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侍女と護衛に任命
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「ミスティナ様―――」
慌てたメイドの一人が彼女の名前を呼んだことにより、ロゼット公爵姉弟と同じ金髪碧眼のこの美少女が、レナートの婚約者候補である伯爵令嬢だという事をアリッサとヴィスタは知ることとなった。
「あら?」
こちらに気が付いたミスティナが、アリッサとヴィスタの髪の色を見て目を丸くした後、顔色に赤みが差すのが分かった。ミスティナは薄く微笑みながら二人のもとに歩いて来たが、そのいやらしく細められた目元と弧を描いたような口元は、アリッサとヴィスタがよく目にするものであった。
「・・・・・。」
(まだ少女と言ってもいいくらい、あどけなさの残る外見をしながら、どうしてこのように欲に溺れた表情をするのか・・・。)
「・・・・・。」
(この人がレナート様の婚約者・・・。この人、頭の先から足元まで、まるで値踏みでもしているような目で人のことを見るのね。ああ、いつものいやらしい貴族の顔だわ。レナート様、このような方と婚約話が出ていたのね・・・。)
二人の心の声など知る由もなく、にっこりと微笑んだミスティアは、うやうやしく一礼すると聞いてもいないのに、一方的に自己紹介を始めた。
その中には、レナートとの婚約話もふんだんに盛り込まれており、自分が将来のロゼット公爵夫人になることはもちろん、本意ではないものの、レナートや公爵家からどうしてもと言って、押し切られた形での婚約だと言うことを何度も繰り返し説明して来た。ヴィスタにしたら、それは明らかに子供の作り話だとわかる薄い内容ではあったけれど、レナートとの未来に希望が見えないアリッサの心を傷付けるには充分過ぎる内容であった。
気が済むまで自分の宣伝をしたミスティナであったが、今度は、先ほどまでエステルダが座っていた席に座ると、ヴィスタの容姿を褒め称えながらその腕に絡みつき、アリッサとヴィスタの家が没落寸前の子爵家だと知るや否や、その目と口を不敵に歪ませて、こう言い放った。レナートと結婚した後は、ヴィスタを自分の専属護衛に、アリッサを侍女にする。と・・・。
「将来は我がロゼット公爵家で、二人共わたくしに仕えるといいわ。うふふ、そう心配されなくとも大丈夫ですわ。レナートはわたくしのいいなりですもの。ふふっ。」
ぐったりと疲れた様子のヴィスタと、青い顔でショックを隠し切れないアリッサがようやく救われたのは、急ぎ足で庭園に戻って来たエステルダとレナートの二人が、鬼のような形相で現れたことにより、強制的に終わらせたからだった。
二人はミスティナの話をどこから聞いていたのだろうか、怒り狂ったエステルダは彼女の手を叩き落とし、ヴィスタから力づくで引き剥がすと、恐ろしい顔で彼女を見下ろした。
「おっ、お義姉様?そのような怖い顔で、一体どうされましたの?」
「おだまりなさい!! ミスティナ、次、わたくしのヴィスタ様に少しでも触れたなら、わたくしの全権力を使って貴女を国外追放致します!!」
「えっ!?国外追放って、まさか、王族でもないのに、さすがにそんなことはお義姉様にも無理で―――」
「口を慎みなさい!!わたくしは、貴女の義姉などではありません!!」
「レナート! なんとか言ってよ!お義姉様がわたくしをこんな酷い言葉で虐めるのよ?」
「ねぇ、レナ・・・・ !! ひぃっっ!!」
無言で上から見下ろしているレナートの顔を見たミスティナは、そのあまりの恐ろしさに悲鳴を上げた。
目玉をこれでもかと、むき出しにしたレナートの眉間には深すぎる皺が刻まれ、その口は怒りでわなわなと震えていた。
「出て行けっ!!」
まるで猛獣に吠えられたような恐ろしい怒鳴り声に、ミスティナは声も出せずに飛び上がった。そのまま尻もちをつき、レナートの顔を見ながらズリズリと後退りをしていると、レナートのとてつもない大声が庭園内に響き渡った。
「今すぐ、こいつを邸から追い出せ!!」
その声に数人の護衛騎士が現れると、恐怖で何も言えなくなったミスティナの両脇を抱えてそのまま連れて行ってしまった。
その後は、エステルダとレナートが必死に謝ってくれていたが、ただでさえ慣れない場所で心身共に疲労している所へもってきて、夫人がロックナートに陶酔している事を知ったあげく、孫の話で呼吸困難になり、二階からの異常な殺気に絶望を覚えた後は、ミスティナによって、いらないレナートとの婚約話を聞かされ、挙句、まさかの侍女と護衛に任命されてしまったのだ。
申し訳ないと謝る二人には悪いが、さすがのアリッサとヴィスタも心の限界を迎えていた。
