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第20話 邪神ルナの追跡

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『そうか、王道様はこの村に立ち寄られたのだな?情報の提供に感謝する、礼としてこれを褒美としてくれようではないか』

ルナは服の内側から1枚の旗を取り出した。

「これは?」

『うむ、それは私の直轄地を示す旗だ。それを外からでもよく見える場所にでも立てておけば邪族達はこの村を襲う事を絶対にしない』

「本当ですか!?」

『直轄地の住人に傷1つでも付ければ命は無い、私邪神ルナが保証する。あと直轄地の旗は立てさせて貰うが何もする気は無い、王道様の立ち寄られた地を汚す事は決してしないと約束しよう』

「どうも有難うございます」

『ただし、私にくれた情報が嘘だった場合はその旗が周囲の全てを灰にするので覚悟する事だ』

ルナはそう言い残し、山都の村を離れた。

「ルナ様、先程の情報を信用してよろしいのですか?」

『信用しても良かろう、あの村の宿で5部屋借りたのは事実だ。女を複数連れているのにも関わらず己の部屋に連れ込む真似もしなかったそうだからな。きっと私の為に操を立てているのだろう』

「それでは情報の通りに進むとして、この先の分かれ道はどちらに進まれますか?」

佐々碁峠と醍慕刹峠に続く道を邪王の1人に聞かれたルナは即答した。

『無論、醍慕刹峠だ。人通りの少ない道を通ろうとするのなら佐々碁峠は選ばない、それにそちら側の邪族が倒されたという報告がこれまでに無かったからな。ならば、醍慕刹峠に向かっていると考えるべきだ』

「なるほど」

迷う事無く醍慕刹峠を選んだルナはゆっくりと峠道を登り始めた、空も飛べる筈のルナが終始歩いている事に疑問を感じた邪王が一応聞いてみた。

「空を飛ぶ事も出来る筈なのに、歩かれている理由は何ですか?」

『分からぬか?こうして歩きながら、王道様がどの様な考えを浮かべながら歩いていたのか想像しているのだ』

「はあ・・・」

『喉が渇いたとか急な坂道だとか同じ気持ちを抱けていたとすれば、どんなに素晴らしい事だろう。それを考えただけで私の胸が高鳴るのだ』

邪王は心の中で半分呆れていた、人の感情を得た為にこの世界の神の1人が狂い始め主の邪神さえも同じ様になってしまった。この世界の住人にとってライアは迷惑な神様に見える筈だが邪族にとっても今のルナは自分で連れてきた邪族を身勝手な理由で見捨てる駄神に他ならなかった。

(私の命1つで邪族が救われるのなら安い物だ、王道とかいう男を速やかに殺しておくべきだろう)

『おいお前、たった今より私と王道様の世話役の長たるメイド長に任ずる。その無粋な衣装を脱ぎメイドとして相応しい格好に着替えなさい』

「私がメイド長ですか!?」

『そうだ、残りの4人もメイドとして働いてもらう。王道様に喜んで貰える様に短めのスカートを着用する事』

ルナはそう言いながら右手をかざすと指先から黒い糸の様な物を出てきた。それは連れてきた5人の邪王の額の部分にサークレットの様に結ばれると妖しい光を放ち始める。

『今、付けた物は王道様に危害を加えようとしたり殺意を抱いた瞬間に発動するある仕掛けが施されている。王道様に仕えるメイド達も王道様を心から愛するべきだ。なので、仕掛けが発動するとお前達は王道様の事が好きで好きで堪らなくなる。命を奪わない私の優しさに感謝するのだな』

(そんなっ!?)

