姫金魚乙女の溺愛生活 〜「君を愛することはない」と言ったイケメン腹黒冷酷公爵様がなぜか私を溺愛してきます。〜

水垣するめ

文字の大きさ
33 / 57

33話 「私と友人になりなさい」

「遅くなったな、イザベラ」

アーノルド王子がその美女に謝った。

(この人がイザベラ様……)

私はイザベラ様の綺麗さに見惚れていた。
艶のある黒髪に、品のる佇まい、そして気の強さを感じさせる鋭い赤色の瞳。
その目つきはどこかカトリーヌやローラに似ていたが、イザベラ様は彼女たちと違って高潔な雰囲気を纏っていた。

「あなたが外に行っている間に政務を一つ終わらせましたわ。今日の勝負は私の勝ちかしら」
ふふん、と勝ち誇った笑みで肩にかかった髪をかき上げた。
「残念だったなイザベラ。俺は朝の時点ですでに二つ終わらせている」
「そうですか、それでしたら私も二つ終わらせましたわ。これで合計三つの仕事を終わらせた私の勝ちですわね」
「誰が昼に政務をしていないと言った? 俺は昼にも二つ終わらせている。これで合計四つ、俺の勝ちだな」
「私は昼に二つ終わらせましたわ。合計五つ」
「俺はこれから夜に政務をできるだけ終わらせるつもりだ」
「そうですか。では私も王子と同じスピードで政務をすることにしましょう。ああ、楽しいでしょうね。追いつくことはないと分かっていながら必死に政務をこなす王子の顔は」
「……」
「……」

アーノルド王子は何の躊躇いもなくイザベラ様にガンを垂れ、イザベラ様はそれに対して顎を上げてアーノルド王子を見下ろしながら好戦的な笑みを返している。
二人の間に火花が散っているように見えた。
部屋に入るなり急に始まったアーノルド王子とイザベラ様の舌戦にただ驚くことしかできなかった。

「また始まった……」

ノエル様は呆れたようにその光景を見つめている。
私は恐る恐る小声でノエル様に質問した。

「あの、ノエル様、これは……?」
「ああ、二人はとても競争心が高く、ライバルなのです。そのため政務をどれだけ多く終わらせたか、早く終わらせたかで毎日競い合っているんですよ」
「イザベラ様は政務を?」
「ええ、『いつか夫婦になるのだから、私も政務ができた方が良い』と言って政務を手伝っているんです」
「なるほど……」

私はもう一度睨み合っているアーノルド王子とイザベラ様を見た。
似たもの同士だとは聞いていたが、確かにその通りだ。
今目の前で睨み合っている二人はまさしく似たもの同士だろう。
一見仲が悪そうに見えるが近くで見ると険悪な訳ではなく、むしろこれが二人にとってのコミュニケーションの撮り方なのだろうということが分かる。
とてもお似合いの二人だと思う。

「二人とも、リナリアが困惑しています。そろそろ止めて下さい」
「おっと、そうだった。こちらから招いておきながら放置するという非礼、謝罪する」

ノエル様の言葉でようやく正気に戻ったアーノルド王子が私に謝罪してきた。

「申し訳ありません」

イザベラ様も私に向かって謝罪してきたので、私は少々居た堪れなくなる。

「いえ、私は大丈夫です……」
「その子がノエル様の婚約者ですの?」

イザベラ様の赤色の瞳が見定めるように私を覗き込んでいる。

「ええ、そうです。リナリア」

ノエル様に目で「挨拶を」と言われたので私はイザベラ様に対して挨拶をした。

「お初にお目にかかります。リナリア・マリヤックと申します」

私はスカートを広げて挨拶をしたのだが……。

「角度が浅い。公爵家と王族がいる場ではもっと頭の角度を深くなさい。敬意が足りないと難癖をつけられることになりますわよ」

途端にイザベラ様から鋭い叱責が飛んできて、私は目を丸くした。
イザベラ様はとても鋭い目で私を見ていて、人によっては気圧されそうなオーラが出ていた。
目の端でノエル様とアーノルド王子が「またやった……」と言いたげな表情で天井を仰いでいるのが見えた。

