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余談
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「クアンナ…何処にいる」
王太子は彼女を必死に探させているか、まだ情報はない。
国を出た痕跡は無いので、各都市、街、村に触れを出した。
妖精の契約を解除しなければ、何処に居るかもわかったのに、彼女に煽られて勢いのままに解除した。
己の手首を見つめて、不安にかられる。
ずっとそこにあると思っていたものが無くなる恐怖。
失って初めて気づいた。
幼い頃、エリシオンが望んでクアンナを婚約者にした事を思い出しても、もう、今更だった。
エリシオンの顔には王と王妃に打たれた跡がある。
誤魔化しきれず、クアンナと妖精の契約を解除した事実を伝えると、無遠慮に打たれた。
ー…切れた縁は二度と戻らない。
そう呟いていたクアンナがどんな顔をしていたのだろう。
あの日から姿を消したクアンナを探し出せと命じられた。
出来なければ、エリシオンはそれまでだ。
クアンナの実家はとりつぶされた。
主に、マゼンタの罪の賠償を理由にすべてを奪われた。
もちろんその程度では足りない。
当主とマゼンダは強制労働を科せられた。
クアンナがいればとりつぶされることもなかっただろう。
クアンナは家族と王家を見捨てた。
でも、クアンナを先に捨てたのはエリシオンだ。
エリシオンが間違えなければこんな結末はなかった。
「クアンナ…戻ってきて」
エリシオンの呟きは誰に届くこともなかった。
---
「ってなわけで、隣国は今大騒ぎだよ。臣籍降下していた王弟の息子達が突如継承権を得たり、本人らは嫌がっているとか、王太子の降下があるんじゃないかとか、様々な憶測と噂が飛び交ってるね!」
「…はぁ、そうですか」
クアンナは隣国に渡り、ギルドで仕事を請け負い、生活をしている。
討伐は護衛のケインが、薬草採取は侍女のマリィが活躍し、元主としては情けなさを噛み締めているのだけれど。
今日は休みを取り、三人でギルド近くの食堂で昼食をとっていた。
冒険者同士の情報交換も盛んに行われているこの場所でよくクアンナは話しかけられる。
今も、頻繁に話しかけてくる冒険者のうちの一人、ルーイが聞いてもいない母国の情報をペラペラとクアンナに聞かせた。
一度も母国について探りを入れたことはないのに、なにかあればルーイはクアンナに情報を寄こした。
「確かな筋の情報だと、現王太子は元婚約者を探し出せなければ、臣籍に降下させられるらしい。それに、この国の王がその元婚約者を気に入ったみたいで寵妾によこせとせっついているとか」
「…へぇ」
気のない素振りをしながら、咀嚼する食事の味が無い。
愚妹が陛下に貧相な身体で色仕掛けを仕掛けたあの一件で、クアンナは死を覚悟した。
あのまま愚妹は首を跳ねられても致し方なかった。
しかし、そうなれば両国の溝は深まるしかない。
国のために捨て身でクアンナは陛下の前に出たのだ。
陛下の殺気は、感情がないといわれるクアンナすら恐怖を感じていた。
あの男の寵妾などとんでもない。
自由を満喫しているクアンナはもうあの世界に戻りたいと思っていない。
この国も潮時ね。
あの男のお膝元で、怯えながら暮らすのは御免蒙りたい。
ちらりと二人に視線を送れば、瞬きで返事をされた。
「よかったら、俺も連れてってくれないかな?…クアンナ様」
ひそめた声で名を呼ばれ、はっとした。
ルーイは嬉しそうに目を細めている。
「あの日。ギルドからの指示で陛下の護衛に就いていた。剥き出しの剣の前に立ち塞がる姿に惚れたのは陛下だけじゃない。どうか俺も君のパーティに加えてほしい」
ルーイはクアンナの手を取って、口付けた。
「そこの二人以上に君に忠誠を尽くす。我が姫」
「そこまでです」
ケインとマリィがルーイからクアンナを引き離す。
二人の動きは全く無駄がない。
「ちっ、もうちょっと主離れ出来ないものかな。君たちは」
「そのつもりはありません」
ケインとマリィに守られて引き上げた。
翌日出発出来るようにと、馬車を一台借りる予約を取って、部屋に戻るとすぐに転移魔法で他国へ渡る船に乗った。
馬車は目くらましだったようだ。
しばらく海を超えた国を拠点に活動していたが、目の前にルーイが現れて身構えた。
「めちゃくちゃ探しまくった。周辺国を虱潰しに探しまくったよ!まさか海を渡ってるなんて。港までの経路痕跡なかった。どうやったんだよ、もう」
頬を膨らましてぶつぶつ小言を言うルーイに捕まり、ケインもマリィもため息をついた。
このあとも何度か追いかけっこを展開して、時間を掛けてもクアンナを探し当てるルーイにケインもマリィもそしてクアンナも諦めた。
