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まさかのデジャブ
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前世の時のように、ケーキは頭上高く宙を舞いーーだったらまだ良かったのだが、まるでパイ投げのように綺麗に真横へ飛んでいき、アルバーノの顔面へと命中した……らしい。
つんのめったまま地面にスライディングしていた私が、イタタと顔を上げると、顔面クリームのお化けが立っていた。
なんだか不機嫌全開オーラが出ている。
うわっ、何かのドッキリ?
可哀想に、クリームで誰かわからないじゃん。
ーーって!!もしかしなくても、私のせいか?
今世でもまたやっちまいました?
キョロキョロすると、空の皿が落ちている。
あわわ、そうだよ、私が運んでたケーキだよ!!
生まれ変わってまた同じ失敗なんて……いや、前より更に酷いから!!
「ご、ごめんなさい…………」
地面に伸びたまま真っ青になって謝る私と、顔面クリームのアルバーノという非常事態に、周囲もどうしたらいいのか動揺しているようだ。
そこへ真っ先に駆け付けたのは、まさかの兄だった。
「レオナ、お前何やってんだよ!!立てるか?うっわ、鼻擦りむいてんぞ」
うっさいな、今それどころじゃないっちゅーの。
兄は私を立たせながら、「おい、このケーキまみれは誰だ?」と小声で聞いてきた。
「アルバーノ様です」と肩を落として答えたら、「ああ、伯爵家の……」と頷き、タオルを侍女から受けとると、アルバーノに近付いた。
「妹が失礼した、アルバーノ殿。あちらで着替えを」
まさか、あの兄がまともな対応をしている。
呆然としていたら、両親も異変に気付き、やって来た。
アルバーノの父は特に息子に興味が無いのか、遠くで歓談しているのが見えた。
子供に無関心なのは相変わらずのようだ。
「これはアルバーノ殿、娘が申し訳ないことをした」
「レオナちゃん、あなたもその鼻とおでこ、薬を塗らないとね」
兄がアルバーノを案内しようとしていたので、さすがに私も我に返って言った。
「お兄様、私がご案内します。お兄様は本日の主役なのですから。ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」
これは明らかに私の失態である。
自分で落とし前を付けなければ!
「なーに、そんな赤い鼻しながら謝ってるんだよ。子供のくせに。ま、ここはお前に任せるか」
兄は私の擦れたおでこにデコピンをすると、「アルバーノ殿、また後で」と挨拶し、去っていった。
い、痛い。
地味に痛いじゃないか、このやろう。
しかも子供のくせにって、お前も子供だしな。
おでこを押さえながら、私はアルバーノの方を向いた。
「アルバーノ様、こちらです」
着替えの為に客室へ入ると、既に新しい服が用意され、シャワーも浴びられるように準備されていた。
「あの、アルバーノ様、申し訳ございませんでした!!」
使用人以外二人きりになると、私は思いっきり頭を下げた。
土下座をしたいくらいだが、令嬢はやっちゃ駄目な気がして堪えた。
きちんとした謝罪を本当はもっと早くにするべきだったのだが、兄が出てきたり、アルバーノが怒っていそうで躊躇している内に、すっかり遅くなってしまった。
さっきから何にも言わないし、沈黙が怖すぎる……。
もしかして、前世のお兄ちゃんと性格が違うとか?
頭を下げたままの私の耳に、「ふっ」っと小さく吹き出す声が聞こえた。
え?お兄ちゃんが笑った?
チラッと目線だけ上げると、アルバーノが俯き、大きく肩を揺らしているのが見える。
徐々に堪えきれない笑い声が漏れだした。
「ふっ、くくっ、まさかこんなところでまたやられるとはな。しかも今度は顔面に刺さるような角度だぞ。あるか?こんなこと……ふふっ」
なんだかぶつぶつ言いながら笑っているが、私には意味がわからない。
「あの、大丈夫ですか?」
思わず心配してしまう。
ケーキがぶつかって、頭がおかしくなってしまったのだろうか。
「いや、ごめんね。ふっ、全く問題ないよ。面白い経験過ぎて笑ってしまいそうで、ふふっ、我慢していただけだから。全然怒ってないよ?むしろ楽しい……っくくっ……あははははは!!」
壊れた。
お兄ちゃんが壊れてしまった。
豆腐の角に頭をぶつけて……とか聞いたことあるけど、ケーキを顔にぶつけてってないよね。
でも、前世の時もこうやって大笑いしてた気が。
ケーキを被るのが好きなのか?
首を傾げているレオナに、ようやく笑い終わったアルバーノが話しかけてきた。
「取り乱してごめんね。気付いたら顔面ケーキだし、君は綺麗に転んでいるし、周りの悲壮感漂う様子が面白くなっちゃって。人前で笑ったことがないから、耐えていただけなんだ。怖い思いさせていたらごめん」
「い、いえ、私が悪いので。アルバーノ様にケーキを持っていこうなどと考えたせいで……」
「えっ、僕に持ってくるつもりだったの?君、名前は?」
「あ、レオナ・カートライトです。この屋敷の娘です……」
ガーン。
私のことなんて眼中に無かったのか。
あんなに気合いを入れてたのに、さっきの挨拶って一体……。
「そうか、侯爵令嬢相手に失礼だったかな。まあいいか。僕、社交界とか全然興味がなくて。今日も父に言われてついてきただけだから。でもそう、君がレオナ嬢か」
意味ありげに微笑まれて戸惑ってしまう。
再会したアルバーノは、なんだか前世よりミステリアスだった。
つんのめったまま地面にスライディングしていた私が、イタタと顔を上げると、顔面クリームのお化けが立っていた。
なんだか不機嫌全開オーラが出ている。
うわっ、何かのドッキリ?
