縁談を妹に奪われ続けていたら、プチギレした弟が辺境伯令息と何やら画策し始めた模様です

春乃紅葉@コミカライズ2作品公開中〜

文字の大きさ
6 / 35

006 母の苦労

しおりを挟む
 母は私の部屋へ、使用人に古いドレスを運ばせました。

 何故か母も私の部屋に現れたことに驚きましたが、母はドレス選びを手伝ってくれるようです。母のドレスは型は古いですが、質素で上品な物でした。

「どれももう着ないからベルにあげるわ。ひとつだけ選んでお直ししてもらいましょう」
「はい。ありがとうございます」
「でも、ベルが後妻……ね」
 
 母は私を哀れんだ目で見つめ、溜め息を吐きました。母も、後妻は反対なのでしょうか。波風立てず静かに嫁いでしまいたいので、私に構わないで欲しいのですが、そんな事は口に出せません。

「お母様?」
「ベルもこんな家にいるのは嫌でしょう? お父様は断っても良いと仰っているけれど、嫁いでも構わないのよ。そろそろ潮時みたいだし」
「えっ?」
「だって、縁談相手は落ちぶれてきたし、貴女がいたらカーティアは婚約できないもの。毎回毎回、貴女が邪魔をしているでしょう? さっさと嫁いで欲しいってずっと思っていたの」
「私は邪魔なんてしていません」
「してるわ。みんな断る理由に貴女の名前を出すのよ。カーティアが可哀想だわ」

 私へ来た婚約の申し込みなのですから、それは当然のことだと思うのですが、お母様の心労をこれ以上増やすことは良くないと思い、私は口をつぐみました。

「何かしら? その反抗的な目付きは。産まれた瞬間から、貴女は私を苦しめ続けてきたわ。周りはみんな男児が産まれたのに、私だけ女の子だった。どれだけ陰口を叩かれたか」

 その言葉は初めて聞きました。
 お母様が私を避ける理由がやっと分かりました。

「それに追い討ちをかけるように、二番目も女の子。でも、カーティアは貴女とは違ったわ。身体が弱くて私を必要としてくれた。カーティアは私がいないと生きていけない子だったのよ」

 私も身体が弱ければ愛されたのでしょうか。
 私が男児だったら……愚問ですね。
 母はカーティアの名を口にする時、とても幸せそうに笑みを浮かべています。

「カーティアのお陰で私の人生は好転したわ。主人もカーティアを通して私に目を向けるようになったし、アルドも産まれた。でも、ベル。貴女を見ると昔を思い出すの。私は、その度にとても惨めな気持ちになるのよ。だから、後妻でも良いから、早く嫁いで頂戴。――返事は?」
「はい。お母様。私は、アーノルト伯爵に嫁ぎたく存じます」
「そう。ドレスは選んだら使用人へ渡しておきなさい。期待しているわ。ベルティーナ」

 私は初めて母の期待を背負いました。
 学生時代、両親からの期待に潰されそうになる学友を何人も見てきましたが、期待されるだけ羨ましく思っていました。
 ですが、親の期待というものが、こんなに胸を締めつける物だとは知りませんでした。
 ひとつ勉強させていただきました。お母様。

しおりを挟む
感想 192

あなたにおすすめの小説

婚約者の姉に薬品をかけられた聖女は婚約破棄されました。戻る訳ないでしょー。

十条沙良
恋愛
いくら謝っても無理です。

平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?

和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」  腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。  マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。  婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?    

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

【完結】私から全てを奪った妹は、地獄を見るようです。

凛 伊緒
恋愛
「サリーエ。すまないが、君との婚約を破棄させてもらう!」 リデイトリア公爵家が開催した、パーティー。 その最中、私の婚約者ガイディアス・リデイトリア様が他の貴族の方々の前でそう宣言した。 当然、注目は私達に向く。 ガイディアス様の隣には、私の実の妹がいた── 「私はシファナと共にありたい。」 「分かりました……どうぞお幸せに。私は先に帰らせていただきますわ。…失礼致します。」 (私からどれだけ奪えば、気が済むのだろう……。) 妹に宝石類を、服を、婚約者を……全てを奪われたサリーエ。 しかし彼女は、妹を最後まで責めなかった。 そんな地獄のような日々を送ってきたサリーエは、とある人との出会いにより、運命が大きく変わっていく。 それとは逆に、妹は── ※全11話構成です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、ネタバレの嫌な方はコメント欄を見ないようにしていただければと思います……。

現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。

和泉鷹央
恋愛
 聖女は十年しか生きられない。  この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。  それは期間満了後に始まる約束だったけど――  一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。  二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。  ライラはこの契約を承諾する。  十年後。  あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。  そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。  こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。  そう思い、ライラは聖女をやめることにした。  他の投稿サイトでも掲載しています。

幼い頃、義母に酸で顔を焼かれた公爵令嬢は、それでも愛してくれた王太子が冤罪で追放されたので、ついていくことにしました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 設定はゆるくなっています、気になる方は最初から読まないでください。 ウィンターレン公爵家令嬢ジェミーは、幼い頃に義母のアイラに酸で顔を焼かれてしまった。何とか命は助かったものの、とても社交界にデビューできるような顔ではなかった。だが不屈の精神力と仮面をつける事で、社交界にデビューを果たした。そんなジェミーを、心優しく人の本質を見抜ける王太子レオナルドが見初めた。王太子はジェミーを婚約者に選び、幸せな家庭を築くかに思われたが、王位を狙う邪悪な弟に冤罪を着せられ追放刑にされてしまった。

家の全仕事を請け負っていた私ですが「無能はいらない!」と追放されました。

水垣するめ
恋愛
主人公のミア・スコットは幼い頃から家の仕事をさせられていた。 兄と妹が優秀すぎたため、ミアは「無能」とレッテルが貼られていた。 しかし幼い頃から仕事を行ってきたミアは仕事の腕が鍛えられ、とても優秀になっていた。 それは公爵家の仕事を一人で回せるくらいに。 だが最初からミアを見下している両親や兄と妹はそれには気づかない。 そしてある日、とうとうミアを家から追い出してしまう。 自由になったミアは人生を謳歌し始める。 それと対象的に、ミアを追放したスコット家は仕事が回らなくなり没落していく……。

悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした

ゆっこ
恋愛
 豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。  玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。  そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。  そう、これは断罪劇。 「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」  殿下が声を張り上げた。 「――処刑とする!」  広間がざわめいた。  けれど私は、ただ静かに微笑んだ。 (あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)

処理中です...