気を取り直してもう一度お茶会をとの誘いに対し、丁重に断りを入れた二人は、言葉少なに帰る事を告げるのだった。
慌てたメイドの一人が彼女の名前を呼んだことにより、ロゼット公爵姉弟と同じ金髪碧眼のこの美少女が、レナートの婚約者候補である伯爵令嬢だという事をアリッサとヴィスタは知ることとなった。
「あら?」
こちらに気が付いたミスティナが、アリッサとヴィスタの髪の色を見て目を丸くした後、顔色に赤みが差すのが分かった。ミスティナは薄く微笑みながら二人のもとに歩いて来たが、そのいやらしく細められた目元と弧を描いたような口元は、アリッサとヴィスタがよく目にするものであった。
「・・・・・。」
(まだ少女と言ってもいいくらい、あどけなさの残る外見をしながら、どうしてこのように欲に溺れた表情をするのか・・・。)
「・・・・・。」
(この人がレナート様の婚約者・・・。この人、頭の先から足元まで、まるで値踏みでもしているような目で人のことを見るのね。ああ、いつものいやらしい貴族の顔だわ。レナート様、このような方と婚約話が出ていたのね・・・。)
二人の心の声など知る由もなく、にっこりと微笑んだミスティアは、うやうやしく一礼すると聞いてもいないのに、一方的に自己紹介を始めた。
その中には、レナートとの婚約話もふんだんに盛り込まれており、自分が将来のロゼット公爵夫人になることはもちろん、本意ではないものの、レナートや公爵家からどうしてもと言って、押し切られた形での婚約だと言うことを何度も繰り返し説明して来た。ヴィスタにしたら、それは明らかに子供の作り話だとわかる薄い内容ではあったけれど、レナートとの未来に希望が見えないアリッサの心を傷付けるには充分過ぎる内容であった。
気が済むまで自分の宣伝をしたミスティナであったが、今度は、先ほどまでエステルダが座っていた席に座ると、ヴィスタの容姿を褒め称えながらその腕に絡みつき、アリッサとヴィスタの家が没落寸前の子爵家だと知るや否や、その目と口を不敵に歪ませて、こう言い放った。レナートと結婚した後は、ヴィスタを自分の専属護衛に、アリッサを侍女にする。と・・・。
「将来は我がロゼット公爵家で、二人共わたくしに仕えるといいわ。うふふ、そう心配されなくとも大丈夫ですわ。レナートはわたくしのいいなりですもの。ふふっ。」
ぐったりと疲れた様子のヴィスタと、青い顔でショックを隠し切れないアリッサがようやく救われたのは、急ぎ足で庭園に戻って来たエステルダとレナートの二人が、鬼のような形相で現れたことにより、強制的に終わらせたからだった。
二人はミスティナの話をどこから聞いていたのだろうか、怒り狂ったエステルダは彼女の手を叩き落とし、ヴィスタから力づくで引き剥がすと、恐ろしい顔で彼女を見下ろした。
「おっ、お義姉様?そのような怖い顔で、一体どうされましたの?」
「おだまりなさい!! ミスティナ、次、わたくしのヴィスタ様に少しでも触れたなら、わたくしの全権力を使って貴女を国外追放致します!!」
「えっ!?国外追放って、まさか、王族でもないのに、さすがにそんなことはお義姉様にも無理で―――」
「口を慎みなさい!!わたくしは、貴女の義姉などではありません!!」
「レナート! なんとか言ってよ!お義姉様がわたくしをこんな酷い言葉で虐めるのよ?」
「ねぇ、レナ・・・・ !! ひぃっっ!!」
無言で上から見下ろしているレナートの顔を見たミスティナは、そのあまりの恐ろしさに悲鳴を上げた。
目玉をこれでもかと、むき出しにしたレナートの眉間には深すぎる皺が刻まれ、その口は怒りでわなわなと震えていた。
「出て行けっ!!」
まるで猛獣に吠えられたような恐ろしい怒鳴り声に、ミスティナは声も出せずに飛び上がった。そのまま尻もちをつき、レナートの顔を見ながらズリズリと後退りをしていると、レナートのとてつもない大声が庭園内に響き渡った。
「今すぐ、こいつを邸から追い出せ!!」
その声に数人の護衛騎士が現れると、恐怖で何も言えなくなったミスティナの両脇を抱えてそのまま連れて行ってしまった。
その後は、エステルダとレナートが必死に謝ってくれていたが、ただでさえ慣れない場所で心身共に疲労している所へもってきて、夫人がロックナートに陶酔している事を知ったあげく、孫の話で呼吸困難になり、二階からの異常な殺気に絶望を覚えた後は、ミスティナによって、いらないレナートとの婚約話を聞かされ、挙句、まさかの侍女と護衛に任命されてしまったのだ。
申し訳ないと謝る二人には悪いが、さすがのアリッサとヴィスタも心の限界を迎えていた。
気を取り直してもう一度お茶会をとの誘いに対し、丁重に断りを入れた二人は、言葉少なに帰る事を告げるのだった。
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