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第2章 領地編1~新たな出会い~
第55話 魔術がなくても
しおりを挟むべにちゃんとしゅいちゃんの紹介も無事に済んで、これからスコルピウス家に住んでもらうことが決まった。
「二人は仲間のところに戻らなくて大丈夫なの?」
『べには、お姉様とずーっと一緒です!!』
3メートルもある身体でべにちゃんに抱きつかれ、身体強化をして踏んばる。
大きな翼で前どころか四方八方囲まれてしまった。
『あたしも、アリアといれば強いオスとの出会いがありそうだから、世話になるわ。この際、人間とのコネを作っておくのも悪くはないしね』
まったく姿は見えないが、しゅいちゃんの声がする。私はべにちゃんの翼をちょいっと動かして、隙間から顔を出した。
「元リーダーが好きなんじゃないの?」
『いつまでも振り向いてくれない相手を追いかけてても仕方ないもの。次よ、次!!』
翼を振り上げ、しゅいちゃんは声高らかに言う。
い、勇ましい……。自分が同じ立場なら絶対に立ち直れない……と思ってしまった。
「なぁ。べにと、しゅいは人になれねーの?」
リカルド様がしゅいちゃんを真下から見上げながら、爆弾を落とした。
『なれるわよ!!』
「「ちょっと待った!!!!」」
しゅいちゃんは、ボッフン!! と白い煙に包まれる。
私とノアの制止は聞こえたんだか、聞こえなかったんだか……。
「メモル、バスローブを!!」
「男性陣は後ろを向いて! しゅいちゃんは全裸だから!!」
メモルはバスローブを持って走ってきて、リカルド様を除いたノア、お父様、セバスはしゅいちゃんに背を向けた。
「えっ? 全裸?」
リカルド様だけが状況を上手く飲み込めないようで、おろおろとしている。
10歳は子どもだけど、女の人の裸を見ても大丈夫な年齢ではない。
私は身体強化を使って一瞬でリカルド様のところへ行くと、しゅいちゃんに背を向ける形でノアの隣にリカルド様を運んだ。
ノアが隣なら、間違っても振り向くことはないので安心だ。
『どう!? ちゃんと人にだってなれるんだからね! って、なんで後ろ向いてんのよ!!』
煙から現れたギャルしゅいちゃん。メモルにしっかりとバスローブを着せてもらっている。
だが、エロい。お胸も、おみ足も、お色気ムンムンなのだ。
「しゅいちゃん、こっちにいらっしゃい」
お母様が笑みを浮かべ、しゅいちゃんを呼ぶ。
『なーに?』なんて、しゅいちゃんは首を傾げているけど、あれはまずい。お母様、激怒りしてるよ。
「アリアちゃん、ノア」
「「はいっ!!」」
「きちんと、しゅいちゃんにはお洋服の必要性は説明したのよね?」
「「もちろんです」」
お母様の言葉に、私もノアも背筋をピーンと伸ばして答える。
お母様の隣にいるお父様まで、なにも言われてない ないのに、いつもより姿勢が良くなっている。
「奥さま、アリア様とノア様はきちんとお話されていました」
あの場にいたメモルも加勢してくれたので、きっと大丈夫なはず。
にこにこした表情のまま怒るお母様は、めちゃくちゃ怖い。笑みが消えて表情一つ変わることなく怒るお母様はもっと怖い。
絶対に怒られたくない。
「そう、説明したのね。べにちゃん、なんでお洋服を着ないといけないのか分かるかしら?」
『えっと……。マナーだからです。イヤな思いをさせないためで、べに自身もイヤな気持ちにならないためで……、えっとえっと…………』
べにちゃんが一生懸命、答えてくれている。
お母様の視線が優しいから、きっとべにちゃんは無事なはずだ。
「郷に入っては郷に従わなくてはならないわ。例え、自分の価値観と違ったとしても、あなたたちが人間の形をするのであれば、人としてのルールやマナーを守らなくてはならないのよ」
べにちゃんは少し考えたあと、小さく頷いた。
『難しいけど、なんとなくお母様が言ってることわかります。べにたち……レッドプテラにもルールがあります。人間も同じなんですね』
お母様は作り物めいた笑みではなく、小さな子どもを見るかのように、優しくべにちゃんに笑う。
そして、その表情を引っ込めてしゅいちゃんに視線を向けた。
「さぁ、しゅいちゃんは別室でゆっくりとお話しましょうね」
しゅいちゃんは嫌がったが、お母様の視線に耐えられなくなり、トボトボとついていった。
魔術を使わなくてもお母様は魔物を黙らしたのである。
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