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第二章 接近遭遇、そして、いきなりコンタクト

第8話 宇宙船と秘密

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 その反応に、嫌なものを感じる。
 そう、杏の得意技。
 勘違いからの暴走。

 コイツは怒ったら、一月くらい口をきかなくなる。

「ひょっとして、この背中に背負っている、女の子のことか?」
「何が?」
「その機嫌の悪さ」
「誰が、機嫌が悪いのよ」
「杏」
「悪くないわよ。どうして私があんたに…… やきっ…… 機嫌が悪くならなきゃいけないのよ」
 そう言って、ぷいっとなる。

「この子はじいちゃんと一緒に、ダンジョンに行って具合が悪くなっただけ。背負って帰れって言われてな」
「ふーん。そうぅ、なんだあぁー」
 ガキかコイツは? なんで鼻の穴が大きくなっているんだよ。
 ちょっと機嫌が直った?

 そう思っていると、じいちゃん達が帰ってきた。
 結局四人?とも担いで。

 だがそれを見て、目を回したのは杏。
「外人さんが一杯。一体どこから?」

 じいちゃんの顔を見る。
「宇宙だ。世界。地球をこんなにしたのは、こいつらじゃ」
 いきなりの暴露。
 だが、杏の反応が少しおかしかった。

「えっでも、普通の人じゃない。外国人だけど」
「息吹が背負っておるのは、獣人系じゃ。めずらしかろ」
 そう言われても食い下がる。

「タコとか、身長三メートルの宇宙人は?」
「それは、わしらが子供の頃に噂になった宇宙人じゃな。通信が切れて情報が流れなくなったから、大昔の話がまた出てきたのか?」
 そう言うと、じいちゃんは、両手を離す。

 男二人が、べたっと地面に落ちる。
 よく見ると、まだ背中に一人いた。
 五人を担いで、きていたのか。
 両肩に二人。
 どうやって、担いでいたんだ?

「ほれ、ソフィーじゃったかな、宇宙船を開け」
 右手で尻をなでる。

「私は、クリームヒルデです。もうだめぇ」
 今、じいちゃんに、お尻をなでられていた人。
 じいちゃんの左腕、肘の上にまたがる格好で抱えられていたのは、クリームヒルデさんらしいが、ぷるぷるして、ぐったりと脱力をする。

 同じく、右の肘の人も、ぷるぷるしている。
 唯一、背中にしがみついていた人は元気そうだが、降りるなり、道路淵にキラキラと噴水を口から……

「走ったから、酔ったか」
 じいちゃんは、淡々と相手をしているが、惨劇だよね。

 両腕から降ろされた女の人たちも、シーヴさんと同じような表情になっている。
 なんでだ?
 
 息吹が、その理由を理解するまで、もうしばらくかかる。
 そうか。そこを刺激し続けらたら、女の子はそうなるのかと……

「ほれ、誰でもいいから、船を開いて帰れ」
 誰かが、操作をしたのだろう。
 ハッチが開き、何もない空間に、スロープがいきなり見える。

 俺達には、普通に見えているが、杏にはそう見えたようだ。

 じいちゃんと一瞬だけ顔を見合わせ、勝手だが、船に入る。

「シーヴさん。起きて。部屋は何処?」
 かなり辛いようで、指だけが動く。

 ああ、確かにキツかったよな。
 記憶にある苦痛。
 あんときは、トイレにも行けず。漏らしたよな。
 それを思いだして、速やかに部屋へ連れて行く。

 そのとき、杏も一人連れて、中へ入ってきていた。
 ケロケロしていた、ロッタさん。
 ロッタさんが、何かを操作すると、各部屋のドアが開く。

 順に配達し、各自のベッドの上に投げていく。
 宇宙船の部屋のせいか、以外とシンプル。
 そっと、シーヴさんをベッドに寝かせる。
 これから彼女は、心壊れる体験をするだろう。

 意識があって、この年で、漏らしたときの悲しさ。
 あっあっあっ、今出てきた。
 ――それが分かるんだよ。あの絶望感……
 それと同時に、やって来る。我慢から、開放された快感…… そう快感なのだよ。

「がんばれ」
 思わず声をかける。

 部屋を出ると、じいちゃんが腕輪を持っていた。
 ロッタさんが、ゲスト用の腕輪をくれたようだ。
 船体の、ハッチ開閉が出来るらしい。

 ふと見ると、ふらふらキョロキョロしている、杏が居る。
「おい、何処へ行くんだ? 帰るぞ」
 くるっと、こちらを向いた顔は、キラキラで、顔には好奇心全開。探検したいと書いてあった。

「ちょっとだけだから、ホント。そこまで」
「そんな事を言う奴が、間違えて地球に核ミサイルを撃ち込んだりするんだよ」
「やめてよ、そんなこと言うの。そんな事はしないわよ。多分」
 そう言って、もう少しだけとと言いながら、ドンドンと奥へ行く。

 空間魔法で拡張をしているようだが、所詮は全長二十メートル程度。
 開いたハッチの先には、宇宙船のコントロールルーム。

 マップには、現在の地球表面が映し出されていた。

「ひでえ……」
 思わず声が出る。
 実際、近所しか知らず、交通も途絶えたため、ここまでひどいとは思っていなかった。

 クレータと、そこに溜まった水。
 記憶にある、世界地図が虫食いだらけになっていた。
 むろん、日本もそうだ。
 四国には、大きな都市がないためか、攻撃を受けていない。
 だが、主要な都市は、すべてボコボコだ。

「これは少し、話し合いが必要じゃな」
 温厚なじいちゃんの顔に、少しばかり怒りが見える。

「じゃが、ここまでなっていれば、奴らの手を借りないと復旧は出来ん。それもまた確か…… どうするか」

 いつの間にか、人の肩にすがりつき、顔を伏せている杏。
 今の世界を見て、ショックだったのだろう。

 ああ。なぜ? 息吹の、汗のにおいで、ゾクゾクする……
 そんな事で喜び、杏は震えていた。
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