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また、いつか必ず
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ジャスティン様の表情の変化に気付いた私は、調子に乗って失礼なことを口走ってしまったことをすぐに後悔しました。
「あの・・・す、みません。私、偉そうなことを・・・。何も知らない私などに、とやかく言われたくありませんよね。本当に・・・不快な思いをさせてしまい申し訳ありませんでした。ご無礼をどうかお許しください・・・。」
(初対面の方に向かって、私は何を偉そうに言っているのかしら。こんな失礼をしてしまって・・・、ああ、どうしましょう。きっと気分を悪くさせてしまったわ。)
ダンスの最中だと言うのに、居た堪れなくなった私は、もう顔を上げることができませんでした。しかし、「顔を上げてください。」 と言うジャスティン様の声に、恐る恐る顔を上げてみると、そこには、とても優しい目をしたジャスティン様が、私を見下ろしていることに気が付きました。そして、ジャスティン様は、目を細め、ふんわりと笑って言ってくださいました。
「ありがとう。」
私が、その素敵な笑顔に視線を逸らせずにいると、少し頬を赤らめたジャスティン様が恥ずかしそうに顔を背けたのでした。
「こんな傷は、体中たくさんあるんですよ。私自信は、それほど気にしていないのですが、こういった華やかな席には不向きですからね。ですが、やっぱり隠しきれないものですね。」
そう言った、ジャスティン様は、申し訳なさそうに笑顔を作るのでした。
「隠す必要、ないのではありませんか? ・・・いえ、他の方がどう思われるかは、わかりませんが、私は、傷を負って大切なものを守った証だと思います。・・・これも、また失礼なことを申しますが、私は・・・その傷を誇らしいとさえ思ってしまいます。」
また調子に乗って偉そうなことを言ってしまったと羞恥心で顔を真っ赤にして俯いていると、ジャスティン様の手がすっと伸びてきて私の顎を上げさせました。
「今は私だけを見てください。私は今、この時間をとても嬉しく思っています。今日、ここに来て貴女に会えたことに感謝しています。ですからどうか、今だけは私から目を逸らさないでください。」
その後もジャスティン様が教えてくださる辺境地でのお話を聞かせていただき、とても楽しい時間を過ごさせていただきました。しかし、楽しい時間もあっと言う間に終わりが来ます。
「私としては、まだ貴女の手を離したくないところですが、先ほどから随分と殺気を飛ばされていましてね。」
「えっ? 殺気ですか?」
「ええ、あそこです。」
ジャスティン様の視線の先には、鬼のような形相で仁王立ちしているアレイド様が、顔を真っ赤にして私達を睨みつけています。
(こ、こわっ!)
アレイド様の後ろには、お腹を抱えて笑っているスワルス様と、笑いすぎのスワルス様をなんとかしようと人目を気にしたお姉様が困った顔をしていました。
そして、音楽の終了と共にアレイド様がこちらにツカツカとやってきたかと思うと、私の手を強く引き、そのまま自分の腕の中に抱え込みました。ジャスティン様に挨拶する間もなく引き離された私は、これではジャスティン様に対して失礼だと抗議の目を向けましたが、なんとアレイド様は、
「私の婚約者がお世話になりました。」
などと相手を睨みつけ、偉そうに言い放ってしまうのでした。
「ええ、おかげ様で楽しい時間を過ごさせていただきました。」
「随分と楽しそうに踊っていたようですが、彼女は私の婚約者ですので、私達はこれで失礼いたします。 行くよ、ユニ。」
ジャスティン様は、敵対心を剥き出しにした感じの悪いアレイド様に対し、苦笑いを浮かべながらも、紳士的に振舞ってくださいました。そんな大人のジャスティン様を前に、空気の読めないアレイド様は、まるで子供のように相手を牽制し、場の空気を台無しにした上、さっさとその場を去ろうとするのでした。
アレイド様に力強く手を引かれる私に向かって、ジャスティン様は、にっこり笑って挨拶をしてくれました。
「楽しかったです。またいつか、お会いできる日を楽しみにしています。」
私は、ジャスティン様の素敵な笑顔に応えたくて、「アレイド様、少し離してください!」 と、掴まれている手を無理やり解きました。なのに、またもやアレイド様が、苛立ったような様子で私の前に進み出て来たのです。そして、あろうことか、
「次はもうありません。では失礼いたします。」
などと、失礼極まりない言葉を平気で言ってのけるのでした。
「なっ!!」
あまりに失礼過ぎるアレイド様の態度に、私が目を見開き、眉毛をこれでもかと吊り上げているというのに、そんなことはお構いなしに、アレイド様は、また私の手を取って歩き出そうとしています。
私は、慌ててアレイド様の腕からもう一度逃れるとジャスティン様に駆け寄りました。ジャスティン様の両手をしっかりと握ると、アレイド様に邪魔される前にと、早口でまくしたてました。
「本日は楽しかったです。ありがとうございました。ジャスティン様、一つ、私と約束してください。何年後、いえ、何十年後でもかまいません。次にお会いする時は、また私のダンスのお相手をお願いします。ですので、どうか・・・いつか必ず、私と会ってダンスをすると今、お約束を。」
私の慌てた様子に、一瞬、目を大きく見開いたジャスティン様でしたが、嬉しそうに破顔されると、
「はい。その約束、必ず守りましょう!」
と、再度アレイド様に腕を取られた私に向かっておっしゃいました。
