さい」
リリンは、クララを持ち上げて、サーファがプールに浮かべて支えているマットに乗せる。クララは、上手くバランスが取れず、少し慌てる。
「クララさん、落ち着いてバランスを取って下さい」
「は、はい」
サーファと同じくリリンも一緒に支えたため、ようやくクララもバランスを取れるようになってきた。
「サーファ、そっちの浮き輪を繋げてしまいましょう」
「分かりました」
サーファは、紐でマットと浮き輪を繋げる。これで、流れるプールの中でも離れる事は無いだろう。その浮き輪の上にサーファが乗り、マットの方にリリンも乗る。支える人がいなくなったため、マットと浮き輪が流れ始める。
「わわわわ……」
「大丈夫です。そのままゆっくりと横になって下さい」
クララは、言われたとおりに横になる。同じように、リリンも一緒に横になった。
「これが流れるプールの楽しみ方の一つです。ただただ流されるだけ。それでも、結構楽しいものですよ」
「そうですね。サーファさんは、大丈夫ですか?」
「ん? 楽しんでるよ。ちょっと浮き輪が小さいけど」
サーファは、手で軽く漕いで、クララ達の隣に付ける。
「クララちゃんの方こそ、水には慣れた?」
「ちょっと楽しくなってきました」
「良かった。これなら、海も楽しめそうですね」
「ええ、そうですね」
そんな調子で流されていると、クララの視界に一際高い山が映る。その山からは、細い煙が上がっていた。
「あの山って、宿の裏にある山ですか?」
「いえ、あれはさらに奥の方にある火山ですね。私達の宿の裏にある山は、ここからでは見えませんね」
「へぇ~……あれが火山なんですね。てっきり燃えているのかと思ってました」
火山を実際に見た事がないクララは、その言葉から燃えている山を想像していた。
「ある意味では合っています。火山は、マグマと呼ばれるものが噴き出す山の事を指します。あの山も時折マグマが噴き出して来ます」
「へぇ~、マグマって何ですか?」
「簡単に言えば、液状になった岩です。かなり熱いもので、触ってしまえば火傷どころではないでしょう。仮に落ちてしまえば、確実に死んでしまいますね。もしかしたら、痛みを感じる暇もないかもしれません」
「こ、怖いですね」
クララが不用意に触らないように、念入りに危険性を伝えた結果、目論見通りになった。これで、不用意にマグマに近づくという事もないだろう。
「でも、カタリナ様と同じ龍族の方々は、マグマの中にお風呂感覚で入ったりするんだって」
「うぇっ!?」
リリンの話でマグマを怖いものと認識していたクララは、そんなものにお風呂感覚で入るという話を聞いて、目を見開く。
「魔族の中には、特定の環境に適応した種族もいます。ただ、龍族あらゆる環境に適応するので、氷山が浮かぶ海でもお風呂感覚で入ったりするそうです。魔王様と同じ鬼族の方々は、マグマは無理ですが、炎の中を平然と歩いて行けるらしいです」
「へぇ~、魔族の人達って、本当に凄いですね。人族とは違うっていうのがよく分かります」
そんな事を話しながら、流れるプールを流されていると、クララは、火山の他に気になるところを見つけた。
「リリンさん、あれって何ですか?」
「ああ、あれはウォータースライダーですね。水が流れていて、かなりの速度が出ます。やってみますか?」
「ちょっと気になります」
「怖がりなクララさんが珍しいですね」
「えっ……怖いものなんですか?」
ただただどんなものだろうという風に気になっていたクララは、リリンの言葉で怖いのかと思い始めていた。
「気になるなら一緒に行ってみる? もしかしたら、一緒に滑られるかもしれないし」
「サーファさんと一緒なら行けると思います」
「では、行ってみましょう。サーファ、向こうに寄せますよ」
「はい」
リリンとサーファは、浮き輪から降りて、クララの乗るマットをプールサイドに寄せていく。
「クララさん、そのまま上がって下さい」
「あ、はい」
二人の支えを信じて、クララは、マットからプールサイドに飛び移る。その後、サーファが先に上がって、リリンからマットを受け取り、浮き輪も受け取ったのを確認して、リリンも上がる。
「では、ウォータースライダーの方に行きましょう」
クララ達は、ウォータースライダーの方に向かって行った。滑る場所に向かうには階段を使う事になるのだが、その入口に説明が書かれた看板が置かれていた。
「一応、二人一組でも滑られるようですね。楽しんできて下さい」
「い、行ってきます」