「アンナ。これからよろしく。全力で口説くから覚悟してね」
王太子は彼女を必死に探させているか、まだ情報はない。
国を出た痕跡は無いので、各都市、街、村に触れを出した。
妖精の契約を解除しなければ、何処に居るかもわかったのに、彼女に煽られて勢いのままに解除した。
己の手首を見つめて、不安にかられる。
ずっとそこにあると思っていたものが無くなる恐怖。
失って初めて気づいた。
幼い頃、エリシオンが望んでクアンナを婚約者にした事を思い出しても、もう、今更だった。
エリシオンの顔には王と王妃に打たれた跡がある。
誤魔化しきれず、クアンナと妖精の契約を解除した事実を伝えると、無遠慮に打たれた。
ー…切れた縁は二度と戻らない。
そう呟いていたクアンナがどんな顔をしていたのだろう。
あの日から姿を消したクアンナを探し出せと命じられた。
出来なければ、エリシオンはそれまでだ。
クアンナの実家はとりつぶされた。
主に、マゼンタの罪の賠償を理由にすべてを奪われた。
もちろんその程度では足りない。
当主とマゼンダは強制労働を科せられた。
クアンナがいればとりつぶされることもなかっただろう。
クアンナは家族と王家を見捨てた。
でも、クアンナを先に捨てたのはエリシオンだ。
エリシオンが間違えなければこんな結末はなかった。
「クアンナ…戻ってきて」
エリシオンの呟きは誰に届くこともなかった。
---
「ってなわけで、隣国は今大騒ぎだよ。臣籍降下していた王弟の息子達が突如継承権を得たり、本人らは嫌がっているとか、王太子の降下があるんじゃないかとか、様々な憶測と噂が飛び交ってるね!」
「…はぁ、そうですか」
クアンナは隣国に渡り、ギルドで仕事を請け負い、生活をしている。
討伐は護衛のケインが、薬草採取は侍女のマリィが活躍し、元主としては情けなさを噛み締めているのだけれど。
今日は休みを取り、三人でギルド近くの食堂で昼食をとっていた。
冒険者同士の情報交換も盛んに行われているこの場所でよくクアンナは話しかけられる。
今も、頻繁に話しかけてくる冒険者のうちの一人、ルーイが聞いてもいない母国の情報をペラペラとクアンナに聞かせた。
一度も母国について探りを入れたことはないのに、なにかあればルーイはクアンナに情報を寄こした。
「確かな筋の情報だと、現王太子は元婚約者を探し出せなければ、臣籍に降下させられるらしい。それに、この国の王がその元婚約者を気に入ったみたいで寵妾によこせとせっついているとか」
「…へぇ」
気のない素振りをしながら、咀嚼する食事の味が無い。
愚妹が陛下に貧相な身体で色仕掛けを仕掛けたあの一件で、クアンナは死を覚悟した。
あのまま愚妹は首を跳ねられても致し方なかった。
しかし、そうなれば両国の溝は深まるしかない。
国のために捨て身でクアンナは陛下の前に出たのだ。
陛下の殺気は、感情がないといわれるクアンナすら恐怖を感じていた。
あの男の寵妾などとんでもない。
自由を満喫しているクアンナはもうあの世界に戻りたいと思っていない。
この国も潮時ね。
あの男のお膝元で、怯えながら暮らすのは御免蒙りたい。
ちらりと二人に視線を送れば、瞬きで返事をされた。
「よかったら、俺も連れてってくれないかな?…クアンナ様」
ひそめた声で名を呼ばれ、はっとした。
ルーイは嬉しそうに目を細めている。
「あの日。ギルドからの指示で陛下の護衛に就いていた。剥き出しの剣の前に立ち塞がる姿に惚れたのは陛下だけじゃない。どうか俺も君のパーティに加えてほしい」
ルーイはクアンナの手を取って、口付けた。
「そこの二人以上に君に忠誠を尽くす。我が姫」
「そこまでです」
ケインとマリィがルーイからクアンナを引き離す。
二人の動きは全く無駄がない。
「ちっ、もうちょっと主離れ出来ないものかな。君たちは」
「そのつもりはありません」
ケインとマリィに守られて引き上げた。
翌日出発出来るようにと、馬車を一台借りる予約を取って、部屋に戻るとすぐに転移魔法で他国へ渡る船に乗った。
馬車は目くらましだったようだ。
しばらく海を超えた国を拠点に活動していたが、目の前にルーイが現れて身構えた。
「めちゃくちゃ探しまくった。周辺国を虱潰しに探しまくったよ!まさか海を渡ってるなんて。港までの経路痕跡なかった。どうやったんだよ、もう」
頬を膨らましてぶつぶつ小言を言うルーイに捕まり、ケインもマリィもため息をついた。
このあとも何度か追いかけっこを展開して、時間を掛けてもクアンナを探し当てるルーイにケインもマリィもそしてクアンナも諦めた。
「アンナ。これからよろしく。全力で口説くから覚悟してね」
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