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3、アデルの心の拠り所

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(でもきっとこれまでのように表面上は耐えられるわ……。
 なぜなら私にはエミール様がいるのだから)

「ただいま、エミール様-」

 アデルは寮の個室の一角のエミール様コーナーで、絵姿、自作人形、貰った私物などのエミール様グッズに囲まれながら今日も一日の疲れを癒した。
 漆黒の髪に神秘的なアメジストの瞳の絶世の美形のエミール・ガニエは当世人気の若手舞台俳優。

 アデルの現在進行形の初恋の人で、9歳の時、初めて彼が主演する舞台を見てからずっと大ファンだった。

 そう、その実、恋愛劇を好む内面は誰よりも乙女のアデルなのだ。

(本当は尊敬も愛もない結婚なんてしたくない……!)

 本音ではそう思いつつも、しかし、両親の前ではとてもそんなことは言えない。
 なぜならアデルと同じ、王太后が決めた縁談によって愛のない結婚をした二人なのだから。

 おまけにバルト公爵と妻のローラの性格は水と油。
 武勇でならしてきた硬派なバルト公爵に対し、王妹のローラは享楽的で騒がしい性格。
 王太后の命令で夫が領土拡大の遠征に行きっぱなしなのをいいことに、ローラは毎日パーティー三昧。
 今日も流行の先端を行き過ぎた珍奇な衣装を着て、公爵家の庭で昼餐会を開いている。
 屋敷にいると昼夜騒がしいので、よほど学園の寮にいたほうが落ち着くアデルだった。
 今も卒業式前の休日に、十ヶ月ぶりに戦いから帰ってきた父に会いに、実家を訪れただけである。

「やはりレイモン様に好かれないのは、私に女性的な魅力が不足しているからなのでしょうか……?」

 平気なフリをしていても密かに深く悩んでいるアデルだった。

「何を言う、アデルは優秀なだけではなく王国一の美貌の持ち主!
 お前以上に魅力的な女などこの国に――いや世界中にだっているものか!」

 いかつい軍人であるバルト公爵も、娘のアデルには甘々だった。
 息子が救いようのないアホなだけにますます娘が可愛いくみえていた。

「顔はそうでも身体が……」

 アデルは三杯目の牛乳を飲みながら、自分の胸元を見下ろした。

 娘の言わんとしていることを悟った公爵はチラッと牛並みの妻の乳を盗み見る。 

「その控えめさがいいんじゃないか、余計な部分に栄養を取られていないからお前は賢いのだ」

 後半の偏見部分は小声で言った。

 ジェレミー以外の男子生徒はレイモンから攻撃されるのでアデルに近づかない。
 そうとは知らずに本人は自分が全くモテないと勘違いしているのだ。

「アデル、お前を不幸にするだけの結婚なら、今からでも取り止めていいのだぞ?」

 実際、王国一の武力と王の数倍の尊敬と人望を集めるバルト公爵ならば、なんとでもできるだろう。
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