クララは、先程流れるプールで見た時には、あまり実感出来なかったウォータースライダーの高さに圧倒されていた。そして、他の客の悲鳴が聞こえて尻込みし始める。そんなクララの背中をサーファが押していく。
「ほらほら、行こう、クララちゃん」
クララは、サーファに押されて、どんどんと上がっていった。
(小さいものなら、魔王城の浴場に付けられるでしょうか? この体験で、クララさんが気に入ったら、ライナーに相談……の前にカタリナ様達に相談しましょう)
リリンは、下からクララとサーファを見守った。
クララは、サーファに背中を押されながら一番上まで上がった。
「結構高いですね……」
「その分長い間滑っていられるよ。あっ、二人で滑ります」
係員に二人一緒に滑る事を伝えて、滑る準備をする。サーファの前にクララが座って、サーファが後ろから抱きしめる形をとる。
「そのまま滑って頂いて大丈夫です。滑り終えたら、速やかにプールから上がってください」
「分かりました。それじゃあ、行くよ、クララちゃん!」
「え!? まだ心の準備がぁっ!?」
クララの返事を聞く前にサーファが出発させてしまう。クララ達は、水と一緒に流されていく。
「ひゃっほ~!!」
ぐねぐねと曲がるウォータースライダーを二人で滑っていく。最初は、その勢いに恐怖を感じていたクララだったが、すぐ後ろのサーファが、楽しそうに声を上げるので、段々と楽しくなっていった。
そして、ウォータースライダーの終わりにあるプールに二人揃って入っていく。プールの中は、サーファの太腿くらいの深さなので、そこまで深くはない。
それでもサーファは、クララを抱き上げてプールから上がり、そのまま。
「ふぅ……どうだった?」
「ちょっと怖かったけど、それ以上に楽しかったです」
「良かった。全然声を上げないから、気絶でもしてるのかと思っちゃった」
「さすがに、声を上げる事は出来なかったです。ぐるぐる変わる景色とかで、それどころじゃなくて」
「まぁ、結構速かったもんね」
そんな二人の元にリリンがやってくる。
「楽しそうでしたね。クララさんも楽しかったですか?」
「はい!」
「そうですか」
リリンはそう言って、少し考え込み始めた。さっき考えていた事を実行に移すか考えているのだ。
「どうしたんですか?」
リリンがそんな事を考えているなんて知らないクララは、リリンが考え込んだのを見て、首を傾げる。
「いえ、何でもありません。楽しかったのでしたら、別のところにも行きますか? 後、二種類程あるみたいですよ。一回転とかもあるみたいですね」
「一回転? 横にですか?」
「いえ、縦に一回転のようです」
「うぇっ!? それって、死んじゃうんじゃないんですか?」
「どうなんでしょうか。遠心力……いや、魔法によって水を沿わせているようですね。そう考えると、人も同じように吸い付けられるのではないでしょうか?」
一回転しているところをジッと見てみると、水滴が一滴も落ちていない事が分かる。そこから、リリンは、一回転するウォータースライダーが、魔法を利用して作られていると考えた。実際、魔法によって、ウォータースライダーに沿うように滑る事が出来る。
「うぅ……ちょっと怖いですけど、興味はあります」
「では、参りましょう」
「今度は、リリンさんが一緒に滑ってあげて下さい。私は、下から見ています」
「そうですか? 分かりました」
リリンは浮き輪をサーファに預けて、クララと一緒に一回転ウォータースライダーに上っていった。リリンと並んで上がっている時、クララは、ある事に気付いた。
「そういえば、腰に布を巻いたままですけど、大丈夫なんですか?」
「大丈夫ですよ。流れるプールでも、平気だったでしょう?」
「確かに……でも、何で流されないんですか?」
「気合いです」
「え!?」
まさかの理由に、クララは驚いてリリンを見る。そんなクララに対して、リリンは、小さく吹き出す。
「冗談です。固定具を付けているので、自分の意思で外そうとしない限り、このまま脚に纏わり付く形になります。多少の融通は利くので、大して邪魔にはなりません」
「へぇ~、便利ですね」
そんな話をしている間に、入口に着いた。
「二人で滑ります」
リリンがそう伝えて、サーファと同じようにクララを抱える。
「では、行きますよ」
「あっ、ちょっと待って下さっ!!」
