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聖女の旅行

人魚族の代表者

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 翌日。クララ達は、予定通り海に来ていた。最初は、多くの人が利用している砂浜を見に行った。

「おぉ……プールとは大違いですね」

 多くの人が遊んでいる砂浜を見て、クララからそんな感想が出た。プールを見た時は、多種多様のプールがあり、驚いたという感想だが、海を見た時は、人の多さに驚いていた。

「そうですね。それだけこの海が人気だという事です。本来であれば、私達もここで遊ぶ事になりますが、今回は、全く別の場所になります。馬車が出ますので、乗り場まで行きましょう」
「はい」

 クララ達は、定期馬車を使ってガーランド達が利用している海岸に移動した。ここでの馬車は、ナイトウォーカーではなく普通の馬が引いていた。大陸を移動するときは重宝するナイトウォーカーだが、島内の移動においては、速度が活かしきれないので、利用されていない。
 十分程移動すると、先程とは全く違う人のいない砂浜に着いた。

「全然人がいませんね」
「魔王様の私有地ですから。勝手にここで泳げば、処罰されます。私達は許可を取っていますから、その心配はありません」
「なるほど。ところで、どこで着替えるんですか?」

 馬車から降りた場所から見た砂浜には、特に建物が建っているように見えない。そのため、クララからは着替える場所がないように見えていた。

「そちらの岩陰に、小さな更衣室があるはずです。そこで着替えます」
「そうなんですか。良かった……外で着替えるのかと思っちゃいました」
「人通りが少ないとはいえ、さすがにそのような事はしませんよ」

 仮にクララ達が外で着替えなければいけないとなれば、元々使っていたガーランド達も外で着替えるという事になる。さすがに、魔王達にそんな真似をさせるはずもなく、きちんと更衣室が建てられている。
 クララ達は、更衣室で昨日着た水着に着替える。昨日のうちに、リリンが手洗いして、干しておいたので、しっかりと乾いている。そして、クララのために浮き輪も用意している。

「まずは、海の中に入ってみましょう」
「はい」

 リリンの手を握って、クララは海の中に入る。波打ち際に来ると、波によって運ばれた砂が足先に積もる。ちょっとくすぐったそうにしながら、どんどんと進んで行き、腰まで浸かる深さに来た。

「おぉ……何かプールとは違う感じがします」
「そうですね。クララさんが遊ぶのであれば、このくらいの深さで良いでしょう。ここから先に行きますと、一気に深くなったりして危険ですから」
「分かりました」
「はい。クララちゃん。浮き輪だよ」
「ありがとうございます」

 サーファが持ってきてくれた浮き輪に乗って、ぷかぷかと浮かぶ。

「何だか、船の先端にいる時みたいです」
「波で揺れますから。少し大きな波が来ますよ」
「え? わぷっ!?」

 リリンの予告の通り、大きな波が来た。クララは、波を被りながら、砂浜まで戻された。

「クララちゃん、大丈夫?」
「大丈夫です……うへぇ……しょっぱい……」

 波を被った事で、初めて海の水を口にした。そして、その異常なしょっぱさに、顔を歪めていた。

「これが海水というものです。あまり飲んではいけませんよ。水分を摂れると勘違いする人もいますが、逆に水分を奪われる結果となるそうですから」
「そうなんですか? でも、なんでなんですか?」
「入ってきた海水を薄めようとして、体内の水分を使うという理由だったはずです」
「へぇ~、リリンさんって何でも知っていますよね。凄いです」

 質問した事はほとんど答えてくれるので、クララは、リリンが何でも知っている凄い人なのだと認識していた。
 それに対して、リリンは首を横に振る。

「いえ、今日のような日のために勉強しておいただけです。クララさんの質問には、なるべく答えられるようにしたいので」

 リリンはそう言って、クララに微笑む。

「それは、ありがとうございます」

 クララは、リリンの気遣いを嬉しいと思い、顔を少し紅潮させた。そんなクララの頭を撫でながら、リリンは浮き輪ごとクララを海に戻す。そして、リリンとサーファでクララを挟み、浮き輪を押して二人の間を行き来させる。ただゆらゆらと行き来しているだけなのに、クララはとても楽しそうに笑っていた。
 そんな遊びをしていると、クララの浮き輪が二人の間でビタッと止まる。

