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第二章 逆さ鳥居の神社編

83話

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 どうする?
 そう考えたところで、遠くから人の走ってくる音が聞こえてくる。
 その足音からして山城の父親である山城裕次郎だというのは分かった。
 おそらく、自身の妻の容態が急変した事を既に聞いていたのだろう。

「――くそっ! 時間がないか」

 病室の窓を開けてから外へと飛び降りる。
 それと同時に身体強化を行いコンクリートに着地すると共に、近くの雑木林へと走り込み、車が走り去った方へと向かう。
 
「まったく――、余計な手間をかけさせてくれる」

 地面を走っていたら車に追いつけない。
 ――なら方法は一つしかない。
 地面を蹴りつけ跳躍すると同時に、周囲の重力力場を操り対外へと影響を与えるエネルギーを相殺しつつ木の枝に降り立つと同時に木々の枝の撓りを利用し高速で移動する。
 山の中を1分ほど走ったところで、百メートルほど前方に山城綾子が乗っているタクシーが見えてきた。

「やはり……、学校に向かっているのか? だが――、何故だ?」

 学校には、鬼が出ると――、怪奇現象が起きていると言っていたはずだ。
 それに、学校にいたら自身の身が危険に晒されると言う事くらいは理解しているようなものだが……。

「考えても仕方ないか」

 俺は、木の枝から枝に飛び移りながら学校の校門前へ降り立つ。
 すでにタクシーは山王高等学校へ続く舗装された坂道を登っていってしまっている。

「さすがに、ここからだと目立つよな」

 学校近くは、さすがに手入れされた木々ばかりで、身体強化したまま坂道を駆け上がるのは目立つ。

「まったく……お主は、相も変わらず問題ごとに首を突っ込んでおるのう」
「伊邪那美?」

 校門前に、これ見よがしに俺が知っている車が停まっていたからおかしいと思ったが……。
 その車から出てきたのは黄泉の女王である伊邪那美命。

「それにしても……、どうして制服なんだ?」
「ふっ。愚問であるな。学校前に来るのであるなら、制服が常識だとネットとやらで書かれていたからだ!」
「ネットを使う神話の神とか……」
「何か問題でも?」
「い、いや? そ、それよりも、どうして、こんなところにいるんだ?」
「決まっておる。主が、また面倒事に首を突っ込んでいると山崎に聞いたからだ。また、厄介ごとのようだの」

 深く溜息をつく伊邪那美。
 いまは、小言を聞いている余裕はないんだが?

「とりあえず俺は行かせてもらうぞ」
「待ってください! 桂木さん。これを!」

 運転席から出てきた山崎が、俺を引き止めながら車のトランクを開ける。

「お前、完全に銃刀法違反だろ」
「元々、外国人部隊に居ましたから色々と伝手があるんです。それよりも、行くんですよね?」
「まぁな。とりあえず好意に甘えさせてもらう」

 さすがに丸腰だと何かあった時に困るからな。
 
「――では、桂木さんには、これを――」
「これは?」
「デザートイーグルです。銃弾は50AEを装填しています。普通でしたら反動が強すぎて一般人では扱いきれないと思いますが、桂木さんでしたら問題ないと思います」
「なるほど……」

 拳銃を2丁、腰に差す。
 さらに――。

「ダガーを、そんなに?」
「ああ。色々と使えるからな」

 ベストを上から着こみ、そこへ差していく。
 さらに上から黒のロングコートを羽織る。

「優斗とやら」
「――ん? どうした? 伊邪那美」
「ここの神は根源神の中の一柱だということは山崎から聞いておるな?」
「ああ、聞いているが――、それがどうかしたのか?」
「神の格としては、妾と同等か、それよりも上になる。普通に戦って勝てる相手では無いと言う事は汝も肝に命じておけ。それと、根源神は――、いや……戦ってはならぬ。如何に貴様が強くとも相手が悪すぎる」
「そうか……」
「はぁー。何と言うか貴様はやはり……」
「何だ?」
「何でもない。それよりも、大勢の人間が居ると言う事を忘れるな」
「それは生徒と言う事か?」
「うむ。それと忠告しておくが――、もし――、仮にではあるが……、神殺しなどをした場合には、神を殺したという罪を背負うことになる。人の子では抱えるには、あまりにも重すぎる――」
「心配しなくても大丈夫だ」

 すでに神なんてモノは異世界では100匹ほどぶっ殺しているからな。
 今更、一匹増えたところで何の問題もない

「そうか……」

 俺は伊邪那美の言葉を遮り言葉を返す。
 すると伊邪那美は、俺の『心配しなくても大丈夫だ」と、言う事を勘違いしたのか安心した表情を見せる。
 それにしても、俺が神殺しをするとか安易に思われる時点で、俺は伊邪那美にはどう思われているのか不思議でならないんだが……。
 俺は、あくまでも平和主義者なんだがな。

「山崎。校舎内の人間を何とか避難させてくれ」
「それは無茶もいいところ……」
「お前にしか頼めないんだ。頼んだぞ」
「はぁー。仕方ないですね……。分かりました! 分かりましたよ!」
「それじゃ頼んだぞ」

 俺は一人、校舎へと続く坂道を走り登っていく。
 丁度、授業中だったからなのか運が良かったこともあり校庭にも人影はなく、俺の姿を見られることもなく昇降口に到着することが出来た。

「――やはり……」

 波動結界を展開し周囲を確認したところ、山城綾子は、校舎内ではなく校舎の裏手――、裏山へと向かっていた。

  

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