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第二章 逆さ鳥居の神社編

81話

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「そうなんだ。ふぁーあ」
「眠いなら寝ておけ」
「うん。お兄ちゃん、おやすみなさい」

 パタンと俺の部屋のドアが閉まる。

「――さてと……」

 全員が寝静まったのを確認したあと、山崎が渡してきた資料に目を通す。
 ネットに書かれている内容が殆どだが――、その殆どがオカルト系の雑誌や噂を鵜呑みにした内容ばかり。
 信憑性が、どこまであるかは分からない。
 
「まずは……、日向駅近くの伝承か」

 資料には、元々は、10柱近くの神が存在していたと書かれている。
 その中では、天照大神や大国主命も含まれていて、それらが推古天皇の時代以降の主軸になっていると書かれている。

「つまり、豊雲野神は、推古天皇の前に崇められていた神と言うことか? 豊雲野神を祀る主な神社や神宮は、東京と島根県か……。千葉県が含まれていないという考えは早計か……。もしかしたら分社が存在したという考えも出来るからな……」

 だが――、そうなると分社が廃社になったからと言って神という高次の存在が、態々、関わっているとは思えない。
 俺が殺した異世界の女神レイネーゼみたく自身の信仰心を高めようとするのなら話は別だが、地球の神が何かをしたような話は聞いた事がないからな。

「そうなると……」

 考えられることは一つだけだ。
 
「まったく厄介だな」

 俺は、自身の頭を掻く。
 そして資料を学生カバンに仕舞ったあと、ソファーの上に横になり目を閉じた。

「お兄ちゃん! こんなところで寝ていたら風邪引くよ!」
「胡桃か。おはよう」
「おはようじゃないよ! 私の部屋で寝なかったの?」
「まぁ、ソファーを移動するのが面倒くさかったからな」
「もう、お兄ちゃんは……」
「優斗、おはよー」

 パジャマ姿で、俺の部屋から出てくる都は、ふらふらと俺に近づいてくると倒れ込んでくる。
 自然と都を抱きとめる形になってしまい、都の柔らかい肢体や、女性特有の匂いが鼻孔を擽る。

「あー! お兄ちゃんに、朝から何をしているの!」
「別にいいじゃないの。お金払っているんだから」
「お金には、お兄ちゃんと抱き合う権利は入ってませんっ!」
「もう、胡桃ちゃんは、商売人としては失格よ? それに、将来は私が優斗と結婚するんだから慣れておいた方がいいんじゃないの?」
「お兄ちゃんは、誰とも結婚できませんから!」

 都も、胡桃も朝から元気だなと溜息をついていると、両親の部屋から出てきた山城綾子が近づいてきた。
 山城綾子は、外行きの恰好をしており――。

「優斗君。私は、病院に行きたいのだけど、いいかしら?」
「ああ、別に構わない」
「今日もお見舞いに行くの? ――って、何で、お兄ちゃんが山城さんと一緒に行く必要があるの?」
「ごめんなさいね、胡桃ちゃん。昨日も話したけど生徒会の仕事だから」
「うー」

 山城綾子の言葉に不満そうな妹。

「分かったの」
「ありがとうね。胡桃ちゃん」

 ニコリと微笑む山城綾子。
 彼女は、俺の風紀を正すために居候している上、お金まで払っている。
そして病院に行くのは生徒会の仕事であり、俺のためであるなら、妹は反対できない。
 中々な策士だな、こいつ。
 
「それじゃ、優斗君。急いで病院に行きましょう」
「分かった」

 俺も素直に応じる。
 理由は、山城綾子の母親の寿命は、そう長くはないからだ。
 すぐに着替えて外へと出ると、階段から降りた踊り場で山城綾子は、外を見ていた。
 公団住宅が並んでいる景色しか見る事は叶わないが、彼女は、どこか……。

「待たせたな」
「大丈夫よ。車の手配もあるし」
「そうか」
「丁度、車も到着したみたいだし」

 公団住宅の入り口に黒塗りのベンツが入ってくる。
 俺達は、すぐに公団住宅の階段を降りて、到着した後部座席に座ると、車は静かに走り出した。

「それにしても、桂木君が翌日にも病院へお見舞いに行くのに付いてきてくれるのは意外だったわ」
「そうか?」
「ええ。だって、他人の行動に合わせて行動するのとか嫌いなタイプに見えるもの」
「まぁ、そうだな」

 俺は肩を竦める。

「もしかして、桂木君は……お金のため?」
「それもあるが、お前の親父さんから、お袋さんの容態は芳しくないと聞いたからな。なら、会わせておくのが普通だろう?」
「そうなの……、桂木君って、結構、やさしいのね」
「ああ。そうだな」

 人間は死ねば肉の塊――、たんぱく質になるからな。
 それまでに会いたいなら会わせておくのが、戦いの場に長年、身を置いてきた俺の結論だ。




  

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