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単刀直入に伺いますが

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「まぁ、ごきげんよう、アリッサ様。」

「ごきげんよう、エステルダ様・・・。」

何事もなかったかのように偶然を装って挨拶をしてみたものの、挨拶を返したアリッサの瞳は、明らかに疑いの眼差しだった。

「アリッサ!?どうしたんだい?」

その時、背後から聞こえたその声は、先ほど立ち去ったはずのアランド殿下のものだった。
アランド殿下は、ツカツカと軽快に足音を響かせながらエステルダを素通りすると、アリッサの肩に手を置き、エステルダに冷たい視線を向けたのだった。

「エステルダ。またアリッサに嫌がらせでもするつもりか?」

アランド殿下の一方的な言葉を受け、多少なりともショックを受けたエステルダだったが、再三に渡って取り巻きの令嬢達と、アリッサに意地悪や嫌がらせをしていたのは事実だった為、唇を噛んで殿下とアリッサを見据えた。

「わたくしは、別に・・・。ただ通りかかっただけですわ・・・。」

「見え透いた嘘を吐くな。お前がアリッサにしてきた嫌がらせの数々を、私が知らないとでも思っているのか?これ以上、アリッサを傷付けるようなら、私にも考えがあるぞ。」

アリッサを強い力で抱き寄せたアランド殿下は、エステルダに向けていた冷たい表情とは打って変わって、にっこり微笑んで至近距離でアリッサを見下ろしている。

しかし、エステルダは見てしまったのだ。
殿下の腕の中、さぞかしご満悦な表情を浮かべているのかと思いきや、実際のアリッサの顔は、冷たく罵られたエステルダよりも真っ青だった。キョロキョロ泳がせている瞳は、まるで怯えた子猫のようで、これにはさすがのエステルダも胸が痛むのを感じた。

「アランド殿下、ここは学園でございます。生徒達の誤解を招くような行動はお控え頂きたく存じます。それに、アリッサ様も恥ずかしがっておられるようですので・・・。」

ムッとした顔を向けていたアランド殿下だったが、アリッサが恥ずかしがっていると聞いた途端に表情を緩め、優しくアリッサを見つめると、「すまなかったね。」と、笑顔でアリッサから離れた。



 その日の放課後、帰り支度をしていたエステルダの教室に、突然アリッサが訪ねて来た。
エステルダの机の前に来ると、小さな声で先ほどのお礼を言って来た。

「エステルダ様、ごきげんよう。先ほどのお礼を言いたくて伺いました。」

その小さな声が、周りに聞こえたかどうかは分からないが、エステルダに頭を下げたアリッサは、直ぐに数名の令嬢に囲まれてしまった。

「まあ、アリッサ様。エステルダ様に何か御用がおありでして?」

「頭を下げていらしたようですが、やっとご自分の無礼の数々を反省されましたの?」

令嬢達の敵意の含んだ眼差しを受け、無表情で俯いてしまったアリッサだったが、この後のエステルダの一言で、はっと目を見開き素早く顔を上げた。

「ごきげんよう、アリッサ様。わたくしも、貴女と二人でお話をしたいと思っておりましたのよ。この後、お時間よろしいかしら?」

これに驚いたのは、アリッサだけではなく、エステルダの取り巻きの令嬢達も同じだった。

「皆様、わたくし、アリッサ様と大切なお話がありましてよ?ですので、本日はこれで失礼いたしますわ。」

ごきげんよう。と言ったエステルダの言葉には、まるで有無を言わさぬ強い圧力を感じるのだった。



 エステルダとアリッサ。双方が異なる美しさを放ち、地味な学園のカフェを優雅な別世界のように他の生徒達を錯覚させていたが、実際の二人の会話には、優雅さなど欠片も存在してはいなかった。

「ですから、何度も言っています!!アランド殿下のどこがそんなにお好きなのですか!?」

「アリッサ様!! 声が大きいですわ!!」

「ですが!!先ほどの殿下の態度を見たではありませんか!!あんな嫌なことを言われて!! なのに、なぜ!?」

「わたくしのことは、今はどうでも良いのです!!そんなことより、アリッサ様の本心をお聞かせください!!」

「私の本心ってなんですか? そんなことより、私はエステルダ様に目を覚ましてほしいと申し上げています。」

「レナートが好きなのですか!?」

「えっ!? なっ!!」

お互い、どれだけ相手に伝えたいことがあったのか、始めは言葉遣いも丁寧に、笑顔を張り付けた上での気遣い合った会話のやり取りも、興奮しすぎて鼻息荒くなった今、いくら小声とはいえ、真っ赤な顔を隠しもせず、打ちっぱなし投げっぱなしの二人の言葉の数々は、もはや会話にはなっていないのであった。

エステルダから、不意打ちのようにレナートの一撃をくらったアリッサは、あまりの威力に戦闘不能に陥った。
興奮して赤くなった頬は、今や顔全体に広がり、なんなら首まで真っ赤になっていた。
レナートの名前一つで、一言も話せなくなったアリッサを見つめ、エステルダはテーブルの下で拳を握って勝ち誇った顔をしていた。しかし、それと同じくして、何か心に風が吹くような・・・寂しさと似たようなものも感じるのだった。

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