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第二章 逆さ鳥居の神社編

71話

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 ――翌朝。

 朝食を食べ終わったところで――、

「お兄ちゃん」

 妹が話しかけてきた。

「ん? どうした?」
「さっき純也さんに、学校に休むってことを先生に伝えて欲しいって電話していたけど……、今日って、学校休むって本当なの?」
「本当だ。コイツの我儘で、一緒に病院に行くことになったからな」

 俺は親指で、山城綾子を指差す。

「優斗君。コイツとか、あと指で人を指すのは失礼だとは親からは教わらなかったのかしら?」
「――いや、何となく」
「私、一応は優斗君のクライアントでもあるのだけれど?」
「そういえば、そうだったな」

 100万円貰っているからな。
 一応は、依頼者だとも言える。

「分かった。今度からは、頑張って気を付ける」
「頑張って!? 胡桃ちゃん、お兄さんって、いつもこんな感じなの?」
「――えーっと、お兄ちゃんは、イメチェンする前は、もっと礼儀正しかったと思います」

 妹が、かなり酷いことを言っている。
 もう少し兄を擁護してくれてもいいのではないのか?
 だが問題は、俺は異世界に召喚される前の記憶を殆ど失っているという点なんだよな……。
 つまり、やはりというか以前の俺とは考え方に多少の誤差が出てきているのは仕方ないと言ったところだな。

「イメチェン? それって高校デビューみたいな?」
「――は、はい」

 山城綾子の質問にコクコクと頷き答えている妹。

「胡桃ちゃん」
「何でしょうか? 綾子さん」
「優斗君って、昔は、どんな感じだったのかしら?」
「それって、お兄ちゃんの普段の生活態度を改善することに必要なんですか?」
「ええ。もちろんよ。生徒会長として聞きたいの。普段の素行や態度というのは、過去の出来事の延長線上にあるからね」

 妹が、俺の方をチラチラと見てくる。
 どうやら、俺の個人情報を渡していいものなのかを考えているようだ。

「これでどうかしたら?」

 テーブルの上に置かれる1万円札。
 それを見てパアッ! と、表情を明るくする妹。
 そして――。

「わ、私は! お金なんかに負けませんからっ!」
「そうなの……」

 さらに山城綾子は財布の中から、一万円札を取り出す。
 しかも複数枚も!

 ちなみに今の家の家計は火の車だったりする。
 海外に赴任している両親が中々、連絡が付かない事もあり、ATMがない奥地で仕事をしているのか知らないが生活費の振り込みが滞ることがあるのだ。

「わ、わたし……私は……」
「胡桃ちゃん」

 震える声で、必死に耐える妹。
 それに対して、やさしく妹の名前を呼ぶ山城綾子の様子は、まるで取り調べ中にカツ丼を勧めてくる刑事のようだ。

「我慢は体の毒よ?」
「絶対に、お金になんか負けないからっ!」

 そんなやり取りを俺は食器を洗いながら見ていた。
 
「はぁ、何をしているのか……」

 俺は思わず溜息をついた。


 
 食器を洗い終え、妹を中学に送り出した俺達は公団住宅から一緒に出て階段を降りていく。

「それにしても、胡桃ちゃんは、本当に、お兄ちゃんが好きなのね」
「そうか?」
「ええ。私、それなりに交渉術はある方だと思っていたの。だけど、自信を無くしそう」
「金を積むだけが交渉術じゃないだろうに」
「でも、私は、胡桃ちゃんのことをよく知らないから」
「知らない相手に、金を積んで情報提供を頼むのは下策だぞ」
「……分かっているわ」

 悔しそうな表情をしている山城綾子の表情を見て、俺は何度目かの溜息をつく。
 そして、何となくだが分かってきた。
 おそらく山城綾子という人間は、人付き合いが分かっていないと言う事に。

「まったく不器用なやつだな」
「貴方に言われたくないわ!」
「それは失礼した」

 俺は、肩を竦める。
 そして――、公団住宅の階段を降りていったところで――。

「はぁはぁはぁ……」
「都?」
 そこには、肩で息をしながら、俺を怒った表情で見てくる都の姿があり――。

「………ゆ、優斗。さっき純也から、優斗が学校を休むって聞いたけど……、心配して見にきたけど……」

 今までに聞いた事がないほど低い声で、語り掛けてくる都。
 さらに俺の後ろに居た山城綾子へと視線を向ける。

「優斗! これってどういうことなの! どうして! 生徒会長の山城綾子と、優斗が一緒に朝からいるの!」

 


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