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第1章 王都編
第22話 取り巻きさんに会いまして
しおりを挟む秋の庭園に戻ると、たくさんの子どもに囲まれた。私ではなく、レオナルドが。
レオナルドの後ろにいた私はそっとその場を離れるが、多くの視線が突き刺さる。幼い令嬢達からの嫉妬のようなものが大半だが、なかには憧れの目で見てくる子までいる。
だが、そんな視線は気にならない。何故なら、お茶会が終わった翌日にスコルピウス家から正式に婚約者候補の辞退を申し込むからである。
とりあえず、魔力暴走騒動を起こす前にレオナルドとの約束を果たそう。だけど、一緒に戻ってからすぐに話しかけるとレオナルドの差し金だと疑われるかもしれない。少し距離をとって様子をみるのがいいかな。
声が聞こえる程度に近いけれど、決して同じテーブルではない。隣のテーブルでリカルドから私の顔が見えない位置がいいな。
その条件に合ったテーブルを見れば、一人の令嬢が座っていた。レオナルドとレオナルドを取り巻く子達をつまらなそうに眺めながら。
友達はいらないって思ってたけど、知り合いの一人くらい王都にいるといいかもしれない。学園の様子も知りたいし。情報がないのも不安だもん。
ピンクや黄色の可愛らしいドレスを着た令嬢が多いなか、ラベンダー色のドレスを着ているプラム色のウェーブがかかった髪をハーフアップにしている女の子。その子に打算にまみれた思考で斜め後ろから声をかけた。
「あの、私アリア・スコルピウスと申します。 お隣よろしいでしょ……う……か……」
その子は振り向くと、小さく微笑みながら頷いてくれた。だが、 その顔を見て嫌な予感が胸の中を駆け巡る。
たれ目でサファイアブルーの瞳。特徴的な泣きぼくろ。幼いながらもどことなく漂う色気。 もしかして……。
「はじめまして。カトリーナ・シュタインボックスと申します」
……やってしまった。後悔先に立たずとはこういうことだろう。
私が声をかけた令嬢は、先生である侯爵ルートのライバルキャラであり、後味の悪い末路を辿るもう一人の令嬢。
そして、レオナルド王太子ルートの悪役令嬢アリアの取り巻きの一人でもある、もっとも声をかけてはいけない人物だったのだ。
呆然と立ち尽くす私をしばらく見つめていたカトリーナは、何を思ったのか急に立ち上がった。 そして──。
「すみません。気がつかなくて」
そう言いながら、 申し訳なさそうな表情で椅子を引いている。
「えっ!?」
「あれ? 違いました?」
「ちっっ違いますー!!」
カトリーナは、私の様子に不思議そうに首を傾げた。
「イザベラ様には、こうするのですが……」
「……イザベラ様って誰ですか?」
「ピスケス公爵家のイザベラ様ですよ。あちらのベビーピンクのドレスの方ですわ」
一瞬、目を瞬かせた後、カトリーナは声を潜めて教えてくれた。
その視線の先には縦ロールが立派なベビーピンクの似合わない気の強そうな令嬢がいる。レオナルドにまとわりついて周りを牽制する姿は、私よりも悪役令嬢っぽい。
キャラ濃いなぁ……と思いながらも、攻略対象のプリオスを思い出す。ピスケス公爵家の後継者のプリオスルートでは、イザベラって名前は出てこなかったはず。
ほしきみ☆には登場しなかったけど、兄弟がいたんだ。
それにしても、同い年であるはずのカトリーナにイザベラは席を引かせるのか。それは、爵位が上だからと権力を振りかざしているだけにしか私には思えない。
椅子を引いて欲しいのならば、メイドや執事にしてもらうべきなのだ。それも彼等の仕事なのだから。
「椅子を引くのは、カトリーナさんがやりたくてやっていることなのですか?」
「……イザベラ様の方が爵位が上ですから」
困ったように微笑まれる。それが答えだった。
「椅子は自分で引きます。 爵位は違えど、カトリーナさんは給仕をする立場の方ではありません。して欲しければ、メイドを呼びますので」
私の言葉に目をキラキラとさせるカトリーナ。 あれ? 何だかすごく嫌な予感が……。
「やっと……。やっと、まともな会話ができる方に会えた」
「………へ?」
「今までお話をした子女の皆さんは、表面上だけかもしれませんがイザベラ様と同じ考えだったのです。自分よりも爵位が高い者には従わなければならないと。
だから、私も従うしかないと思ってました。でも、やっと同じ考えの方に出会えました!」
嬉しそうに頬を上気させるカトリーナ。そんなカトリーナを見て浮かぶ疑問。
なんで、6歳児がこんなに難しい話し方をしてるの?
レオナルドといい、カトリーナといい、優秀過ぎじゃない? 確かにカトリーナは天才少女って設定だったはず。
それでも、会話の内容があまりにも子供らしくない。……王族や十二星座の貴族は英才教育を受けているけど、これが普通なのだろうか。
前世の私が6歳の頃っていうと、木登りしてたら枝が折れて落ちたり、蝶々を追いかけて川に落ちたり、ケンカした時に飛び蹴りをして怒られてた記憶しかないんだけど。
まさか二人とも転生者か前世の記憶持ち……、なんてことはそうそうないだろうから、これが普通ってこと? 誰か、嘘だと言って。私の6歳のイメージとかけ離れ過ぎている。
思わず遠い目をしてしまうが、その間もカトリーナの話は続いていた。
「もし、良ければお友達になって頂けませんか?」
「そうですね。……友だ……ち?」
「はい!」
とびきりの笑顔の美少女に顔が引きつるのを感じるが、カトリーナは私を見てにこにことしている。
これ、断れないパターンじゃない?
確かに友達は欲しいと思った。だけど、もう少し距離感の遠い友達をイメージしていたんだけど。
「仲良くなれれば……」
「絶対に仲良くなってみせますわ」
せめてもの抵抗はすぐにカトリーナにへし折られ、不本意にも取り巻きの一人と友達(仮)になってしまったのであった。
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