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第四章 魔王討伐が終わった後は

最後の晩餐

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「国王が、ユリひとりを別室に呼びだすなんて何の話だろう」
「きっと縁談の話ね。ロレンス殿下には婚約者がいるから、ミハエル殿下じゃないかしら」
 ローラは、僕が心配になる様に、態とそんなことをいって、僕を見つめて来た。
 だが、ユリの気持ちが僕にあると知った今は、そんな事では動じない。
「王子はリムナント以外にもいたの?」
「第一王子を呼び捨てにしない。リムナント王子とかリムナント殿下とお呼びしないさい」
 ローラは、この王家についても詳しく、いつものように講義してくれた。

 一夫一婦制なので、国王も王妃は一人だけだが、かなり溺愛している様で、なんと五人もの子供がいるのだとか。長女と次女は既に有力貴族に嫁いでいるが、息子は三人いる。長男のリムナント殿下は既に結婚し、次期国王の最有力候補として、国王としての公務も代行出席している紳士だ。
 次男のロレンス殿下は未婚だが、一年前に婚約発表していて、間もなく結婚式をあげるらしい。だが、人間としては最低。自分は国王になれないからと好き勝手して遊んでいて、一切公務をしようとしないダメ人間らしい。
 そして、末っ子で三男がミハエル殿下。まだ二十四歳と若いが、成績優秀で武術にも秀で、しかもイケメンという三拍子そろったなかなかの人物。リムナント殿下が国王になった時には、右腕となって国家を支えていく重要人物なんだとか。
 ユリは、貴族ではないが、国王としては勇者を傍に置いておきたいと思っている筈で、三男ミハエル殿下の嫁に迎えたいと考えているのでないかという話だった。
 僕は全く気付かなかったが、彼もユリに気があるみたいで、今日の式典でも、終始ユリに熱い視線を送っていたのだそうだ。

 僕としては、そんなことになって欲しくないが、そんな好人物と結婚できるのなら悪い話ではない。僕なんかと結婚するより、王族入りする方が幸せになれるのは間違いない。
 さっきまでは、ユリは僕が幸せにして見せると自信満々だったのに、急に不安が込み上げ、僕はどうすべきなのだろうと動揺してしまっていた。

 そんなことを考えていると、ユリが部屋に戻ってきた。
「国王陛下の話って、何だったの。やはりミハエル殿下との縁談?」
「どうして知ってるの。確かに、最後にそんな話もされたけど、私の目の心配。ミッシェルが国王にも話したみたいで、生活に支障がないかといろいろと心配された。息子の嫁にしていいものかと判断する為だったみたいだけどね」
「それで、なんと応えたの」
「盲目の花嫁ではりミハエル殿下もご迷惑でしょうし、国王が勝手に縁談を決めるのは間違っていると思いますと、きっぱりと言って断ったわよ」
 流石はユリ。国王を前にしても、そんなことを平然と言えるだなんて、大したものだ。
 僕の動揺も消し飛んで、それなら勇気を出して告白しようかと思い始めた。

「それより、この報奨金、とんでもない額なんだけど、どうしよう」
 先ほど勇者ユリに手渡された封筒から小切手を取り出して見せてくれた。
「一、十、百、千、万、十万、百万、千万、一億、嘘だろう。百臆クローネだと」
 国家予算並みの額だった。五人で分けても、一人二十億クローネあり、一生、何もせずに生活していける。
 こんなに貰って、どうしようと皆で話していると、再びミッシェル大臣が現れ、勇者一行のこれからのスケジュールを伝えてきた。

 今日は、記者への討伐報告、祝勝会の宴だけだったが、明日は、凱旋パレードがあり、銅像の作成のためのモデルや、英雄伝発売に向けた取材と、この先一週間の計画が時間刻みで立てられていた。
「ルクナス近郊のダンジョン攻略はどうするの」
「もう、勇者様御一行には、ダンジョンにもぐって頂く必要はありません。魔物があふれ出てくることが無いように、低階層までを定期的に綺麗にして回ればいいだけのことです。ですので、こちらで対処させていただきます」
 確かに、魔人が侵攻してこないのであれば、最深層まで攻略する必要はない。残念ながら、勇者一行としての旅は、実質もう終わったということだ。

 それから二週間ほどは、各貴族のパーティーに招待されたり、出版社や雑誌の取材を受けたりと、それなりに忙しい大変な日々を過ごしたが、その盛り上がりも消え始め、各自ばらばらに時間を過ごすようになっていった。
 大衆とは、熱しやすく冷めやすいのものだ。
 一か月が経った頃には、今後一週間の予定もなくなり、すっかり日常が戻っていた。

