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聞き間違いよね?

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 その日の夕食、エステルダの瞳には、自分の大きな口に次々と食べ物を運んでいる大柄の弟の姿が映っていた。
幼い頃から姉弟仲は悪くない・・・。いや、どちらかと言えば良い方だろう。エステルダの強めの性格とは反対に弟のレナートは、温厚で優しい性格だ。

(でも・・・やっぱりないわね。きっと、聞き間違いですわね・・・。)

昼間、アリッサの言っていたことをエステルダも自分なりに考えていた。しかし、何度思い起こしても 「聞き間違い」 と言う答えしか出てこないのは、どの角度から見ても、弟のレナートに好意を寄せる令嬢がいるとは思えないからなのであった。

(レナートは優しいわ。本当に、とても良い子だわ。でも、見た目がね・・・。いえ、性格はいいの。とても強いし、頭だって悪くない。責任感もあるし・・・、でも・・・ゴリラだわ。)

悩み過ぎて食欲を失ったエステルダは、虚ろな目でレナートを見つめた。

(ロゼット公爵家が目的なのかしら・・・。でも、いつだって彼女の目の前には、王族の他に高位貴族が何人もいるわ・・・。では、本当にレナートが好きなのかしら・・・。いやぁ・・・、でも熊ですわよ。)

すると、自分の顔を見ながら、何やら難しい顔をしている姉に気付いたレナートが、心配して声をかけてきた。

「姉上、全然食事が進んでいないようですが、どうかしましたか?」

(そうなのです。こうしてわたくしの心配もしてくれる優しい弟なのです。よく見れば、わたくしと同じ金髪に碧眼。・・・ですが、何故あのように硬そうな髪なのでしょう・・・触ったら手に刺さりそうだわ・・・。美しい青い瞳ねぇ・・・何故あのように鋭いのかしら・・・まるで睨まれているようだわ・・・。立派過ぎる眉毛に大き過ぎる口・・・ああ、食べられてしまうような恐怖が・・・。高すぎる身長に、あんなに筋肉って必要あるのでしょうか・・・やはりゴーレム・・・。)

「姉上?大丈夫ですか?」

「あっ・・・、ええ。大丈夫ですわ。」

エステルダは、慌てて食事を口に運ぶと、レナートに心配ないことを伝えた。

「今日の姉上は、何かおかしいですね・・・。心配事でもあるのでしたら、私に言ってくださいね。私にできることなら協力しますから。」

「・・・ねぇ、レナート?」

「はい、どうしましたか?」

「貴方、アリッサ・ナーザス様はご存知かしら・・・。」

「ああ、ナーザス子爵家の・・・。アランド殿下と一緒に居る所はよく見ますけど。」

「個人的に会話などは、ありましたか?」

「いえ、ありませんが・・・、ナーザス嬢がどうかされましたか?」

顎に手を当て、考えるように首を傾げていたレナートでしたが、エステルダの真剣な顔を見た後、彼なりに何か思うところがあるのか、探るような目を向けて来た。

「ああ、そうですよね。変な質問をしてごめんなさい。どうぞ食事を続けてちょうだい。」

「姉上?・・・私の力が必要な時は言ってくださいね。私は、姉上の役に立てるよう動きますから。」

「え?・・・ああ、ありがとう。何かあったら・・・言いますわ。」

これまでの会話の流れから言って、エステルダとアランド殿下の関係を危惧してのものだろう。姉の殿下への気持ちを知っているからこその、レナートなりの発言なのだ。そんな弟の気持ちに感謝しつつも、的が外れていることに溜息が出そうになるエステルダであった。



 次の日、昨日のアリッサの話がどうにも気になって仕方がないエステルダは、それとなく彼女の観察を始めた。
よく考えてみれば、アランド殿下とアリッサの関係を壊すことばかりに気を取られ、アリッサ自体を知ろうとしたことなどなかったのだ。もし、昨日の話が本当ならば、アリッサを注意深く見ていることで、本当か嘘かの判断くらいはできるのかもしれないと思ったのだ。

朝からアリッサの周りにはアランド殿下を始め、何人もの高位貴族がまとわりついていた。何故、まとわりつくという言葉なのかと言うと、一見、可愛らしく微笑んでいるように見えるアリッサの瞳が、まるで死んだ魚のように生気を失い、誰のことも見ていないからだった。それどころか、綺麗な肌だの、美しい髪だのと褒めながら、馴れ馴れしくアリッサに触れてくる令息達に、口元をひくつかせながらも、どうにかこうにか避けているように見えた。

(あ・・・今、アランド殿下の手も、さり気なく離したわ・・・。)

なぜ、今まで気が付かなかったのかしら・・・。と、エステルダは心の底から驚いていた。今まで、自分が信じきっていた光景は、「条件の良い男子生徒に囲まれた、外見以外に取り柄のない令嬢が、身の程もわきまえずに調子に乗っている姿」・・・のはずだった。
しかし、こうしてよく見てみると、アリッサの瞳は暗く濁っており、自分達が虐めている時よりも意気消沈しているように見える。

そして、昨日のアリッサの言葉をはっきりと裏付ける事実をエステルダは、この後直ぐに見てしまうのだった。
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