「言われたことはすぐにする。ほら、やり直しなさい」
「は、はい」

私はもう一度挨拶をやり直す。
今度はイザベラ様の言った通りに頭の角度を深くするのを忘れない。

「お初にお目にかかります。リナリア・マリヤックと申します」
「それでいいわ」

今度は合格点をもらえたようで私はほっとして息を吐いた。

「それでいいわ、ではない」
「痛っ」

ペチン、とアーノルド王子がイザベラ様の頭を叩いた。

「イザベラ、初対面の人間に対してそんな風に接したら萎縮してしまうと何度も言ってるだろう」
「う……」

イザベラ様はアーノルド王子にそう言われて頭を押さえながら申し訳なさそうな顔になった。
アーノルド王子が私に謝罪してきた。

「すまないリナリア。イザベラは緊張するといつもこうなんだ」
「……ごめんなさい」
「あ、いえ。私は気にしていませんから。それに、ありがとうございますイザベラ様」
「え?」

私はイザベラ様に頭を下げて感謝した。
顔を上げるとイザベラ様は三人とも驚いた顔をしていたので、私は何かおかしなことを言ってしまったのかと首を傾げる。

「え? だって、イザベラ様は私のことを思って挨拶の仕方を注意してくださったのですよね?」
「そ、そうだけど……あなたは私のことを怖いと思ったりしなかったの?」
「全然思いません」

私は首を振る。

(なんて優しい人なんだろう)

怒られた時、落ち込んだのは落ち込んだがそれと同時に、私はイザベラ様に対してそんな感想を抱いた。
私の挨拶が間違っていたらそれを正してくれたのはきっと私のためだ。
だって、間違った挨拶をしていてもそれを黙っておけばいいのだ。それを指摘してくれたということはこれからパーティーに向かう私のためだろう。
礼儀作法が間違っていれば恥をかくのは私。イザベラ様は私が恥をかく前に正してくれたのだ。

(それにあの人たちとは違って、私を詰るために言っていた訳じゃない)

本当に詰る時は時はたとえ間違っていなかったとしても何回もダメ出しをされてやり直しをさせらるのだ。実家でそう学んだ。その点、やり直した時にすぐに合格を出してくれたので、私に嫌がらせをしたかったわけではないことが分かる。
加えてイザベラ様の叱責はとても真っ当だった。
これらののとかららイザベラ様はきつい印象を与える人間だが、根はとても優しい人なのだろうと私は思った。

「……」

イザベラ様は目を見開いて私を驚いたように見つめていた。

「……驚いたな。イザベラに萎縮しないとは」
「ええ、私も驚きました。リナリアはもっと、こう、怖がりなのかと……案外豪胆なのですね」

アーノルド王子とノエル様も驚いた表情で私を見ていた。

「もう、ノエル様。豪胆なんて言わないでください!」

私はノエル様の肩をぺしんと叩いて抗議する。
乙女に豪胆とはちょっと酷くはないだろうか。

「も、申し訳ありません」
「はは、ノエル。お前は意外と尻に敷かれるタイプだな」
「余計なことは言わないでください」

ノエル様がアーノルド王子を睨む。

「分かった分かった。では仕切り直してちゃんと自己紹介をしよう──」

アーノルド王子がそう言った時。

「リナリアって名前だったわよね?」
「は、はい」

ソファから立ち上がったイザベラ様が私の目の前までやってきて手を取った。
イザベラ様の瞳がバッチリ私の目と合う。
そのまま少しの間私たちは見つめ合った。
先に口を開いたのはイザベラ様だ。

「……ウサギみたい」
「え?」

私と見つめ合っていたイザベラ様が口を開いたと思ったらそんなことを言い出したので、私はついそんな声を上げてしまった。
しかし次の言葉でその困惑は吹き飛んだ。

「決めたわ。リナリア、私の友人になりなさい」
「……え?」

イザベラ様は突然そんなことを言い出した。
感想 67

あなたにおすすめの小説

誘拐された公爵令嬢ですが、なぜか皇帝に溺愛されています』

富士山麓
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった

歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。 だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」 追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。 一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。 誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。 「その言葉は、もう翻訳できません」