 その日は、王宮の食堂で五人で夕食を食べていた。
「ダンジョン攻略も必要なしと言われたし、勇者としての使命も、もう完全にないみたいね。今日で解散にしようか」
「俺は賛成。実は、ローラントと、国王親衛隊のミロが推薦してくれて、国王親衛隊に入れそうなんだ」
「凄いじゃない。お兄さんは、第一王子親衛隊なんでしょう。兄弟そろって、王族親衛隊だなんて、大出世じゃない」
「ミロって、剣聖候補の天才のあのミロ?」
 ローラがアーロンに尋ねていたが、アーロンを推薦したというミロという名前は初めて聞いた。
「ああ、ちょっといろいろと因縁があってな」
「アーロンって、天才ミロと戦って、引き分けたのよ。話してなかったっけ」
「聞いてない。ちゃんと聞かせてよ」
 ユリが勇者一行のタンク役を選ぶ時、ミロとアーロンとが最終的に残り、アーロンはナイトから戦士に転職したばかりだったので、引き分けたらアーロンを採用するという話で、最終決戦して戦ったのだそう。
 最初はアーロンが押していたが、後半はミロが押し返し、結局、ぎりぎりで逃げ切り、引き分けたという話だった。
「そんなわけで、ミロの推薦も貰え、団長がB級の俺とも会ってくれたというわけだ。まあ、それでも駄目だと思っていたが、兄が頑張って活躍してくれて実績を上げいてくれたお蔭で、団長もケイロスの弟ならと、採用してもらえそうなんだ」
「これで、名門フランク家も復活ね」
「まだ、分からんがな」
 名門フランク家と言うのも、良く分からなかったが、代々王族親衛隊のナイトを務めていた功績から、フランクという姓を貰い、それが父親の代で剥奪されたという経緯があったみたいだ。
 いずれにせよ。アーロンは将来が決まっていて、素直に祝福して送り出してやりたい。

「ローラも、魔法大学の教授の話が来ているのよね」 
「うん、教授なんてガラじゃないけど、皆がばらばらになるのなら、その申し出を受けようかなって思ってる」
 賢者の称号までもつ天才魔女で、頭の回転も速く、貪欲に魔法知識を得ようと努め、しっかり理論だって説明できる。悔しいが、大学教授に最適な人材なのは間違いない。

「フレイアはどうするの」
「ボクは、貰ったお金で、ショービジネスをする。ボクだけじゃショービジネスも育っていかないから、芸能プロダクションを立ち上げて、ユリやユウスケから聞いたアイドルグループというのも作ろうと思ってる」
 この異世界には、歌謡ショー等はないが、フレイアならアイドルになれると、話したことがあり、コンサートツアーの話なんかもした。
「起業するなんて、すごいこと考えるね。でも、これで夢がかなうのね。おめでとう」
「ボクなんかが、皆を引っ張って行けるかわからないけど、最近、いろいろと調べていて、楽しいんだ」
「夢を追いかけている時が、一番楽しいよね。頑張って」
 そういえば髪の毛が伸びている。ずっとバリカンを入れていないのは、アイドルを意識して伸ばし始めていたからだったのかと納得した。
 声に魔力が無くなってしまったので、昔ほど観客を魅了できない筈だが、若いフレイアなら間違いなくアイドルになれる。
 まだ二十三歳なので、芸能プロの社長とは、若すぎる気もするが、Sプラスの能力を持っているので、何をやってもうまく行くに違いない。

「ユウスケはクリフト病院に戻って、医師になるのよね。暗殺者に戻ったりしたら承知しないわよ」
 全員がそんなことしたら承知しないという様に、僕を睨んできた。
「暗殺者には戻らないけど、クリフト病院に戻る気もないんだ。実は、リットに病院を作ろうと思って。これだけのお金があれば、病院を立てることだってできるだろう。リットにはちゃんとした医師がいなかったし、周辺には無医村が沢山あって、困っていた。だから……」
「偉い。流石はユウスケ。財産を投げ出して、苦しい道を歩むなんて、勇者の鏡よ」
「あんな過疎化していく街に、病院を建てるなんて、俺としては、正直考え直せといいたいが、人助けは、いいことだ。頑張れよ」

「それより、ユリはどうするつもりなんだ」
 特に予定がないなら、一緒にリットの病院を手伝ってもらいたいと提案するつもりで、訊いてみた。
「実は、ミハエル殿下からプロポーズされたんだ。五つも年下だから、回答は保留しているけど、結婚も悪くないかなって、今は思案中」
 ショックだった。王様からの提案は、きっぱりと断っていたのに、第三王子からの申し出は、回答保留した。
 OKしなかったのは、僕のプロポーズを待っているからとも考えられるが、ミハエル王子にも気があるということになる。
 僕もプロポーズしたいが、リットに病院を作るとなると、ユリにもかなり無理をさせることになる。
 どうするのがいいんだろう。

「なんで即答しないのよ。ユリは齢よりずっと若く見えるんだし関係ないよ。ミハエル殿下は、ユウスケなんかより、ずっと素敵で頼りがいのある紳士だし、王族入りできるのよ」
「まあまあ、そういうな。好きな男と一緒になり苦労して忙しく毎日を送るか、愛してくれる素敵な王子の妻となり、何不自由ない幸せな毎日をおくるかの、究極の選択なんだから」
「お金は関係ない。けど、王族入りすれば、国民を幸せに導く選択肢は増える」
 フレイアの言葉にはっとした。ユリは勇者の称号の影響もあるのだろうが、自分の幸せよりも、国民の幸せまで考える女性だ。国王陛下も率直にものをいうユリの事を気に入っていて、これからもいろいろと意見を聞かせて欲しいと言ってくれたと、ユリが嬉しそうに話していたこともあった。王族になれば、国民を幸せに導く事も可能になるという事だ。
 病院設立でも国民を幸せに導くことはできるが、ユリには王族になった方がいいような気がしてきた。
「ユウスケ、お前も男なら、ユリの幸せを考えて、賛成してやれよ」
 そう言われても、僕はどうしても祝福できず、一人黙ってしまっていた。

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