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008 お迎え
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「婚約が成立することをお祈りします」
アーノルト領から帰ってきたアルドは、朗らかな顔でそう言いました。それから、病に伏せる辺境伯様の代わりに、来週ヨハンがロジエ領まで迎えに来てくれるという事も。
屋敷を飛び出した時とはまるで別人です。後妻ということをアルドも受け入れてくれた様子です。
母も妹も応援してくれていることを伝えると、「後は父上だけか……」とブツブツ呟いていました。
◇◇
一週間後、藤色のドレスを着て私は両親と三人でアーノルト領へと向かおうとしていましたが、屋敷の前には既にアーノルト家の馬車が停まっていました。
アルドから聞いていた通り、ヨハンが迎えに来てくれていたのです。
妹のカーティアも、ヨハンに気が付くと屋敷を飛び出してきました。
「まぁ、ヨハン様だわ!」
「おお。わざわざ迎えに来てくれたのだね」
ヨハンは辺境伯の跡継ぎらしく両親へ紳士的に挨拶をしました。
「勿論ですよ。お義父様。いえ、お義祖父様でしょうか?」
「はははっ。まだ気が早いぞヨハン」
「あら。それなら、私はお義祖母様かしら? ヨハンみたいな可愛い孫ができてしまうのなんて、素敵だわ」
「ははは。冗談ですよ。では、屋敷までご案内させていただきます」
両親の機嫌を取り、先に馬車へ案内すると、ヨハンは私の前に立ちカーティアへ視線を伸ばしました。
そして、空色の瞳を訝しげに細めます。
「ベルティーナ。君の妹は娼婦にでもなったのか? 下品なワンピースだ」
「へ? ななな何を仰ってますの!?」
慌てて自分の服装を確認するカーティアをヨハンは横目で流し見て、今度は私を見下ろし首を傾げました。
「ベルティーナ、君は……古風なドレスだね。父が気に入りそうだ」
「ふふふっ。古風ですって!?」
妹はお腹を抱えて笑い始めました。
ヨハンはのお義父様が気に入るのでしたら、よいではありませんか。
「あら。最高の誉め言葉ですわ」
「そうか。待ちくたびれて、迎えに来てしまったよ」
ヨハンはとても真剣な瞳でそう言いました。その意味を尋ねようか迷っていると、ヨハンはサッと目を反らして微笑み、私の手を取りました。
「行きましょうか。未来の母上様?」
ヨハンの言葉を聞いて、また妹が笑い転げています。
ヨハンはそれを一瞥すると、今度は真顔のまま私の手を引きました。
「冗談だ。早く乗ろう」
「はい」
◇◇
両親とヨハンが他愛の無い会話を交わす中、馬車はアーノルト家へと向かいます。
私の目の前にはヨハンが座っています。ヨハンは私と目が合うと、微かに口元を緩めて笑いかけてくれました。
会うのは二年ぶりですが、前より大人びたヨハンに驚きを隠せません。
学生時代の彼は、首席の私に対して、何かと突っかかってくる人でした。彼は常に次席だったので仕方の無いことだと思います。
ですが彼は、辺境伯の跡継ぎです。私のように勉強しかすることが無かった人間とは違い、剣術もさることながら領主としての資質も磨かなければなりませんでした。
その全てをこなしながらも、彼は私をライバル視し、絶対に私より良い成績を取るのだと豪語し続けていました。
そして、私の秘密を探るのだと言い、図書室で一緒に調べものをしたり、学食を一緒にいただいたり、たまにアルドの話をしたり。そして彼は試験の結果が出る度に落ち込み、次こそはと宣戦布告し、また一緒に過ごして……。
学生時代の記憶を呼び起こすと、必ず隣にヨハンがいました。それはとても心地よく、私は彼と過ごす時間が何よりも好きだったのです。
学園を卒業して、やっと両親が私の婚約の話に乗り気になり、私に初めて婚約を申し込んでくれたのも、ヨハンでした。
アーノルト領から帰ってきたアルドは、朗らかな顔でそう言いました。それから、病に伏せる辺境伯様の代わりに、来週ヨハンがロジエ領まで迎えに来てくれるという事も。
屋敷を飛び出した時とはまるで別人です。後妻ということをアルドも受け入れてくれた様子です。
母も妹も応援してくれていることを伝えると、「後は父上だけか……」とブツブツ呟いていました。
◇◇
一週間後、藤色のドレスを着て私は両親と三人でアーノルト領へと向かおうとしていましたが、屋敷の前には既にアーノルト家の馬車が停まっていました。
アルドから聞いていた通り、ヨハンが迎えに来てくれていたのです。
妹のカーティアも、ヨハンに気が付くと屋敷を飛び出してきました。
「まぁ、ヨハン様だわ!」
「おお。わざわざ迎えに来てくれたのだね」
ヨハンは辺境伯の跡継ぎらしく両親へ紳士的に挨拶をしました。
「勿論ですよ。お義父様。いえ、お義祖父様でしょうか?」
「はははっ。まだ気が早いぞヨハン」
「あら。それなら、私はお義祖母様かしら? ヨハンみたいな可愛い孫ができてしまうのなんて、素敵だわ」
「ははは。冗談ですよ。では、屋敷までご案内させていただきます」
両親の機嫌を取り、先に馬車へ案内すると、ヨハンは私の前に立ちカーティアへ視線を伸ばしました。
そして、空色の瞳を訝しげに細めます。
「ベルティーナ。君の妹は娼婦にでもなったのか? 下品なワンピースだ」
「へ? ななな何を仰ってますの!?」
慌てて自分の服装を確認するカーティアをヨハンは横目で流し見て、今度は私を見下ろし首を傾げました。
「ベルティーナ、君は……古風なドレスだね。父が気に入りそうだ」
「ふふふっ。古風ですって!?」
妹はお腹を抱えて笑い始めました。
ヨハンはのお義父様が気に入るのでしたら、よいではありませんか。
「あら。最高の誉め言葉ですわ」
「そうか。待ちくたびれて、迎えに来てしまったよ」
ヨハンはとても真剣な瞳でそう言いました。その意味を尋ねようか迷っていると、ヨハンはサッと目を反らして微笑み、私の手を取りました。
「行きましょうか。未来の母上様?」
ヨハンの言葉を聞いて、また妹が笑い転げています。
ヨハンはそれを一瞥すると、今度は真顔のまま私の手を引きました。
「冗談だ。早く乗ろう」
「はい」
◇◇
両親とヨハンが他愛の無い会話を交わす中、馬車はアーノルト家へと向かいます。
私の目の前にはヨハンが座っています。ヨハンは私と目が合うと、微かに口元を緩めて笑いかけてくれました。
会うのは二年ぶりですが、前より大人びたヨハンに驚きを隠せません。
学生時代の彼は、首席の私に対して、何かと突っかかってくる人でした。彼は常に次席だったので仕方の無いことだと思います。
ですが彼は、辺境伯の跡継ぎです。私のように勉強しかすることが無かった人間とは違い、剣術もさることながら領主としての資質も磨かなければなりませんでした。
その全てをこなしながらも、彼は私をライバル視し、絶対に私より良い成績を取るのだと豪語し続けていました。
そして、私の秘密を探るのだと言い、図書室で一緒に調べものをしたり、学食を一緒にいただいたり、たまにアルドの話をしたり。そして彼は試験の結果が出る度に落ち込み、次こそはと宣戦布告し、また一緒に過ごして……。
学生時代の記憶を呼び起こすと、必ず隣にヨハンがいました。それはとても心地よく、私は彼と過ごす時間が何よりも好きだったのです。
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