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「は、つまらん冗談を」
「冗談ではない」

否定したのは国王だった。

「事情は貴方にも説明したはずよ」


ーグネール。貴方にも説明しておくわね。

ー希少な黒馬を貸与して頂くことになった。
ー世話役に第三皇子が共にやってくる。
ー友好のためにも仲良くしなさい。

王妃の言葉が呼び水となり、何年も前の記憶だけれど、今はっきりと陛下達の言葉を思い出した。

「帝国の、第三皇子」
「まるで下働きのように顎で使われていたけどな」

グネールは憎憎しく馬上の皇子を睨みつけた。

「彼女の腹に宿るのが帝国の皇族の子ならば、殺生は認められない」
「お前の子ではないかもしれないだろうっ!!」
「俺の子だ。コルティナを犯していたのは俺だけだからな」
「くっ…」

近衛に目線を向ければ、背けられた。
デュードの言葉は真実なのだろう。

「でもでもっ!コルティナ様は私を虐めたんですよ?そんな女の子供なんか欲しいんですか?」

サネットが口を挟んできた。
首を傾げて可愛らしくデュードに上目で見つめた。
自分以外にそんな媚びた顔をしないで欲しい。
サネットを背に隠そうとして、急にデュードが大きな笑い声を上げた。

「尻軽。お前の魅了は俺にはきかん。何度も試していたようだがな。
魅力のないお前に俺は勃たん」

デュードの言葉にサネットは真っ赤になった。
下品な言葉に反応したのだと、思った。



「さて、ティナ。お前が最後に会いたいと切望した王太子と面を合わせて、どう思った?」

コルティナはじっとデュードの腕の中に収まっていた。
デュードの言葉に再度こちらに視線を寄越すが、眉を寄せて困った顔をする。
何も答えられないと言ったふうだった。

グネールに断罪された時も「愛しい殿下」とコルティナは叫んでいたのに。



「そうだな。気の毒な王太子殿下を助けてやるか。
王太子殿下は軽度の魅了魔法に掛かっている。
国王も王妃殿下もな」

「嘘よ!」

サネットが叫ぶ。

「ならば試してみろ。『魅了解除』魔力持ちはそう口にするだけで解除できる。それくらい軽度な物だ」

「騙されないで!そうやって処刑から目を逸らそうとしてるのよ!」

今まで処刑をこわがっていたサネットらしくなく取り乱して叫ぶ。



ゴトン。

重い物が落ちる音がする。

「ああ…私はなんて、つまらぬ罪で首をはねようとしたのか…」

処刑人は解除を呟いた。
そして刃を落として、膝をついた。
次の瞬間に訪れたのは、恐怖。
人の命を狩る、彼らの責務は重い。
嫌がらせをしたというだけで首を落とそうとしたことに激しい後悔が押し寄せた。

悲観する処刑人を見た人々は、見合わせてその言葉を次々と口にした。


覚醒した人々は現状を再確認して、頭を抱えた。

「嘘よ、嘘、あの男が何か、したのよ、」

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