悪役令嬢は、幼馴染の恋を応援する。

平樹美莉

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道化師になった僕

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「ベルローズ・オルレイン公爵令嬢、お前とは婚約を破棄する!」

 煌びやかなシャンデリアのある大広間の中央で、第2王子アレクサンドル様の声が響き渡る。
 ついに例のシーンが始まるようだ。

 ついに……、いや、やっとだな。
 やっとローズが僕のものになる。

 僕の名前は、イヴァン・グレイズ。父親は侯爵で、ローズとは幼馴染。
 ―――そう、悪役令嬢ベルローズと。

 ローズは、薔薇のような赤い髪に、エメラルドのような緑の瞳。凛とした美しさを持つ女性だ。幼い頃から美少女で、とても可愛らしかった。薔薇の棘のように、ツンツンした性格ではあったが。
 彼女は生まれた時からアレクサンドル王子の婚約者であることが決まっていたので、途中から淑女教育やら妃教育やら、いろいろ大変そうだったけど、それでも彼女なりに頑張っていたのは知っている。
 過密スケジュールの合間を縫って、10歳頃までは普通に一緒に仲良く遊んでいた。相性も良かったんだと思う。

「もう、貴方とは遊べませんわ。私はアレクサンドル様の婚約者ですもの」

 僕の11歳の誕生日を目前に控えた日、ついにローズに言われた。

「これ、差し上げますわ」

 いつものようにツンツンした表情で、だけど薄っすら頰を赤く染めて差し出されたのは、美しい薔薇の刺繍の施されたハンカチ。
 僕はよく知ってる。彼女が精一杯照れているのを隠そうとしていることを。
 ―――アレクサンドル王子のために練習した、余り物だったりして……。
 ふとそんな嫌な考えも過よぎったけど、それでも嬉しかった。

「大切にするよ」

 僕は2人きりでゆっくり話すのはこれが最後になると思って、クラバットに飾りでつけていたサファイアのブローチを取り外し、彼女に差し出した。

「これ、お祖母様がくれたものだけど、ローズにあげるよ。ハンカチのお礼」
「こんな高級なもの、戴けないわよ」
「僕の気持ちだから、受け取って? 友情の証。もう、気軽に話すこともできないでしょ? 僕との思い出だと思って」

 とにかく何でもいいから、彼女に僕の身に付けた物を持っていて欲しかった。

「まるでイヴァンの瞳のようね」

 ローズがブローチを見つめて、切なそうに言った。

 僕の淡い初恋はこれで終わった……と思ったら、終わっていなかった。

 その日の夜、僕は高熱を出した。そして、前世を思い出してしまったのである。ここは、異世界で、前世の妹が大好きだった、乙女ゲームの世界であるということを。
 ―――そして、彼女は悪役令嬢であった。

 だから、決めたんだ。どうせ彼女が捨てられるなら、ローズは僕が貰おうって。



 貴族は12歳から16歳まで、学園で過ごす。
 一旦は離れた僕らだったけど、12歳の春、僕らは再会した。

「久しぶり、ベルローズ」

 彼女の横には、当然のごとくアレクサンドル王子……と思ったら、すでにいなかった。

「アレクサンドル様なら、ソフィア様と一緒よ」

 僕の不審そうな表情に気が付いたローズが、少し寂しそうに笑みを浮かべて答えた。

 ストーリーが進んでいる……。
 このままだと、ローズの未来は破滅だ。僕が君を守るしかないと心に決めた。
 まずは彼女の破滅を避けるため、アレクサンドル王子とソフィアの目をローズから逸らさせないと。
 悪役令嬢ベルローズが嫉妬の行動を起こす前に……。

 ―――僕は考えた。
 まず僕は前世の世界の記憶にあった、オネエキャラの真似をすることにした。
 男のままだと、友としてローズの側にはいられない。それならば警戒されないよう、女友達のような関係になればいい。
 それに、僕が王子を好きと言って、僕が王子を追いかけ回せば、逆に冷静さを保てるかもしれない。

 ―――僕は君のために道化師になろう。僕は僕のやり方でこの世界から君を守るよ。



 そして、ついに恐れていたあの婚約破棄の瞬間がやって来た。
 もちろん、悪役令嬢ベルローズは嫉妬に狂ったりはしていないし、ソフィアには何もしていないので、乙女ゲームのように、何か罪に問われることはない。
 ただ僕が心配なのは、ストーリーを元に戻そうとする強制力だ。
 大筋は変えないように努力したけど、僕のキャラを含め、かなり変わってしまっている部分もある。

 ―――さぁ、乙女ゲームの世界よ、どう出る!?


 緊迫したのは、一瞬だった。

「……分かりましたわ。ソフィア様とお幸せに。また詳しくは、お父様を通してお話ししましょう」
 ベルローズは至って静かに述べ、優雅に腰を落としてお辞儀をすると、クルッと僕の方へやってきた。

「イヴァン、気をしっかりね。やはりアレクサンドル様はソフィア様を選ばれてしまったわ」

 そして、僕の手を引き、ボーイからシャンパングラスを受け取ると、テラスの外に出た。

「今日は失恋酒ね。ここなら泣いても大丈夫よ」

 そう言って、僕にシャンパングラスを手渡した。
 僕はそれをグイッと飲む。

「ローズは平気?」
「別に。だって、最初からアレクサンドル様のことは好きでないもの。尊敬はしているけど。まぁ、あの妃教育のための勉強が全て無駄になるのかと思うと、少し悔しいけど」

 ベルローズはふふっと笑う。そして、僕を見上げた。

「ねぇ、私と結婚してくださらない?私、昔からイヴァンとお喋りしている時が一番自分らしくいられるの。イヴァンは男色だけど、侯爵家嫡男だし、どうせ結婚しないといけないでしょ? 私なら、男同士の恋愛への理解もあるし、きっと楽しい結婚生活になると―――」

 彼女の言葉の途中で、僕は彼女の手首を掴み、その身をぐっと引き寄せ、ずっと欲しかったその唇を奪った。

 彼女の目が大きく見開く。

「僕が好きなのは、ずっと君だけだよ」

 ―――さて、そろそろ君に真実を話そうか。
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