私達は、お互いにっこり笑い合い、そのままアレイド様に引きずられるようにその場を後にしたのでした。
「あの・・・す、みません。私、偉そうなことを・・・。何も知らない私などに、とやかく言われたくありませんよね。本当に・・・不快な思いをさせてしまい申し訳ありませんでした。ご無礼をどうかお許しください・・・。」
(初対面の方に向かって、私は何を偉そうに言っているのかしら。こんな失礼をしてしまって・・・、ああ、どうしましょう。きっと気分を悪くさせてしまったわ。)
ダンスの最中だと言うのに、居た堪れなくなった私は、もう顔を上げることができませんでした。しかし、「顔を上げてください。」 と言うジャスティン様の声に、恐る恐る顔を上げてみると、そこには、とても優しい目をしたジャスティン様が、私を見下ろしていることに気が付きました。そして、ジャスティン様は、目を細め、ふんわりと笑って言ってくださいました。
「ありがとう。」
私が、その素敵な笑顔に視線を逸らせずにいると、少し頬を赤らめたジャスティン様が恥ずかしそうに顔を背けたのでした。
「こんな傷は、体中たくさんあるんですよ。私自信は、それほど気にしていないのですが、こういった華やかな席には不向きですからね。ですが、やっぱり隠しきれないものですね。」
そう言った、ジャスティン様は、申し訳なさそうに笑顔を作るのでした。
「隠す必要、ないのではありませんか? ・・・いえ、他の方がどう思われるかは、わかりませんが、私は、傷を負って大切なものを守った証だと思います。・・・これも、また失礼なことを申しますが、私は・・・その傷を誇らしいとさえ思ってしまいます。」
また調子に乗って偉そうなことを言ってしまったと羞恥心で顔を真っ赤にして俯いていると、ジャスティン様の手がすっと伸びてきて私の顎を上げさせました。
「今は私だけを見てください。私は今、この時間をとても嬉しく思っています。今日、ここに来て貴女に会えたことに感謝しています。ですからどうか、今だけは私から目を逸らさないでください。」
その後もジャスティン様が教えてくださる辺境地でのお話を聞かせていただき、とても楽しい時間を過ごさせていただきました。しかし、楽しい時間もあっと言う間に終わりが来ます。
「私としては、まだ貴女の手を離したくないところですが、先ほどから随分と殺気を飛ばされていましてね。」
「えっ? 殺気ですか?」
「ええ、あそこです。」
ジャスティン様の視線の先には、鬼のような形相で仁王立ちしているアレイド様が、顔を真っ赤にして私達を睨みつけています。
(こ、こわっ!)
アレイド様の後ろには、お腹を抱えて笑っているスワルス様と、笑いすぎのスワルス様をなんとかしようと人目を気にしたお姉様が困った顔をしていました。
そして、音楽の終了と共にアレイド様がこちらにツカツカとやってきたかと思うと、私の手を強く引き、そのまま自分の腕の中に抱え込みました。ジャスティン様に挨拶する間もなく引き離された私は、これではジャスティン様に対して失礼だと抗議の目を向けましたが、なんとアレイド様は、
「私の婚約者がお世話になりました。」
などと相手を睨みつけ、偉そうに言い放ってしまうのでした。
「ええ、おかげ様で楽しい時間を過ごさせていただきました。」
「随分と楽しそうに踊っていたようですが、彼女は私の婚約者ですので、私達はこれで失礼いたします。 行くよ、ユニ。」
ジャスティン様は、敵対心を剥き出しにした感じの悪いアレイド様に対し、苦笑いを浮かべながらも、紳士的に振舞ってくださいました。そんな大人のジャスティン様を前に、空気の読めないアレイド様は、まるで子供のように相手を牽制し、場の空気を台無しにした上、さっさとその場を去ろうとするのでした。
アレイド様に力強く手を引かれる私に向かって、ジャスティン様は、にっこり笑って挨拶をしてくれました。
「楽しかったです。またいつか、お会いできる日を楽しみにしています。」
私は、ジャスティン様の素敵な笑顔に応えたくて、「アレイド様、少し離してください!」 と、掴まれている手を無理やり解きました。なのに、またもやアレイド様が、苛立ったような様子で私の前に進み出て来たのです。そして、あろうことか、
「次はもうありません。では失礼いたします。」
などと、失礼極まりない言葉を平気で言ってのけるのでした。
「なっ!!」
あまりに失礼過ぎるアレイド様の態度に、私が目を見開き、眉毛をこれでもかと吊り上げているというのに、そんなことはお構いなしに、アレイド様は、また私の手を取って歩き出そうとしています。
私は、慌ててアレイド様の腕からもう一度逃れるとジャスティン様に駆け寄りました。ジャスティン様の両手をしっかりと握ると、アレイド様に邪魔される前にと、早口でまくしたてました。
「本日は楽しかったです。ありがとうございました。ジャスティン様、一つ、私と約束してください。何年後、いえ、何十年後でもかまいません。次にお会いする時は、また私のダンスのお相手をお願いします。ですので、どうか・・・いつか必ず、私と会ってダンスをすると今、お約束を。」
私の慌てた様子に、一瞬、目を大きく見開いたジャスティン様でしたが、嬉しそうに破顔されると、
「はい。その約束、必ず守りましょう!」
と、再度アレイド様に腕を取られた私に向かっておっしゃいました。
私達は、お互いにっこり笑い合い、そのままアレイド様に引きずられるようにその場を後にしたのでした。
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