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006 母の苦労
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母は私の部屋へ、使用人に古いドレスを運ばせました。
何故か母も私の部屋に現れたことに驚きましたが、母はドレス選びを手伝ってくれるようです。母のドレスは型は古いですが、質素で上品な物でした。
「どれももう着ないからベルにあげるわ。ひとつだけ選んでお直ししてもらいましょう」
「はい。ありがとうございます」
「でも、ベルが後妻……ね」
母は私を哀れんだ目で見つめ、溜め息を吐きました。母も、後妻は反対なのでしょうか。波風立てず静かに嫁いでしまいたいので、私に構わないで欲しいのですが、そんな事は口に出せません。
「お母様?」
「ベルもこんな家にいるのは嫌でしょう? お父様は断っても良いと仰っているけれど、嫁いでも構わないのよ。そろそろ潮時みたいだし」
「えっ?」
「だって、縁談相手は落ちぶれてきたし、貴女がいたらカーティアは婚約できないもの。毎回毎回、貴女が邪魔をしているでしょう? さっさと嫁いで欲しいってずっと思っていたの」
「私は邪魔なんてしていません」
「してるわ。みんな断る理由に貴女の名前を出すのよ。カーティアが可哀想だわ」
私へ来た婚約の申し込みなのですから、それは当然のことだと思うのですが、お母様の心労をこれ以上増やすことは良くないと思い、私は口をつぐみました。
「何かしら? その反抗的な目付きは。産まれた瞬間から、貴女は私を苦しめ続けてきたわ。周りはみんな男児が産まれたのに、私だけ女の子だった。どれだけ陰口を叩かれたか」
その言葉は初めて聞きました。
お母様が私を避ける理由がやっと分かりました。
「それに追い討ちをかけるように、二番目も女の子。でも、カーティアは貴女とは違ったわ。身体が弱くて私を必要としてくれた。カーティアは私がいないと生きていけない子だったのよ」
私も身体が弱ければ愛されたのでしょうか。
私が男児だったら……愚問ですね。
母はカーティアの名を口にする時、とても幸せそうに笑みを浮かべています。
「カーティアのお陰で私の人生は好転したわ。主人もカーティアを通して私に目を向けるようになったし、アルドも産まれた。でも、ベル。貴女を見ると昔を思い出すの。私は、その度にとても惨めな気持ちになるのよ。だから、後妻でも良いから、早く嫁いで頂戴。――返事は?」
「はい。お母様。私は、アーノルト伯爵に嫁ぎたく存じます」
「そう。ドレスは選んだら使用人へ渡しておきなさい。期待しているわ。ベルティーナ」
私は初めて母の期待を背負いました。
学生時代、両親からの期待に潰されそうになる学友を何人も見てきましたが、期待されるだけ羨ましく思っていました。
ですが、親の期待というものが、こんなに胸を締めつける物だとは知りませんでした。
ひとつ勉強させていただきました。お母様。
何故か母も私の部屋に現れたことに驚きましたが、母はドレス選びを手伝ってくれるようです。母のドレスは型は古いですが、質素で上品な物でした。
「どれももう着ないからベルにあげるわ。ひとつだけ選んでお直ししてもらいましょう」
「はい。ありがとうございます」
「でも、ベルが後妻……ね」
母は私を哀れんだ目で見つめ、溜め息を吐きました。母も、後妻は反対なのでしょうか。波風立てず静かに嫁いでしまいたいので、私に構わないで欲しいのですが、そんな事は口に出せません。
「お母様?」
「ベルもこんな家にいるのは嫌でしょう? お父様は断っても良いと仰っているけれど、嫁いでも構わないのよ。そろそろ潮時みたいだし」
「えっ?」
「だって、縁談相手は落ちぶれてきたし、貴女がいたらカーティアは婚約できないもの。毎回毎回、貴女が邪魔をしているでしょう? さっさと嫁いで欲しいってずっと思っていたの」
「私は邪魔なんてしていません」
「してるわ。みんな断る理由に貴女の名前を出すのよ。カーティアが可哀想だわ」
私へ来た婚約の申し込みなのですから、それは当然のことだと思うのですが、お母様の心労をこれ以上増やすことは良くないと思い、私は口をつぐみました。
「何かしら? その反抗的な目付きは。産まれた瞬間から、貴女は私を苦しめ続けてきたわ。周りはみんな男児が産まれたのに、私だけ女の子だった。どれだけ陰口を叩かれたか」
その言葉は初めて聞きました。
お母様が私を避ける理由がやっと分かりました。
「それに追い討ちをかけるように、二番目も女の子。でも、カーティアは貴女とは違ったわ。身体が弱くて私を必要としてくれた。カーティアは私がいないと生きていけない子だったのよ」
私も身体が弱ければ愛されたのでしょうか。
私が男児だったら……愚問ですね。
母はカーティアの名を口にする時、とても幸せそうに笑みを浮かべています。
「カーティアのお陰で私の人生は好転したわ。主人もカーティアを通して私に目を向けるようになったし、アルドも産まれた。でも、ベル。貴女を見ると昔を思い出すの。私は、その度にとても惨めな気持ちになるのよ。だから、後妻でも良いから、早く嫁いで頂戴。――返事は?」
「はい。お母様。私は、アーノルト伯爵に嫁ぎたく存じます」
「そう。ドレスは選んだら使用人へ渡しておきなさい。期待しているわ。ベルティーナ」
私は初めて母の期待を背負いました。
学生時代、両親からの期待に潰されそうになる学友を何人も見てきましたが、期待されるだけ羨ましく思っていました。
ですが、親の期待というものが、こんなに胸を締めつける物だとは知りませんでした。
ひとつ勉強させていただきました。お母様。
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