またもやクララの心の準備を待たず、出発させられてしまう。先程のウォータースライダーよりも速いスピードで滑っていく。尚且つ、スライダーの長さと複雑さも上がっているので、先程よりも迫力満点のものとなっていた。
順調に滑っていたクララ達は、一回転のエリアに入る。視界が上下逆さまになり、すぐに元に戻る。身体が浮くかのような感覚がして、一瞬放り出されるのではないかと心配になったが、そんな事もなく滑りが続いた。
そして、最終的に二人はコースから投げ出された。
「え~!?」
「あそこで途切れていたようですね。着水しますよ」
「えっ!?」
リリンは、クララの鼻を塞いで、しっかりと抱える。そして、自分の背中から入水した。破裂音のような音がする。サーファが慌てて、二人に駆け寄っていく。
「リ、リリンさん!? 大丈夫ですか!?」
サーファは、クララを抱えて水から上がったリリンを心配する。あんな入水をしたら、背中がかなり痛いはずだからだ。
「ええ、若干ヒリヒリとしますが、ギリギリで身体強化が間に合いました」
「それは良かったです。まさか、放り出される系のものとは思いませんでしたね」
「きちんと見ておかなかったのは、失態でした。クララさんは、大丈夫ですか?」
先程から一言も喋らず顔を伏せているクララを心配して、リリンが声を掛ける。さすがに、一回転どころか放り出されてしまえば、楽しいよりも恐怖の方が勝ると思ったからだ。
「あはははははは!!」
クララは、笑い声を上げる。そんなクララを見て、リリンとサーファは、きょとんとしてしまう。まさか、ここまで笑うとは思わなかったからだ。
「楽しかったですか?」
「はい。やっぱり怖い感じもありましたけど、楽しかったです!」
「それは良かったです。では、もう一つの方も滑りますか?」
「はい!」
その後、もう一つのウォータースライダーをサーファと一緒に滑り、また流れるプールに行き、今度は浮き輪の方に乗って流された。一人で流されるのは、少し怖かったが、さっきの経験から少し恐怖も紛れていた。
昼過ぎまで遊び続けた結果、クララは遊び疲れてリリンの背で眠ってしまった。
「クララちゃんは、水に慣れたでしょうか?」
「そうですね。ある程度は慣れたと思います。これなら海に行っても、問題はないでしょう。後は、魔法を一つ復習しないとですね」
「魔法?」
「ええ、必要になるかは分かりませんが、万が一という事もありますので」
「?」
魔法に詳しい訳では無いサーファは、あまりピンと来ていなかった。だが、リリンが必要になるかもしれないと言うのであれば、必要なのだろうと考えた。
夕方頃に起きたクララは、リリン達と夕食兼昼食を食べた。そして、サーファが洗い物をしている間に、リリンと一緒にお風呂に入っていた。
「風玉ですか? 確か、自分の周りを風で覆う魔法ですよね?」
「はい。よく覚えていましたね」
リリンに褒められて、クララは、嬉しそうに笑う。
「でも、風玉を何に使うんですか?」
「風玉は、その応用として、水中での活動に使う事が出来ます。地上で使用する事で、ある程度の空気を纏ったまま潜れるというものです。出力を調整すれば、長時間の活動も出来ます。人魚族の街に出向く事になれば、必要になりますので、今の内に使える様にしておければと」
「なるほど……じゃあ、魔法が使えないサーファさんは、お留守番になっちゃうんですか?」
人魚族の街に行くのに必要という事は、必然的にそうなってしまう。
「いえ、私の風玉に入ってもらいますので、一緒に行く事は出来ます」
「それなら安心です。でも、どこで練習するんですか?」
「ちゃんと制御出来れば、後は出力の問題ですので、居間でやっていただいて大丈夫です。お風呂から上がったら、早速練習しましょう」
「はい!」
お風呂から上がったクララは、リリンと一緒に風玉の練習をしてから眠りについた。
「あれ? サーファさんは、泳がないんですか?」
こんな風に遊んでいる中で、サーファはずっとプールに脚を浸けるだけで、中には入っていなかった。基本的に、クララ達を見ているわけでもなく、周囲を見回している。
「いえ、そろそろ泳ぐはずです。周囲を警戒してもらっているのです。あれもサーファの仕事ですので」
「なるほど」
そんな話をしていると、サーファが、クララ達に向かって手を振り始めた。
「何も問題無かったようですね。次は、流れるプールに行きましょう」
「はい」
サーファと合流したクララ達は、流れるプールの方に移動する。スロープを使って、中に入っていく。深さは、先程のプールと同じくらいの深さとなっている。
