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第1章 優しさとは

第6話 ゴブリンと秘密の部屋

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 緊張か怒りか、そのバランスが崩れたのだろう。
 1匹の大きめのゴブリンが叫ぶ。
「ぐっぎゃああぁぁ」

 その瞬間、空気がゆがむ。
 俺たちに向かって、色々な魔法が降ってくる。

 一つ一つは、たいしたことが無い。
 今まで、こいつらを倒して来た。
 だが、今までは魔法を使うようなメイジは2匹くらいまで、それにソルジャーがくっついて、前衛と後衛できっちり分かれて攻撃を繰り返して来た。
 最初は焦っても、すぐパターンを理解し、倒すのに苦労をしなくなる。

 だが、メイジ3匹による波状攻撃は、食らったことがない。
 そして俺を、後ろから刺し貫いた刀はなんだよ? 気配もなく、いつから後ろに居た?

 やべえ。チームの連中が、殺られている。
 ここに居るのは、上位10人。
 先日10階で、オークをぶっ倒したメンバーだ。
 今まで、なん百と倒して来た。
 それなのに、ゴブリンたちに殺られる。

 信じられない。
 NPCが、急にプレイヤーになったようだ。
 動きが読めない、ちょっとした動作にフェイントが入る。
「ばかやろう。剣を持ったソルジャーが、魔法を撃ってくるんじゃねえよぉ。かはっ」

「やべえ。健太ぁ。隆二が殺された」
 さっきの話が奴らに広がったように、執拗に狙われていた隆二。
 めった刺しから、食いちぎりを食らって、どんどん形がなくなっていく。

「馬鹿野郎。もういい。全部放って逃げろぉ」
 隊長として、みんなにそう叫ぶ。
 だが遅かったようだ。
 視界の端で、みんながゴブリンの塊に飲み込まれていく。
 そう言えば、奴は何処だ? あの隆二が切ってしまった奴は?

 右手に痛みを感じる。
「馬鹿野郎。俺の右手なんぞ、食ったってうまくない。齧るなよ。痛てえ」
 ああ仲間が、どんどん喰われていく。

 あの個体はなんだ? ホブっぽいが鬣(たてがみ)があって、金色?
ゴブリンの変異種か。
 おい、そいつを連れて何処へ行くんだ? 奴はつかの間、場の様子を小高い岩の上から見ていたが、隆二の形がなくなると、岩から飛び降り姿が見えなくなった。



「うっ。ここは何処だ」
 体には傷跡がうっすらと残り、引っ張られるような感じがしてうまく動かせない。
 今頃になって、痛みがあるし。

「あれ? 僕は切られて。そうだ、切られたはず」
 だが、ひきつる感じはしても傷はふさがっている。
 ただ、絶対ここは病院ではない。

 屋根を見ると、ダンジョンであることは間違いない。
 そして、聞いたことのない景色が目の前に広がっている。

 緑の草が茂り、小川が流れている。
 小川のほとりに変な木が植わっている。実が金色? 金属の光沢をもつ果物。堅そうだな。味は気になるけれど。

 そして、目につくドーム状になった謎の建物。
 すごく、怪しい。

 入り口にプレートがあり、手のひらを押し付ける。
 ピッと音がして、アーチ状に壁がなくなる。

 警戒しながら、奥へと入っていく。
 そう言えば、荷物は何処だ? 振り返ると、寝ていた傍にテーブルと椅子があり、そのテーブルの上に置いてあった。

 慌てて取りに行く。

 そしてまた、閉じてしまった入口を、ピッと慣らして開く。
 直ぐに足を踏み入れる。
 どうして、認証されているんだろ? 入ってから思いつくが、考えてもきっと答えなど分からないだろう。
 寝ていた間に登録でもされたのか? そう思いながら、奥へと向かう。

 両側に、何か書かれたプレートがあるが、全く読めない。
 と言うか、こんなもの文字かどうかも不明だが。

 文字と言うより、何かの配列のようだ。
 ああそうか、4つの記号? がランダムに組み合わさっているこの感じ、DNAかな? 塩基対(えんきつい)A, G, C, Tがペアでウラシル(U)で構成されたデオキシリボ核酸によってつながり形を構成している。


 突き当りにドアがあり、其処が最奥のようだ。
 手をあて、認証する。
 ピッと音がして、ドアが開く。

 中は、無機質なオペレーションルームみたいだ。
「こんな所にまで、入ってくるとはね。びっくりだよ」
 右横から声がかかる。慌ててそちらを向くと、男? まるで、ラノベに出てくる魔族のようだ。
 控えめだが、額に角が生えて、ああそうか。
 鬼と言った方が、正解かな?
 だが身長は、180cmくらい?

「外に実験生物タイプB、発生したばかりの亜種。命名Fタイプが君を連れて来て、死にかかった君に、万能タイプ試験木に実った、木の実を食べさせたのは見ていたが、もう大丈夫かい?」
「話がよくわかりません。傷は、痛みが少しありますが、問題ないようです」
「そうかい。いや驚いたよ。認証パネルをすべて開け、ここまで来るとはね。それも、あのFタイプに能力を与えたようだね。それがなければ、君は死んでいただろう」

「すべて、情報を知っているのですか?」
「いやすべてではない。この数日で発生した、エラーの原因追及をする為モニターをしていた」
 そう言うと、彼は持っていたパネルをテーブルの上に置き、目の前に突然出て来た椅子をすすめられる。

「さてまずは、自己紹介から行こうか。私はこの実験星。君たちの言う地球の管理者。大昔、遊びに出たときには、クラウディオス・プトレマイオスとも名乗っていた。君も知っているだろうが、この星を含む銀河系。その外にも星の固まりはあってね。それも、ここよりもっと古いものが。正確に言っても多分意味は無いから省くけれどね。まあ、そこで発生した生物だ。進化して、惑星の外に出る。まあよくある話だ。探査の中で、比較的新しく生物の発生可能な星を見つけてね、勝手だが実験星とした。原生生物から始まり、酸素からエネルギーを得られるように、ミトコンドリアを組み込んだり、色々カスタマイズをした。でもね、時間がかかるのさ。リアルだとね」

 そう言って、何処から出したチューブを銜える。
 ホームセンターで見た、車のバッテリー補充液みたい。

「まあその為、スピードアップのためと、発展した種族にあまり影響が出ないように、環境がコントロールしやすいダンジョンを創ってみたのさ。むろん環境による影響、そして変化は見たいので、たまに外への放出は行いテストする。ああ君たちに言わせると、モンスターの氾濫だ。今の所、先住になっている君たちが勝っている」
 そして、また一口。

「うん? ああ、君も要るかい?」
 そう言うと、僕の前にもポンと出て来た。
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