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生粋の貴族夫人・フィーリアは、強い瞳の彼らに出逢う。
第3話 大胆な提案(2)
しおりを挟むグウゥゥゥゥゥー……。
「「……」」
「……?」
何の音だろうと思った矢先、ノインがプッと噴き出した。
「ちょっとディーダ、本当にお腹減っちゃったの? もしかして、さっきのあの一言で?」
「しっ、しょうがねぇだろ?! 二日連続で食ってねぇんだから! っていうか、半分はお前のせいだろうが!」
「フッ……何でよ」
「お前が飯の話なんてするからだよ!」
噛みつく茶髪の彼――ディーダと、躱すノイン。二人のやり取りを聞きながら、そういえば昨日も雨だったなと思い出す。
先程彼らは『雨の日はご飯にありつけない』というような事を言っていた気がする。じゃぁ本当に二日間も……?
目の前で「お前のせいだ」「ボクのせいにしないでよ」と言い合う二人は、どう見ても元気にしか思えない。でも、二人はまだ私の背にも届かない子どもだ。二日も食事抜きの状態が体に良いわけがない。
不安になった。彼らのこの強い瞳は、もしかしたら突然かげる事があるかもしれない。
実の両親と弟の事故も、今日屋敷から追い出されたのだって。いつだって、突然事態が暗転することがある。
もしかしたら『綺麗な彼らの瞳をもう少し見ていたくて』とか、『もう少しだけ話し相手をして欲しかった』とか、そういう打算もあったのかもしれない。
でも何よりも「まさか」が起きうると知っていたから、事なかれ主義で人見知りで、目立つことが苦手だった私でも、大胆な一歩が踏み出せた。
「あのっ!」
気が付けば声を上げていた。
胸の前でギュッと握り締めた両手に握られているのは、つい先程拾ったばかりの、なけなしの餞別だ。
「一緒にご飯を食べませんかっ」
両目を固く瞑って告げた。勢いと共に前に突き出した革袋の中身が、チャリッと鈍い金属の音を鳴らす。
答えがまったく返ってこない。
恐る恐る目を開け二人の様子を窺うと、言い合いを止めてこちらを見た彼らとまっすぐ目が合った。
まるでハトが豆鉄砲を食らったような顔が、そこにはあった。
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