「クララさん、絶対に手を離さないようにして下さい」
「はい」
プールの中に入ったクララは、身体で水の流れを感じていた。その流れで、身体が持っていかれそうになるが、リリンが支えてくれたため、ギリギリで耐える事が出来た。
「リ、リリンさん……」
「大丈夫ですよ。しっかりと掴まっていて下さい」
リリンは、クララが流されないようにしっかりと支える。
「こんな流れのある場所に行く予定はありませんが、こういうところもありますので、覚えていて下さい」
「は、はい」
「それでは、こちらに乗って下さい」
リリンは、クララを持ち上げて、サーファがプールに浮かべて支えているマットに乗せる。クララは、上手くバランスが取れず、少し慌てる。
「クララさん、落ち着いてバランスを取って下さい」
「は、はい」
サーファと同じくリリンも一緒に支えたため、ようやくクララもバランスを取れるようになってきた。
「サーファ、そっちの浮き輪を繋げてしまいましょう」
「分かりました」
サーファは、紐でマットと浮き輪を繋げる。これで、流れるプールの中でも離れる事は無いだろう。その浮き輪の上にサーファが乗り、マットの方にリリンも乗る。支える人がいなくなったため、マットと浮き輪が流れ始める。
「わわわわ……」
「大丈夫です。そのままゆっくりと横になって下さい」
クララは、言われたとおりに横になる。同じように、リリンも一緒に横になった。
「これが流れるプールの楽しみ方の一つです。ただただ流されるだけ。それでも、結構楽しいものですよ」
「そうですね。サーファさんは、大丈夫ですか?」
「ん? 楽しんでるよ。ちょっと浮き輪が小さいけど」
サーファは、手で軽く漕いで、クララ達の隣に付ける。
「クララちゃんの方こそ、水には慣れた?」
「ちょっと楽しくなってきました」
「良かった。これなら、海も楽しめそうですね」
「ええ、そうですね」
そんな調子で流されていると、クララの視界に一際高い山が映る。その山からは、細い煙が上がっていた。
「あの山って、宿の裏にある山ですか?」
「いえ、あれはさらに奥の方にある火山ですね。私達の宿の裏にある山は、ここからでは見えませんね」
「へぇ~……あれが火山なんですね。てっきり燃えているのかと思ってました」
火山を実際に見た事がないクララは、その言葉から燃えている山を想像していた。
「ある意味では合っています。火山は、マグマと呼ばれるものが噴き出す山の事を指します。あの山も時折マグマが噴き出して来ます」
「へぇ~、マグマって何ですか?」
「簡単に言えば、液状になった岩です。かなり熱いもので、触ってしまえば火傷どころではないでしょう。仮に落ちてしまえば、確実に死んでしまいますね。もしかしたら、痛みを感じる暇もないかもしれません」
「こ、怖いですね」
クララが不用意に触らないように、念入りに危険性を伝えた結果、目論見通りになった。これで、不用意にマグマに近づくという事もないだろう。
「でも、カタリナ様と同じ龍族の方々は、マグマの中にお風呂感覚で入ったりするんだって」
「うぇっ!?」
リリンの話でマグマを怖いものと認識していたクララは、そんなものにお風呂感覚で入るという話を聞いて、目を見開く。
「魔族の中には、特定の環境に適応した種族もいます。ただ、龍族あらゆる環境に適応するので、氷山が浮かぶ海でもお風呂感覚で入ったりするそうです。魔王様と同じ鬼族の方々は、マグマは無理ですが、炎の中を平然と歩いて行けるらしいです」
「へぇ~、魔族の人達って、本当に凄いですね。人族とは違うっていうのがよく分かります」
そんな事を話しながら、流れるプールを流されていると、クララは、火山の他に気になるところを見つけた。
「リリンさん、あれって何ですか?」
「ああ、あれはウォータースライダーですね。水が流れていて、かなりの速度が出ます。やってみますか?」
「ちょっと気になります」
「怖がりなクララさんが珍しいですね」
「えっ……怖いものなんですか?」
ただただどんなものだろうという風に気になっていたクララは、リリンの言葉で怖いのかと思い始めていた。
「気になるなら一緒に行ってみる? もしかしたら、一緒に滑られるかもしれないし」
「サーファさんと一緒なら行けると思います」
「では、行ってみましょう。サーファ、向こうに寄せますよ」
「はい」
リリンとサーファは、浮き輪から降りて、クララの乗るマットをプールサイドに寄せていく。