可哀想に、クリームで誰かわからないじゃん。
ーーって!!もしかしなくても、私のせいか?
今世でもまたやっちまいました?
キョロキョロすると、空の皿が落ちている。
あわわ、そうだよ、私が運んでたケーキだよ!!
生まれ変わってまた同じ失敗なんて……いや、前より更に酷いから!!
「ご、ごめんなさい…………」
地面に伸びたまま真っ青になって謝る私と、顔面クリームのアルバーノという非常事態に、周囲もどうしたらいいのか動揺しているようだ。
そこへ真っ先に駆け付けたのは、まさかの兄だった。
「レオナ、お前何やってんだよ!!立てるか?うっわ、鼻擦りむいてんぞ」
うっさいな、今それどころじゃないっちゅーの。
兄は私を立たせながら、「おい、このケーキまみれは誰だ?」と小声で聞いてきた。
「アルバーノ様です」と肩を落として答えたら、「ああ、伯爵家の……」と頷き、タオルを侍女から受けとると、アルバーノに近付いた。
「妹が失礼した、アルバーノ殿。あちらで着替えを」
まさか、あの兄がまともな対応をしている。
呆然としていたら、両親も異変に気付き、やって来た。
アルバーノの父は特に息子に興味が無いのか、遠くで歓談しているのが見えた。
子供に無関心なのは相変わらずのようだ。
「これはアルバーノ殿、娘が申し訳ないことをした」
「レオナちゃん、あなたもその鼻とおでこ、薬を塗らないとね」
兄がアルバーノを案内しようとしていたので、さすがに私も我に返って言った。
「お兄様、私がご案内します。お兄様は本日の主役なのですから。ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」
これは明らかに私の失態である。
自分で落とし前を付けなければ!
「なーに、そんな赤い鼻しながら謝ってるんだよ。子供のくせに。ま、ここはお前に任せるか」
兄は私の擦れたおでこにデコピンをすると、「アルバーノ殿、また後で」と挨拶し、去っていった。
い、痛い。
地味に痛いじゃないか、このやろう。
しかも子供のくせにって、お前も子供だしな。
おでこを押さえながら、私はアルバーノの方を向いた。
「アルバーノ様、こちらです」
着替えの為に客室へ入ると、既に新しい服が用意され、シャワーも浴びられるように準備されていた。
「あの、アルバーノ様、申し訳ございませんでした!!」
使用人以外二人きりになると、私は思いっきり頭を下げた。
土下座をしたいくらいだが、令嬢はやっちゃ駄目な気がして堪えた。
きちんとした謝罪を本当はもっと早くにするべきだったのだが、兄が出てきたり、アルバーノが怒っていそうで躊躇している内に、すっかり遅くなってしまった。
さっきから何にも言わないし、沈黙が怖すぎる……。
もしかして、前世のお兄ちゃんと性格が違うとか?
頭を下げたままの私の耳に、「ふっ」っと小さく吹き出す声が聞こえた。
え?お兄ちゃんが笑った?
チラッと目線だけ上げると、アルバーノが俯き、大きく肩を揺らしているのが見える。
徐々に堪えきれない笑い声が漏れだした。
「ふっ、くくっ、まさかこんなところでまたやられるとはな。しかも今度は顔面に刺さるような角度だぞ。あるか?こんなこと……ふふっ」
なんだかぶつぶつ言いながら笑っているが、私には意味がわからない。
「あの、大丈夫ですか?」
思わず心配してしまう。
ケーキがぶつかって、頭がおかしくなってしまったのだろうか。
「いや、ごめんね。ふっ、全く問題ないよ。面白い経験過ぎて笑ってしまいそうで、ふふっ、我慢していただけだから。全然怒ってないよ?むしろ楽しい……っくくっ……あははははは!!」
壊れた。
お兄ちゃんが壊れてしまった。
豆腐の角に頭をぶつけて……とか聞いたことあるけど、ケーキを顔にぶつけてってないよね。
でも、前世の時もこうやって大笑いしてた気が。
ケーキを被るのが好きなのか?
首を傾げているレオナに、ようやく笑い終わったアルバーノが話しかけてきた。
「取り乱してごめんね。気付いたら顔面ケーキだし、君は綺麗に転んでいるし、周りの悲壮感漂う様子が面白くなっちゃって。人前で笑ったことがないから、耐えていただけなんだ。怖い思いさせていたらごめん」
「い、いえ、私が悪いので。アルバーノ様にケーキを持っていこうなどと考えたせいで……」
「えっ、僕に持ってくるつもりだったの?君、名前は?」
「あ、レオナ・カートライトです。この屋敷の娘です……」
ガーン。
私のことなんて眼中に無かったのか。
あんなに気合いを入れてたのに、さっきの挨拶って一体……。
「そうか、侯爵令嬢相手に失礼だったかな。まあいいか。僕、社交界とか全然興味がなくて。今日も父に言われてついてきただけだから。でもそう、君がレオナ嬢か」
意味ありげに微笑まれて戸惑ってしまう。
再会したアルバーノは、なんだか前世よりミステリアスだった。
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