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1 信憑性のない告白

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「君を……ずっと……愛していたんだと、思う」

「思う?」


 つい聞き返してしまった。
 なんといっても、この発言があるまで私は長々と回りくどい話を聞かされて、若干ではあるものの苛ついていたから。
 
 私はマチルダ・ツィルヒャー。父が爵位を買ったので、一応、男爵令嬢。
 14才で行儀見習いも兼ねてガイサー侯爵夫人ヨハンナ様の侍女になり、仕えて10年。2才年下のフレディー様とも出会って10年。あのヨハンナ様から産まれたとは思えない、優しくて上品なフレディー様を敬いこそすれ、慕いはしない。

 フレディー様が思春期を迎えた頃から、私はヨハンナ様に虐められるようになった。ヨハンナ様はなぜか私がフレディー様に恋をしていると信じており、分不相応だとか身の程を弁えない野蛮人の娘などと言っては私を詰り嘲笑うのだ。
 フレディー様が始めての婚約をした時に、それはあるひとつの完成形となって、落ち着いた。


「残念だったわね、マチルダ! フレディーは婚約したから!!」


 この一言が私への定型文となり、矛先は当の婚約者へ向かうようになったのだ。

 
「あんたみたいな小娘がガイサー侯爵家に相応しいと思ってるの!?」
「不作法にもほどがあるわ! それで貴族の令嬢を名乗るなんて詐欺よ!!」
「まあなんてみっともないドレスなの!? 正気!?」
「変な髪型! ええとても似合っていますとも! 不細工が引き立ってるわ!」


 などなど。
 温室育ち、箱入り娘の無垢な令嬢が泣くまで罵倒を浴びせ、次々と破談へ追い込む始末。自分はそれほど美人でもない上その顔に皴とシミまで鏤めているくせに、よく言う。私は下町育ちなのでそんな罵詈雑言は大した事ないけど、逆を言えばヨハンナ様はそれだけ下品って事で、本当、軽蔑に値する。

 ただ侯爵夫人という絶対的な立場は事実なので、私は元平民の侍女として仕事は全うしてきた。今も全うしている。
 フレディー様に呼び止められていなければ、次の仕事にかかっていたのに。


「結婚してほしい」

「御冗談を。では、これで」


 私は深々と頭をさげて、背を向けた。


「まっ、待って!」


 がっしり肩を掴まれる。
 実力行使に出るような性格とは思っていなかったので、驚いて振り返ってしまった。


「ほっ、本気なんだ。遠回りした。だけど気づいたんだ。君なんだって」

「……あぁ、っと」


 困惑。それしかない。
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