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第五話「現実はクソだ」と少女は思っていた

Chapter 1、幼少期の思い出

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『子供が見ているのに、いいのか?』
『いいのよ、ほら晶、ゲームしてて』

 享楽的で怠惰な性格の母は、間男といちゃつく暇はあっても、家事や子供の相手をすることは放棄。
 おかげでわたしは物心ついた頃から一日の大半の時間を、携帯ゲーム機で一人遊びして過ごしていた。

『また今日の夕食もレトルトか。部屋も散らかったままだし、お前いったい一日中なにやってるんだ?』
『……色々忙しいのよ……』

 母より一回り年上の父は生真面目な性格の会社員で、夫婦としての相性は最悪。
 言い争いが絶えない荒んだ家庭は、わたしが小二のときに破綻した。

『なぜ、勝手に子供を堕ろした?』
『だから、結婚する前からわたしは子供が嫌いだって言ってるでしょ? 晶が出来たときはあんたが土下座して頼むから、仕方なく結婚して産んでやっただけ。避妊失敗で二人目なんて冗談じゃない』

 いつもより激しい夫婦喧嘩の末、父に離婚を言い渡された母は、翌日、せいせいしたように家を出ていった


 父と二人暮らしになった数日後。

『ねぇ、晶ちゃんってお母さんに捨てられたんだって?』

 小学校からの下校途中、仲間を引き連れたおさななじみの愛美が待ち伏せしていた。
 わたしはその底意地の悪い笑顔を見返しながら、彼女が幼稚園の頃、園庭でしきりに蟻を踏みつぶして遊んでいたことを思い出す。

 そうして今度は蟻のかわりにわたしをいたぶろうとしているのだと即座に悟り、ムカつきながらもその心理が理解できた。

 なぜならわたしも彼女同様、いつも内側にたまったストレスを、なにかを、あるいは誰かを「破壊」して、発散したい衝動がつねにあったからだ。

 だからわたしは、しつこく進行方向を塞いでくる愛美に思い切りタックルを食らわすと、倒れたところに蹴りを一発おみまいした。

『邪魔なんだよ』

 わたしは蟻なんて踏み潰さない。
 どうせ「破壊」するなら、自分に「害」を与えうる者を選ぶ。

 その晩、愛美の親が家に苦情を言いにやってきて、帰ったあと、父はわたしに言い聞かせた。

『晶、もっと他人の痛みを理解して、思いやりを持ちなさい』

『どうしても無理だとしたら?』

『え?』

『他人の痛みや気持ちがわからない人間に生まれついた場合はどうするの?』

『晶……!?』

『誰かが痛がっていてもわたしは痛くない。誰かが泣いていてもわたしは悲しくない。わたしには、他人の感情や痛みなんて分からないし、分かっているフリをするのもイヤ』

『……お前は……母親にそっくりだ……』

 たしかに父の言うように、わたしの性質は母とよく似ていた。
 けれどわたしは決して、なんの抵抗できない小さな命を殺したりはしない。


 ――だからわたしは今日も愛用のショットガンで、ゾンビを撃ち殺しまくるのだ――

「晶っ、建物の裏側のゾンビは全部倒し終わったぞ」
「じゃあ、中へ入りましょう」

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