「あれ? ごめん、クララちゃん。押す力が弱かったみたい」
「いえ……ん?」

 クララは、浮き輪を掴んでいる手に何かが触れたのを感じた。クララが触れた何かを確認するために、そちらへと視線を移すと、海中に誰かの顔があった。

「うわっ!?」

 驚いたクララは、浮き輪の上で身を捩ったため、そのままひっくり返ってしまう。泳げないクララは、海中で混乱して、藻掻く。だが、それで水面に上がる事も出来ず沈んでいた。

「クララさん!」

 リリンが急いで駆け寄ろうとすると、その前にクララの身体が水面にあげられる。

「あなた泳げないのね。それは、悪い事をしたわ」
「けほっ……けほっ……ありがとうございます」
「いいえ、脅かしちゃった私が悪いもの」

 クララを助けてくれたのは、下半身が魚の尾になっている人魚族の女性だった。緑色の髪を背中まで伸ばして、紺色の優しそうな目で、クララを見ている。クララをしっかりと抱えており、地面に尾びれが着いていないにも関わらず、一切沈む雰囲気がない。そのくらい安定して、水面に維持出来る程の泳力を持っているのだ。

「メイリー」
「あら、リリンちゃん、久しぶりね。あなたが、この子のお目付役っていうのは本当だったのね。それにしても魔聖女ちゃんは、可愛いわね。このまま連れ帰って良いかしら?」
「駄目に決まっているでしょう」
「あらま、残念」

 下手すると、四回目の誘拐になりかねないので、リリンはクララに浮き輪を被せて、メイリーから離す。

「えっと……この方が、ここを治めているっていう」
「そうよ。メイリー・マーメジア。ここら辺一帯を治めているわ。わざわざここまで足を運んでくれてありがとうね。デズモニアには、私達が通れるような水路がなくて、歓迎パーティーに出られなかったのよ。人魚族は、水が無いと鱗が乾いて、凄く苦しくなっちゃうのよね。まぁ、その分、地上でも水中でも呼吸が出来るっていう他の種族よりも優れた部分もあるんだけど。でも、こんなに可愛かったのなら、無理してでも行きたかったわ。ああ、でもでも、あの時行けなかったおかげで、ここまで来て貰えたわけだし、結果的には良かったって事よね。ああん、可愛すぎて持ち帰りたいわ。あら、そっちの犬族の子も可愛いわね。こんな可愛い子達とずっといるなんて、羨ましいわ」

 メイリーは、矢継ぎ早にそう言うと、浮き輪で身体を支えられているクララの頬を優しく撫でた。口調もやっている事も優しいのだが、その怒濤の喋りに、クララは圧倒されて唖然としていた。

「相変わらずですね」
「何がかしら? 可愛さ? それに関しては、あなたも相変わらずよね。可愛い顔なんだから、もっと表情豊かになればいいのに」
「大きなお世話です。それで、クララさんとの挨拶は終わりましたが、この後は、どうするのですか?」

 今後の予定はメイリー次第で変わってくるので、リリン的には早めに確認しておきたかったのだ。

「一応、人魚族の街に招待したいのだけど、あとどのくらいこっちにいるのかしら?」
「一週間と数日です」
「なら、余裕はあるわね。後二日で、招待の準備が調うから、三日後に招待したいわ。大丈夫そうかしら?」
「はい。それなら大丈夫です。では、三日後に、ここに集合でよろしいですか?」
「ええ。決まりね。それじゃあ、改めてようこそ、マリンウッドへ。あなたを歓迎するわ。魔聖女ちゃん」

 メイリーは、クララの頬にキスをすると、手を振って海の中に帰って行った。
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