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1.母と息子
しおりを挟む「・・・うえ!・・・て!おき・・!」
「うぅ・・あぁ・・」
「母上!!」
「ハッ!!」
遠くから呼ぶ声に飛び起きた。
私の愛しい愛しい声。
「母上?怖い夢をみましたか?」
「はぁっ・・・はぁっ・・ア、アラン・・・大丈夫よ。おはよう」
粗末なベッドの上で息子のアランが私の頬を撫でた。私はその小さな手の上に自分の手を重ねて、息子に微笑む。
「大丈夫よ。怖い夢を見たけど、アランっていう騎士様が助けに来てくれたわ」
「僕が守ります!」
「ふふ。アランは私の騎士(ナイト)ね」
私はそう言いながらベッドから起き上がった。
今朝は久しぶりにあの夢を見た。
昔ほど頻度は高く無くなり、アランが生まれてからは余裕もなくて夢さえ時々になっていた。
いつまであの日の後悔を見つめ続けなければならないのか。
私は苦笑した。
「もう過ぎたこと・・・か」
「母上!僕お腹空きました!朝食にしましょう!」
「ええ。そうね。母もお腹ペコペコです」
小さく呟いた言葉は幸いアランには届かず、私はアランと共にキッチンへ行った。
小さな家、家とも呼べないかもしれないがここは私と息子の宝物がいっぱい詰まった家だ。
スラム街にあるこの小さな家は今の私の全財産。昔の私の暮らしからは想像できない暮らし。
「アラン、机の上にお皿を並べてくれますか?」
「はい。コップも出しますか?」
「お願いします」
にっこり笑う私に嬉しそうにする息子。
金髪に緑の瞳をした息子をベッドから下ろし、着替えた。
二人でお喋りしながら私は蒸かした芋を潰し、皿に盛った。スープは昨日の残り物の具の殆どない冷たいスープ。
息子にこんな物しか食べさせてあげられない事に罪悪感が募る。これから成長期を迎えるであろうアランにこれでは栄養失調になってしまう。
なんとかしなければ。
でも、どうやって?
「いただきます」
「はい、いただきます」
アランは私に文句も言わず、美味しそうに食べる。アランにはたくさんの美味しい物を食べさせてあげたいのにそう出来ない自分自身が嫌になる。
でも、嘆いてはいられない。生きて行かねばならないのだから。
「アラン、母はそろそろ出なくてはならないので残りの朝食はアランが食べてね」
少しだけお腹に収め、立ち上がる。
「母上・・・ちょっとしか食べてません」
「母は少しだけでお腹いっぱいになるのよ。アランは男の子だから母の分も食べられるでしょう?」
「・・・・いただきます」
アランは少し暗い顔をしたが、私がにこにこ笑っていると食べ始めた。
アランはとても聡い子だ。恐らく私がお腹いっぱいではない事くらい分かっている。それでも飲み込んで食べてくれた。
私はこの子のためなら、何でも出来る。
「アラン、目薬は点したの?」
「はい。母上が起きる前に点しました」
「ならいいわ。忘れないようにするのよ」
私は毎朝これを確認しなければ安心出来ない。
これを忘れてしまうと、私とアランは一緒にいられなくなる。
それだけは絶対に避けたいのだ。
「じゃあ、仕事に行って来るわね。今日私が遅くなりそうだったら、ババ様の所で食べさせてもらいなさい」
「早く帰って来てくださいね」
「ええ。じゃあ行って来ます」
「無理しないで・・・」
息子の不安そうな顔を見て胸が少し苦しくなるが、気付かないふりをして私は自宅の扉を開けた。
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