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「何事だっ!?」

近衛騎士がグネールを守るために一瞬で取り囲んだ。
サネットがグネールの腕にしがみついてきたが反射的にそれを振り払った。
身動きがとれなくては困る。とっさの判断だった。
サネットはそれに頬を膨らませたがグネールは前方の光景に気を取られていた。

断頭台に一頭の黒馬。
一日に千里を駆けると言われる希少な馬だ。
希少ゆえ、国力の証明にどの国もこぞって欲しがる。
しかし、育成が難しく世話役と共に黒馬は繁殖元の国より貸与されていた。

その黒馬は育成と同じで気難しく、騎乗する人間すら選ぶ。

この国でこの馬に乗れるものは一人しかいない。


「デュード!何のつもりだ!」

呼ばれた男は、馬上からグネールを見下ろしている。
黒馬の世話役としてこの国に滞在する男。
武術の腕の高さからグネールの側近として付いていたが、サネットへの態度が気に入らず側近から退けた。

「いらないなら、俺がもらう」

デュードはコルティナを抱き上げている。
驚いた顔でデュードをみつめるコルティナに苛立った。

妃教育を始めてから感情をみせなくなったコルティナは今日はころころと表情を変える。

彼女の目線の先に己がいないことに腹がたった。

「巫山戯るな!それは今日この場で打ち首にする罪人だ!お前にそんな権限はないっ!」
「それが、そうでもない」
「なにっ!?」

彼女コルティナの腹に俺の子が居るかもしれないからな」

グネールは言われた言葉の意味を理解できなかった。
今まで事の成り行きを見ていた国王陛下が何故そうなったのかとデュードに問う。

「そこの殿下が言い出したことだ。『コルティナを牢番の慰み者にして良い』と」
「それはっ…!」

流石に罪人とはいえ人道に反する命令だ。
陛下の目線が王太子むすこに向いた。

「事実か」
「それは…」
「真実の球を使う」

言い訳を考えていたグネールは抵抗を止めた。
裁判の時に使われる真実の球は嘘を見破る。
使用回数が在るため気軽に何度もは使えない高価なものだった。
それを惜しまずこの場で使うという。
ならば抵抗など無駄だ。

「…事実です」
「なんと…」

陛下も王妃も絶句した。

「しかしっ!私は牢番にと申し付けました!」
「だから、俺は殿下の側近から退けられて牢番を任されてた。つまり…そういう事だ。…なぁ?」

デュードが腕の中のコルティナに向かって意味深に笑う。
コルティナは顔を背けて真っ赤になっていた。


どうして、どうしてそんな顔をする。
コルティナお前は私を愛していたはずだ。


ぎりぎりと歯が軋む。


「腹に子が居ようが関係ない!罪人は処刑すべきだ!」
「いや、無理だ」

待ったは、グネールの背後からかかった。

「陛下…何故…」
「それは、」

「俺が皇族だからだ。帝国のな」

陛下の言葉の後、デュードが引き継いだ。

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