言い終わると同時に5人の邪王の仕掛けが一斉に発動した、5人全員考える事は同じだった様だがそんな邪王達の行動を見越したルナの先手のお陰で王道の命の危険は当面回避される事となった。

『私も王道様と会うのに相応しい衣装に着替えておくとするか』

それから約1時間後、メイド服姿に着替えた邪王達を従え黒のウェディングドレスに衣替えしたルナは再び王道の下へ歩き始めた。




「ヘェックション!!」

嵯峨塩の温泉宿の中で王道は大きなクシャミをした。

「誰か俺の噂でもしているのかな?」

「あなたの噂をする人なんてこの世界ではすごく限られているから、考えたくもないわ。それよりも食事中にクシャミは失礼よ王道」

「王道さんの噂をしそうな人達はここに居る私達を除けば、ライアや門音さん達しか居ませんからね。周辺に王道さんが隠れていない事に気付いてそろそろ追っ手を出して来るかもしれないから注意しておいた方が良いですね」

「王道さんはそれ以上私に近づかないで下さいね、近づけば罠が発動しますよ」

「先日までは病気扱いされてたのに、今度はケダモノ扱いかよ。俺そろそろグレるぞ」

王道達がこの宿に来てから4日近く経とうとしていた、宿の主人から峠の頂上付近に邪族らしき小集団の姿が最近確認されていると聞かされ準備をしていたのだ。こちらの人数が少ない上にサクラも連れているので派手な行動は出来ない、そこで食事の後の空いている時間で各自の連携強化の意味合いも兼ねて宿の中庭で模擬戦を行っていた。

「よ~しそこまで!一旦休憩だ」

「あ~暑い、もう汗でびしょびしょ。奈央~また何時ものお願い」

「私もそうします、王道さん。済みませんがまたお願いします」

「あ、ああ。1人ずつ順番だからな」

以前、臼束付近の邪族退治を行った際に奈央がやった小雨のシャワーで汗を洗い流すのが模擬戦終了後のお約束となってきた。それに伴い、王道は分解時に華憐や奈央だけでなく薫の裸も毎回拝んでいるのだがそろそろ我慢するのも辛くなってきた。

『王道さん、どうかされたのですか?』

アクアが王道の様子が不自然な事に気が付いて声を掛けた。

「いや、何でも無いよ」

「そりゃ、目の前で若い女の子の濡れた姿を見ていれば思わず妄想しちゃいますよ。華憐さん達の裸の姿とか」

サクラが華憐達に聞こえる声でまずい事を言い出した、しかし妄想ではなくて実際に裸が見えている事は口が裂けても言えない。

「王道、私の裸を想像しちゃったの?どうしても見たいのなら貸切風呂を借りて見せてあげるわよ」

「王道さんと2人きりでなら・・・肌を見せてもいいですよ」

「いや!本当にケダモノだわこの人、近くに居るだけで視姦されていただなんて」

『あらあら、王道さんも助かりましたね。本当の事がバレたら今頃大騒ぎでした』

アクアが楽しそうに見物している、だが王道はアクアの言葉を見過ごす事は出来なかった。

「おいアクア、もしかして気付いているのか!?」

『ふふふ、随分と美味しい思いをされていますね。ご安心をこの事は誰にも言いませんから、だってその方が知られた時の反応に期待が持てますので』

「ふざけた事を考えるな、この駄神!?」

『そんな事を言うのでしたら、今この場で華憐さん達に教えますよ』

「すいません俺が悪かったです、勘弁してください」

『分かればよろしい』

サクラは王道とアクアや華憐達のやり取りを羨ましそうに眺めていた。

(良いなぁ~あれ位積極的にしていれば叔父さんとの関係も変わっていたのかな?けど、王道さんの照れる顔も見ていて何だか新鮮かも。もう少しだけ見ていても大丈夫よね?)

叔父さん以外の男性と初めて長い時間同じ場所の中で生活したサクラは王道の表情の変化にちょっとだけ興味を示した。




『川の水がやけに少なくないか?』

ルナは道の途中で流れる川を見ながら呟いた。

「何か気になる事でも?」

『そういえば、醍慕刹峠の頂上付近に根付いた邪族の者の名は何であったかな?』

「確か、ドームタートルだった筈です。1度寝ると数年は目覚めない巨大な亀型邪族です」

『いかん!急いで王道様を追うぞお前達』

「どうされたのですか!?」

『ドームタートルの奴がもしも、谷間で寝て川の水を堰き止めていたらどうする?起きた瞬間に貯まっていた水が流れ出し下流まで押し流すぞ!?』

王道達が滞在していた嵯峨塩の温泉宿を濁流が襲いかかろうとしていた・・・。
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