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「ただのファイアボールがこんな魔法になるなんておかしいでしょ!?」

「それはボクが普通の精霊よりもちょっと強いから。けどアイリなら他の精霊でも同じことは出来るよ?」

 ルーチェは淡々とそう告げる。
 逆に余りにも淡々としていたので、逆にそんな気がしてきたぐらいだ。

「そうなの……?」

「精霊巫女の力は魔法の効果を増幅させることだからね。そこにボクたち精霊がいるなら初級魔法でも上級魔法と同じくらいの威力になる」

「精霊巫女強すぎじゃん……」

 ルーチェの言葉は信じ難いが、本当なのだとしたら上級魔法を使える精霊巫女はどれだけ強いんだ……?
 精霊巫女が重宝される理由が分かった気がする。

「それよりアイリ、あいつの爪と牙を拾って」

「あっ、そっか。回収しないと」

 ルーチェの見ている方向を向くと、死んだキングウルフの爪が少し残っていた。

 私はそれを全て拾いアイテムポーチにしまう。
 キングウルフの場合、爪と牙は素材としてとても貴重とされているらので高く売れるはずだ。

 顔を上げると、もう日が傾きかけていた。

「さてと、日が暮れない内に戻らないと。ルーチェは家とかあるの?」

「ない。ボクはアイリについてく」

「分かった。一緒に帰ろう」

 そして私たちは歩き始めた。
 流石にもう魔物に遭遇することは無かった。

 街までの帰路を歩きながら私はルーチェに精霊巫女について説明を受けた。

「精霊巫女は生まれつきのものなんだよね?」

「うん」

「じゃあなんで今まで精霊が見えてなかったの?」

「分からない。けど、誰かがアイリの力を封印してた」

「封印……?」

 記憶を探るが、封印なんてされた覚えは無い。

「たぶん、記憶も消されてるんだろうね」

「何の為に封印なんか……ん?」

 私が悩んでいると、ふわふわと光の球が私に近づいて来た。
 光の球はどんどんと増えて、私の周りを飛び始める。

「これは……?」

「それは精霊。見えるようになったってことはやっと力が戻ってきたみたいだね」

「これ全部精霊なの?」

 私が手でお皿を作ると、光の球がそこに乗る。
 なんだか可愛い。

 そうこうしている内に街に帰ってきた。
 門の前の行列に並んだ時、私はあることを思い出した。

「あ、ルーチェのことなんて説明しよう……」

 街には入る前に検問がある。
 このフワフワとした生物を何と説明すればいいのだろうか。

「大丈夫だよ」

「え?」

 私が悩んでいるとルーチェが瞬時に変身した。
 ルーチェの姿が変化し、毛先がカールした白髪のおっとりとした雰囲気の美少年になった。

「これでボクも街に入れるよね?」

 ルーチェが整った顔でにっこりと笑った。

「ええ!? ルーチェって人間になれるの!?」

「えへへ、すごいでしょ」

「うん、すごい……」

 ルーチェがさらに満面の笑みになる。
 私に褒めて貰って嬉しいようだ。

「次の人!」

 ちょうどその時検問の順番が回ってきた。
 兵士の前に行って私は冒険者プレートを見せる。

 検問といっても犯罪者じゃないかどうか身分を確認するだけで、特に何かするわけでは無い。
 兵士が隣のルーチェに目を向けた。

「この子どもは?」

「あー、えっとこの子は、カセル山で迷子になっていたので保護しました」

 私はルーチェが精霊であることを隠す為に嘘をついた。
 少し怪しい言い方だったが、子どもだからだろう、兵士は特に不思議に思うことなくルーチェを通してくれた。

「そうか。行っていいぞ」

 兵士から許しが出たので私たちは門をくぐり、街の中へと入る。
 正直家に帰りたい気持ちではあったが、ぐっと堪えて『希望の王国』で依頼を完了させることにした。
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