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聖女の暴力編

第50話 聖女の暴走

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「嘘っ!?」

 アリエンナの手から放たれる魔法は、戦い始めのものと比べ明らかに威力が上昇していた。

 アンリとベーゼブは放たれた魔法を焦りながら避ける。

「こんなもの当たったらシャレにならん!」

 アドンは体力の限界が近いのか、既に口を開く事さえしなくなっていた。

 アリエンナの片手は杖を振り回して一体の魔神を追い詰める。

 アリエンナの片手は黒い魔法を連続で撃ち続けて魔神二体を攻撃する。

「魔法なら負けないわよ!」

 アンリは孫を止めるべく魔神形態になり、得意の氷魔法を次々と放って相殺する。

「今の内にベーゼブはあの子を抑えて!」

「任せろ!」

 ベーゼブも魔神形態へと姿を変え、アリエンナに接近した。

「邪魔ですよ!」

 アドンに向けられていた暴力が今度は魔神ベーゼブに降りかかる。

「クソっ! 片手の癖に何て力だ!!」

 何とか杖を受け止めたベーゼブだが、両手で踏ん張っているにもかかわらず、押し返す事が出来ないでいた。

「あら? ベーゼブさん? 邪魔しちゃダメですよ。」

 まるで今気が付いたとばかりにベーゼブの名前を呼ぶ聖女。

「戦いは終了だ!」

「何故です?」

「アドンはもう戦えんからだ。」

「大丈夫ですって。ほら!」

 アリエンナは杖でベーゼブをその場に縫いとどめ、掛け声に合わせてアドンに蹴りを放った。

「ぐはっ!」

 ギリギリで立っていた彼は壁に打ち付けられ、そしてその間にも空いた片手はアンリの魔法を相殺し続けている。

「やめろ!」

「あら? アドンはもうダメみたいですね。」

 蹴りの衝撃で壁に衝突した魔神はぐったりしていた。

「もしかして……今度はアンリさんとベーゼブが二対一で遊んでくれるんですか!?」

 嬉々とした表情でベーゼブ見る聖女。

 明らかにその笑顔は狂っていた。

「ち、ちが……」
「そうならそうと言って下さいよ!」


 ズドン!!


 杖には黒い魔法が再び纏わりついていた。確実に威力が上昇している攻撃に対し、ベーゼブは力負けしている。

 矛先が残りの魔神二体へと向いてしまった。

「待て!」

「行きますよぉぉ!!」

 この局面において聖女の魔力量がアドンを超えた。

「本気で行くぞ! 加減していては止められん!!」


「アリエンナ。」

 この場にそぐわぬ落ち着いた声が聞こえて来る。

「お母さんどうしたの?」

 いつの間にか笑いから復帰したアリエーンが娘に声を掛けると、何事もなかったかのようにピタリと攻撃が止まる。

「1人で遊んだらダメじゃない。お母さんつまらないわ。」

「そっか。そうだよね。お母さんごめん。」

「分かれば良いのよ。ほら、アドンに戦ってくれたお礼をして。」

「ありがとうございました。」

 丁寧に頭を下げてお礼を言う少女。先程の狂気は完全になりを潜め、その場面だけを切り取って見たなら礼儀正しい女の子としか思われないだろう。

「あ、あぁ……。僕の負けだ。君とのキノコ栽培は諦める事にするよ。」

「え? はい。キノコ栽培はお友達として下さい。」





 アドンとの戦いは楽しかった。

 魔神は強いからどんどん私の調子も上がっていくし、良い事尽くめね。

「アリエンナばかり遊んでずるいわ。」

「お母さんも参加すれば良かったのに。」

「私が笑いから復活した時点でアリエンナ有利になってたからね。それで二対一はダメよ。」

 確かにそれはダメね。

「アリエンナちゃん!」

 アンリさんが怒ってる?

「どうして攻撃を止めてくれなかったの?」

「え? アドンはまだ動いていましたよ?」

「仕留めるまで戦いを続けるつもりだったの!?」

「? 動けるって事は戦えるって事ですよ?」

 アンリさんは魔神なのに変だわ。動かなくなったら戦闘終了。基本なのになぁ。

「……今度からは私が止めたら終わってちょうだい。」

「まぁ、そう言うなら……。」

 あまり納得はいかないけど、仕方ないか。

「アンリの孫よ。何故俺やアンリが止めても聞かないのだ?」

「お母さんやギャモーじゃないからです。」

「どういう事?」

「お母さんやギャモー以外の言う事には従う必要性をあまり感じません。今みたいな楽しい戦いの時は特に。」

「私はアリエーンの母親よ?」

「今日初めて会ったじゃないですか。あんまりおばあちゃんっぽくもないし。」

「う……確かに。それなら一緒に暮らしましょう!」

「はい。まぁ……魔界事情が解決するまではそうなるんじゃないですか?」

「言われてみればそうよね。ちゃんと家族だって思って貰えるように頑張るわ。」

 お母さんのお母さんだとは一応思ってるんだけど……。

「母さんが偶にでも顔を見せてれば違ったんだろうけどね。」

 そうよ。お母さんの言う通り。孫の顔を見に来ないおあばあちゃんって事だもの。

「それは……そうね。私も自分の子供達とは偶に会うけど、孫には積極的に会ってなかったわ。悪魔ってだけで孫に迷惑がられた事があったからね。」

 そっか……。アンリさんにも事情があったんだ。

「そういう事なら納得出来ます。魔界の事が解決しても会いに来て下さいね。」

「勿論よ。嫌がられないなら会うわ!」

 考えてみれば、家って意外と家庭の事情が複雑だったのね。

「ところで、アドンの扱いはどうなるんだ?」

 そうね。何も考えてなかったわ。
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