「クララさん、そのまま上がって下さい」
「あ、はい」
二人の支えを信じて、クララは、マットからプールサイドに飛び移る。その後、サーファが先に上がって、リリンからマットを受け取り、浮き輪も受け取ったのを確認して、リリンも上がる。
「では、ウォータースライダーの方に行きましょう」
クララ達は、ウォータースライダーの方に向かって行った。滑る場所に向かうには階段を使う事になるのだが、その入口に説明が書かれた看板が置かれていた。
「一応、二人一組でも滑られるようですね。楽しんできて下さい」
「い、行ってきます」
クララは、先程流れるプールで見た時には、あまり実感出来なかったウォータースライダーの高さに圧倒されていた。そして、他の客の悲鳴が聞こえて尻込みし始める。そんなクララの背中をサーファが押していく。
「ほらほら、行こう、クララちゃん」
クララは、サーファに押されて、どんどんと上がっていった。
(小さいものなら、魔王城の浴場に付けられるでしょうか? この体験で、クララさんが気に入ったら、ライナーに相談……の前にカタリナ様達に相談しましょう)
リリンは、下からクララとサーファを見守った。
クララは、サーファに背中を押されながら一番上まで上がった。
「結構高いですね……」
「その分長い間滑っていられるよ。あっ、二人で滑ります」
係員に二人一緒に滑る事を伝えて、滑る準備をする。サーファの前にクララが座って、サーファが後ろから抱きしめる形をとる。
「そのまま滑って頂いて大丈夫です。滑り終えたら、速やかにプールから上がってください」
「分かりました。それじゃあ、行くよ、クララちゃん!」
「え!? まだ心の準備がぁっ!?」
クララの返事を聞く前にサーファが出発させてしまう。クララ達は、水と一緒に流されていく。
「ひゃっほ~!!」
ぐねぐねと曲がるウォータースライダーを二人で滑っていく。最初は、その勢いに恐怖を感じていたクララだったが、すぐ後ろのサーファが、楽しそうに声を上げるので、段々と楽しくなっていった。
そして、ウォータースライダーの終わりにあるプールに二人揃って入っていく。プールの中は、サーファの太腿くらいの深さなので、そこまで深くはない。
それでもサーファは、クララを抱き上げてプールから上がり、そのまま。
「ふぅ……どうだった?」
「ちょっと怖かったけど、それ以上に楽しかったです」
「良かった。全然声を上げないから、気絶でもしてるのかと思っちゃった」
「さすがに、声を上げる事は出来なかったです。ぐるぐる変わる景色とかで、それどころじゃなくて」
「まぁ、結構速かったもんね」
そんな二人の元にリリンがやってくる。
「楽しそうでしたね。クララさんも楽しかったですか?」
「はい!」
「そうですか」
リリンはそう言って、少し考え込み始めた。さっき考えていた事を実行に移すか考えているのだ。
「どうしたんですか?」
リリンがそんな事を考えているなんて知らないクララは、リリンが考え込んだのを見て、首を傾げる。
「いえ、何でもありません。楽しかったのでしたら、別のところにも行きますか? 後、二種類程あるみたいですよ。一回転とかもあるみたいですね」
「一回転? 横にですか?」
「いえ、縦に一回転のようです」
「うぇっ!? それって、死んじゃうんじゃないんですか?」
「どうなんでしょうか。遠心力……いや、魔法によって水を沿わせているようですね。そう考えると、人も同じように吸い付けられるのではないでしょうか?」
一回転しているところをジッと見てみると、水滴が一滴も落ちていない事が分かる。そこから、リリンは、一回転するウォータースライダーが、魔法を利用して作られていると考えた。実際、魔法によって、ウォータースライダーに沿うように滑る事が出来る。
「うぅ……ちょっと怖いですけど、興味はあります」
「では、参りましょう」
「今度は、リリンさんが一緒に滑ってあげて下さい。私は、下から見ています」
「そうですか? 分かりました」
リリンは浮き輪をサーファに預けて、クララと一緒に一回転ウォータースライダーに上っていった。リリンと並んで上がっている時、クララは、ある事に気付いた。
「そういえば、腰に布を巻いたままですけど、大丈夫なんですか?」
「大丈夫ですよ。流れるプールでも、平気だったでしょう?」
「確かに……でも、何で流されないんですか?」
「気合いです」
「え!?」
まさかの理由に、クララは驚いてリリンを見る。そんなクララに対して、リリンは、小さく吹き出す。
