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2 クナップ伯爵家の日常

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「まったく、冗談じゃありませんよ。顔がいいだけで黙って座っていればチヤホヤされて、いざ求婚されてみれば気味悪がられて婚約破棄されて。こんな役立たずのお人形みたいな怠け者に遺す財産がそんなにあるなら、背の低いあなたと結婚してあげた私にもっと贅沢させてくださいな」

「残念ながら君の時代はもう終わった。今の私は可愛い可愛いオクタヴィアちゃんのものだ」

「カス。屑野郎」

「なんとでも言え。君にはなにも遺さないし、なんなら君より長生きしてやる」

「私の死を願っているのね。酷い人」

「そうやって冷たく詰ってばかりの君に、どう愛情を注げと言うんだい?」

「私を凍らせたのは誰です? 私の心を凍らせたのは他でもないあなたですよ、ミヒェル」

「いや、君は新婚時代から冷たかったよ。キィーンとしてた!」


 私って空気。


「そうやって私に自分の罪を擦り付けるんですね」

「罪ってなんだい? 君が不機嫌なのは君の問題だろう?」

「結婚という義務を果たした私に、あなたが相応のものを返してくださらないからよ」

「ああ、またその話か? 君もしつこいね。君には何不自由ない暮らしを提供しているし、君が死ぬまでこの生活は続くっていうのに、なにが足りない?」

「あたたが絶対に与えられないものよ」


 ああ、いつもの、あの話。
 お母様の永遠の想い人、ジーゲルト様……


「じゃあ諦めるしかないね!」

「ええ。あなたにはそれを与える能力がありませんの。だから私の嫌味を甘んじて受け入れ続ける義務があるのよ。この暮らしが続く限り。あなたが死ぬまで。ずっと。一生」

「そうやって私を恨んでいるがいいさ。自分で自分を不幸にして、せいぜい人生を無駄にするんだな」

「ええ、そうね。死んだら地獄で会いましょう」

「やぁーだね! 私は天国でオクタヴィアちゃんを待つんだッ」


 私、復活しました?
 お父様、私が見えますか?


「行きましょう、オクタヴィア」

「……」


 私を思い出したのは、お母様のほうだったみたい。


「じゃあね~、オクタヴィアちゃん♪ おめかししておいでぇ~。またディナーで会おうねぇ~ん♪」

「……お父様」

「フンッ」


 いつもの光景。
 
 そしてお母様の独り言も、いつもの事。
 並んで歩き始めると、それはすぐに始まった。

 私を感情の捌け口にして、どんな醜い心も晒してくれる。


「ああ、嫌だ嫌だ。本当にろくでもない男と結婚したわ。結婚できない娘に全財産を遺すだなんて、思ってても私に言わなきゃいいのに、馬鹿ねぇ。絶対にあいつより長生きして、贅沢しまくって使い切ってやるんだから。誰が他の女なんかに遺してやるもんですか」


 ほんと……思ってても、私に言わなきゃいいのに。
 別に、いいけど……
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