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

妹の身代わりに殺戮の王太子に嫁がされた忌み子王女、実は妖精の愛し子でした。嫁ぎ先でじゃがいもを育てていたら、殿下の溺愛が始まりました・長編版

まほりろ
恋愛
 国王の愛人の娘であるアリアベルタは、母親の死後、王宮内で放置されていた。  食事は一日に一回、カビたパンやまふ腐った果物、生のじゃがいもなどが届くだけだった。  しかしアリアベルタはそれでもなんとか暮らしていた。  アリアベルタの母親は妖精の村の出身で、彼女には妖精がついていたのだ。  その妖精はアリアベルタに引き継がれ、彼女に加護の力を与えてくれていた。  ある日、数年ぶりに国王に呼び出されたアリアベルタは、異母妹の代わりに殺戮の王子と二つ名のある隣国の王太子に嫁ぐことになり……。 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろうとカクヨムにも投稿しています。 ※中編を大幅に改稿し、長編化しました。2025年1月20日 ※長編版と差し替えました。2025年7月2日 ※コミカライズ化が決定しました。商業化した際はアルファポリス版は非公開に致します。 ※表紙イラストは猫様からお借りしています。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

【完結】ねぇ、それ、誰の話?

春風由実
恋愛
子爵家の三男であるアシェル・イーガンは幼い頃から美しい子どもとして有名だった。 その美貌により周囲の大人たちからは、誰からも愛されて育つ幸福な子どもとして見られてきたが、その実態は真逆。 美しいが故に父親に利用され。 美しいが故に母親から厭われて。 美しいが故に二人の兄から虐げられた。 誰も知らない苦悩を抱えるアシェルは、家族への期待をやめて、早く家を出たいと望んでいたが。 それが叶う日は、突然にやって来た。 ウォーラー侯爵とその令嬢ソフィアが、アシェルを迎えに現れたのだ。 それは家に居場所のないアシェルの、ちょっとした思い付きから始まった行いが結んだ縁だった。 こうして王都を離れ侯爵領でのびのびと健やかに成長していったアシェルは、自分が美しいことも忘れていたくらいだったから、自身の美貌の余韻が王都の社交界にて壮大な物語を創生していたことに気付けなかった。 仕方なく嫌々ながら戻ってきた王都にて、大事な人を傷付けられて。 アシェルは物語を終わらせるとともに、すっかり忘れ去っていた家族たちとも向き合うことにした。 そして王都に新しい物語が創生する。それは真実に則った愛の物語──。 ※2026.1.19 おかげさまで本編完結いたしました。ありがとうございます♡

精霊の愛し子が濡れ衣を着せられ、婚約破棄された結果

あーもんど
恋愛
「アリス!私は真実の愛に目覚めたんだ!君との婚約を白紙に戻して欲しい!」 ある日の朝、突然家に押し掛けてきた婚約者───ノア・アレクサンダー公爵令息に婚約解消を申し込まれたアリス・ベネット伯爵令嬢。 婚約解消に同意したアリスだったが、ノアに『解消理由をそちらに非があるように偽装して欲しい』と頼まれる。 当然ながら、アリスはそれを拒否。 他に女を作って、婚約解消を申し込まれただけでも屈辱なのに、そのうえ解消理由を偽装するなど有り得ない。 『そこをなんとか······』と食い下がるノアをアリスは叱咤し、屋敷から追い出した。 その数日後、アカデミーの卒業パーティーへ出席したアリスはノアと再会する。 彼の隣には想い人と思われる女性の姿が·····。 『まだ正式に婚約解消した訳でもないのに、他の女とパーティーに出席するだなんて·····』と呆れ返るアリスに、ノアは大声で叫んだ。 「アリス・ベネット伯爵令嬢!君との婚約を破棄させてもらう!婚約者が居ながら、他の男と寝た君とは結婚出来ない!」 濡れ衣を着せられたアリスはノアを冷めた目で見つめる。 ······もう我慢の限界です。この男にはほとほと愛想が尽きました。 復讐を誓ったアリスは────精霊王の名を呼んだ。 ※本作を読んでご気分を害される可能性がありますので、閲覧注意です(詳しくは感想欄の方をご参照してください) ※息抜き作品です。クオリティはそこまで高くありません。 ※本作のざまぁは物理です。社会的制裁などは特にありません。 ※hotランキング一位ありがとうございます(2020/12/01)