「冗談です。固定具を付けているので、自分の意思で外そうとしない限り、このまま脚に纏わり付く形になります。多少の融通は利くので、大して邪魔にはなりません」
「へぇ~、便利ですね」
そんな話をしている間に、入口に着いた。
「二人で滑ります」
リリンがそう伝えて、サーファと同じようにクララを抱える。
「では、行きますよ」
「あっ、ちょっと待って下さっ!!」
またもやクララの心の準備を待たず、出発させられてしまう。先程のウォータースライダーよりも速いスピードで滑っていく。尚且つ、スライダーの長さと複雑さも上がっているので、先程よりも迫力満点のものとなっていた。
順調に滑っていたクララ達は、一回転のエリアに入る。視界が上下逆さまになり、すぐに元に戻る。身体が浮くかのような感覚がして、一瞬放り出されるのではないかと心配になったが、そんな事もなく滑りが続いた。
そして、最終的に二人はコースから投げ出された。
「え~!?」
「あそこで途切れていたようですね。着水しますよ」
「えっ!?」
リリンは、クララの鼻を塞いで、しっかりと抱える。そして、自分の背中から入水した。破裂音のような音がする。サーファが慌てて、二人に駆け寄っていく。
「リ、リリンさん!? 大丈夫ですか!?」
サーファは、クララを抱えて水から上がったリリンを心配する。あんな入水をしたら、背中がかなり痛いはずだからだ。
「ええ、若干ヒリヒリとしますが、ギリギリで身体強化が間に合いました」
「それは良かったです。まさか、放り出される系のものとは思いませんでしたね」
「きちんと見ておかなかったのは、失態でした。クララさんは、大丈夫ですか?」
先程から一言も喋らず顔を伏せているクララを心配して、リリンが声を掛ける。さすがに、一回転どころか放り出されてしまえば、楽しいよりも恐怖の方が勝ると思ったからだ。
「あはははははは!!」
クララは、笑い声を上げる。そんなクララを見て、リリンとサーファは、きょとんとしてしまう。まさか、ここまで笑うとは思わなかったからだ。
「楽しかったですか?」
「はい。やっぱり怖い感じもありましたけど、楽しかったです!」
「それは良かったです。では、もう一つの方も滑りますか?」
「はい!」
その後、もう一つのウォータースライダーをサーファと一緒に滑り、また流れるプールに行き、今度は浮き輪の方に乗って流された。一人で流されるのは、少し怖かったが、さっきの経験から少し恐怖も紛れていた。
昼過ぎまで遊び続けた結果、クララは遊び疲れてリリンの背で眠ってしまった。
「クララちゃんは、水に慣れたでしょうか?」
「そうですね。ある程度は慣れたと思います。これなら海に行っても、問題はないでしょう。後は、魔法を一つ復習しないとですね」
「魔法?」
「ええ、必要になるかは分かりませんが、万が一という事もありますので」
「?」
魔法に詳しい訳では無いサーファは、あまりピンと来ていなかった。だが、リリンが必要になるかもしれないと言うのであれば、必要なのだろうと考えた。
夕方頃に起きたクララは、リリン達と夕食兼昼食を食べた。そして、サーファが洗い物をしている間に、リリンと一緒にお風呂に入っていた。
「風玉ですか? 確か、自分の周りを風で覆う魔法ですよね?」
「はい。よく覚えていましたね」
リリンに褒められて、クララは、嬉しそうに笑う。
「でも、風玉を何に使うんですか?」
「風玉は、その応用として、水中での活動に使う事が出来ます。地上で使用する事で、ある程度の空気を纏ったまま潜れるというものです。出力を調整すれば、長時間の活動も出来ます。人魚族の街に出向く事になれば、必要になりますので、今の内に使える様にしておければと」
「なるほど……じゃあ、魔法が使えないサーファさんは、お留守番になっちゃうんですか?」
人魚族の街に行くのに必要という事は、必然的にそうなってしまう。
「いえ、私の風玉に入ってもらいますので、一緒に行く事は出来ます」
「それなら安心です。でも、どこで練習するんですか?」
「ちゃんと制御出来れば、後は出力の問題ですので、居間でやっていただいて大丈夫です。お風呂から上がったら、早速練習しましょう」
「はい!」
お風呂から上がったクララは、リリンと一緒に風玉の練習をしてから眠りについた。
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