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4 誰よりも高貴で健全な母

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「あぁ~……効くわぁ。あなたは……本当に、上手……」


 あの頃の私は、いくら幼かったとはいえ、どうかしていた。
 王母アンネリース様を伯母かなにかと同列に考えていた。だから当時は王妃であったアンネリース様の肩を揉みしだいたり、髪に指を突っ込んで頭皮まで揉んだりしていた。耳の中のツボさえ探した。

 なんて恐れ多い事を……。


「お気に召して頂けて、光栄です」

「すっかり大人になって……ぇああ~、そこ!」


 アンネリース様は凝り性だ。
 首から肩にかけてすぐ鉄のようにカチコチになるので、少しでも負担を減らすために、髪を短く切り揃え、綿わたの上につけ毛をしている。
 
 そんな秘密も、すっかり忘れていた。
 この指で鬘を外すまでは。


「あなたには……可哀相な事を……し、てしまったわね……」

「とんでもございません」

「白状するとね、あなたをハンスの妃とするかどうかより……私があなたを、娘にしたかった……」


 指が止まる。
 でも、すぐに肩甲骨の中央をコリコリと抉る。
 当然だ。このために私は、宮廷に呼ばれたのだから。


「王妃は……世継ぎを産むのが、最も重要な仕事……だから、特別扱いはできない……あなたを処刑台に送るようで、嫌だったのよ……」


 私は、アンネリース様を恨んではいなかった。
 ただ、貴族学校から追い出され、ハンスの傍にいるべき人間ではないのだと思い知らされた事は、とても悲しかった。

 だから、今になって、涙が浮かんでくるのかもしれない。


「あなたにがっかりして追い出したのではないの……でも、そう思ってくれたほうが、私たちにとって良いと思っていた……あなたに、私やハンスを思い出にして……普通の結婚をして……幸せになって欲しかったのよ。そうならなくても、あなたの家は裕福だし……安心……」

「……お会いできて、嬉しいです……アンネリース様」


 ぽんぽん、と。
 王母アンネリース様が私の手を指先で叩く。

 ずいぶんと皴が増えてしまった、懐かしい手。
 あの頃もこうして、もういいわよ、と合図をしてくれた。


「あぁ~! 楽になったわ」


 頭をぐるん、肩をぐるん。
 アンネリース様は生き生きと体を動かして、また秘密の鬘を被る。


「お相手はどんな人なの? 姑は意地悪しない?」

「寝室に母親を参加させれば強い後継ぎが生まれると信じているようです」


 くるり、アンネリース様がふり向いた。


「変態ね」


 真顔の上で傾いている鬘を、私はそっと直してさしあげた。
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