縁談を妹に奪われ続けていたら、プチギレした弟が辺境伯令息と何やら画策し始めた模様です

春乃紅葉@コミカライズ2作品公開中〜

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028 私の父

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 父は、ばつが悪そうにアルドの手を払いのけようとしましたが、アルドは悲しい眼で父を見つめ、決して手を離そうとはしませんでした。
 ヨハンはそんな二人を見て言いました。

「アルドが跡継ぎで良かったですね。そうでなければ、ロジエを契約違反で潰しているところでした。アーノルトとしては、それでも構わないのですよ。ロジエを破産させて、伯爵夫妻とあの妹は屋敷から追い出して、アルドはアーノルトの養子にもらいます。勿論ベルティーナとの結婚に、なんの変更もありません」
「そ、そんな事が……」
「出来ないとでも? ロジエの為に教養を身に付けてきたアルドが可哀想なので、円満な契約を結ばせていただいたのですが。まだ、ご理解いただけませんか?」

 いつの間にか、ヨハンの顔から笑顔が消えていました。
 父は怒りと羞恥心からか、拳を小刻みに震えさせ、その感情を爆発させかけた時、場の空気を和らげるが如くマルセル様の穏やかな声が部屋に響きました。

「ヨハン。いくら義父だと言っても甘えすぎだ。怯えていらっしゃるではないか。――ロジエ伯爵。息子がまた失礼なことをしたな。こちらとしてはこのままの契約で話を進めたいと思っている。しかし、それが出来ぬと言うのならば、先程ヨハンが言った通りの未来が待っていると――覚悟してくれ」

 マルセル様の優しい警告に、父は顔色を青くさせて俯きました。そんな父に、マルセル様は、ある提案をします。

「私ももう隠居の身。息子の背中を見守ることも中々楽しいぞ。そろそろ伯爵も隠居してはどうだ?」
「い、隠居だと……?」
「ああ。貴様の愚行で、ロジエがこれ以上周りから白い目を向けられる前に、アルドに引き継いだ方が良いだろう。アルドはまだ若いが、アーノルト家が支援することを約束しよう。お互い真面目で優秀な息子を持って幸せだな。式も私達に任せておきなさい」
「……っ。――し、失礼するっ」

 父が扉へと向かおうとすると、私と目が合いました。そして私の隣へ来て恨めしくか細い声で尋ねました。

「ベルティーナ。お前は知っていたのだな」
「私は……」
「後妻のフリをして父を欺き、さぞかし面白かっただろうな。女であっても、お前には期待していたのに……」
「えっ?」

 父の言葉を聞いて、私は耳を疑いました。
 後ろで心配そうに父の袖を掴むアルドも、驚いています。
 父は微かに笑みを浮かべて言葉を続けました。

「女など所詮、他貴族との繋がりを持つ為の道具に過ぎん。お前は、よい縁談を招く青い鳥だと思っていた。しかし、不出来な妹を見捨てて自分だけ幸せになろうとはな。傲慢な女だ。お前の顔など二度と見たくない」
「…………」

 心のどこかで分かっていた父の本心を目の当たりにし、私は言葉を失い俯きかけた時、背後から椅子が倒れる音が聞こえ、顔を上げると、私と父の間にはヨハンが立っていました。
 
「ロジエ伯爵。ベルティーナは道具じゃない。訂正しろ」
「うるさいっ。こんな娘が欲しいならくれてやるっ。そうだ。私は隠居するのであったな。ああ、身体の具合が悪くて仕方ない。私は式には出られん。父親も祝いに来ない花嫁なんぞ見たことがないな。精々、恥をかくといい」
「貴様っ。いい加減にしろっ。お前がこの世に存在する限り、ロジエの発展はない!」

 父の胸ぐらを掴かかったヨハンを見て、私は反射的に立ち上がり、彼を止めました。

「ヨハン。止めてください。父が失礼いたしました」
「ベルティーナ。それは君が謝ることではない」

 ヨハンはそう言ってくれましたが、目の前の人は、紛れもなく私の父です。私は怒りに染まる父の瞳を見つめ返しました。

「いいえ。この方は私の父なのですから。――お父様。今まで育てていただきありがとうございました。不出来な娘で申し訳ございません。私は父の見えぬところで、道具としてではなく、人として幸せになりたく存じます。どうぞ、今後はロジエの名を貶めることなく、ご自身のお身体を第一に考え、静かにご療養くださいませ」
「……っ」

 父は何か言い返そうとしましたが、アルドに腕を引かれて言葉をつぐみました。

「父上。帰りますよ。アーノルト辺境伯様。ヨハン様。お騒がせして申し訳ありませんでした。ベル姉様をよろしくお願いいたします。失礼します」

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