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婚約者の座に滑り込み成功
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シャワーは必要ないとアルバーノが言った為、私は濡らしたタオルで彼の髪を丁寧に拭いている。
ケーキのクリームが、青みがかった美しい黒髪まで汚していたからだ。
自分でやると一度は断られたが、頑としてタオルを渡さずにいたら諦めたらしい。
今は大人しく拭われている。
やっぱり黒に近い髪色は、昔日本人だった私としては落ち着くし、好感度が高いよね。
攻略対象って、どいつもこいつもイカれた髪の色してるからな。
そんなことを考えながら、椅子に座ってもらったアルバーノの髪を拭いていたのだが、先程からやたら強い視線を間近から感じる。
アルバーノがサファイア色の瞳を、ずっと私に向けているのだ。
「ねえ、僕のことより、その鼻を先に治療したらどうかな?せっかくの可愛い鼻が赤く擦れて見ていられないよ。それに、そのピンクのワンピース、レオナ嬢に似合っていて素敵だね」
……は?
今なんと仰いました?
私、鼻を擦っただけじゃなくて、頭も打ったんだっけ?
いきなり新宿のホストが乗り移ったかのような嘘臭い台詞が聞こえ、思わず手が止まったままポカンとしている私に、更にアルバーノが尋ねた。
「おでこも擦れているけど、さっきそのおでこを弾いた男がいたよね?あれは誰?随分親しそうだったけど、まさかレオナ嬢にはもう婚約者がいるの?」
いやいや、アレが婚約者なら泣くでしょ?
まあ、今までだって碌な彼氏も婚約者も居なかったけどさ。
確かにさっきの兄は少し見直したけど。
私達、思いっきり「妹が」とか、「お兄様」とか言っていたはずなのに、本当に興味がなかったんだな。
でもなんだか急に会話も増えて、もしかして私に興味が湧いてくれたのかな?
「さっきのは兄です」
「兄?お兄さんと仲がいいんだね」
声に少し剣呑な雰囲気を感じ、私は慌てて否定した。
「いえ、全く。むしろいつも偉そうなので、苦手です。勉強も嫌いみたいだし、さっきは初めて兄らしいところを見ました」
大好きだった前世の兄の前で、今世の兄について話すのはなんだか複雑な気持ちだ。
しかも、今の兄はとても残念なヤツなのだ。
しかし侍女が咳払いをしてくるので、悪口はここでやめておいた。
「なるほど。でもあの様子じゃ、妹が可愛くて仕方がないんだな。気持ちは良くわかるよ」
「アルバーノ様も妹さんが可愛いのですか?」
「いや、全然。話もしないな」
何だそりゃ。
会話が噛み合ってないぞ?
じゃあ何が良くわかったというのだろう。
意味が通じないまま、髪が綺麗になったアルバーノが着替えをするというので、私は外へ出た。
お兄ちゃん、前世ではあんなに優しかったのに、今の妹さんとは話さないんだ。
これから仲良くなるのかもしれないけど。
いいなぁ、ジェラシー感じちゃう。
アルバーノを待っている間に、鼻とおでこに薬を塗られた。
ちょっと染みるが、大したことはないらしい。
高級なフカフカ絨毯に擦れただけだからそれも当然だった。
「お待たせ。ああ、薬を塗ったんだね。せっかくの可愛い顔が痛々しいけれど、きっとすぐに治るよ。あ、もし傷が残るようだったら、僕で良ければお嫁にくる?」
アルバーノがイタズラっぽく微笑んだ。
キタ!
来ましたよ、予期せぬところで婚約者フラグが!!
「行きます!アルバーノ様のお嫁さんになりたいです!!」
「え、本当に?傷なんて、残らないに決まってるよ?」
「じゃあもう一度残るような傷、作ってきます!!」
駆け出しそうな私の腕を掴んだアルバーノは、前世みたいに屈託なく笑っていた。
「ははっ、そんな必要ないから。レオナ嬢は面白いな。後で父上にお願いして、正式に話を通してもらうよ」
やったー!
今度こそ素敵な婚約者ゲットだぜ!!
テンションが上がり過ぎて周りが見えていなかった私は、「あの子にそっくりなんだよな、性格が……」と、アルバーノが呟いていたことなど気付いていなかった。
ケーキのクリームが、青みがかった美しい黒髪まで汚していたからだ。
自分でやると一度は断られたが、頑としてタオルを渡さずにいたら諦めたらしい。
今は大人しく拭われている。
やっぱり黒に近い髪色は、昔日本人だった私としては落ち着くし、好感度が高いよね。
攻略対象って、どいつもこいつもイカれた髪の色してるからな。
そんなことを考えながら、椅子に座ってもらったアルバーノの髪を拭いていたのだが、先程からやたら強い視線を間近から感じる。
アルバーノがサファイア色の瞳を、ずっと私に向けているのだ。
「ねえ、僕のことより、その鼻を先に治療したらどうかな?せっかくの可愛い鼻が赤く擦れて見ていられないよ。それに、そのピンクのワンピース、レオナ嬢に似合っていて素敵だね」
……は?
今なんと仰いました?
私、鼻を擦っただけじゃなくて、頭も打ったんだっけ?
いきなり新宿のホストが乗り移ったかのような嘘臭い台詞が聞こえ、思わず手が止まったままポカンとしている私に、更にアルバーノが尋ねた。
「おでこも擦れているけど、さっきそのおでこを弾いた男がいたよね?あれは誰?随分親しそうだったけど、まさかレオナ嬢にはもう婚約者がいるの?」
いやいや、アレが婚約者なら泣くでしょ?
まあ、今までだって碌な彼氏も婚約者も居なかったけどさ。
確かにさっきの兄は少し見直したけど。
私達、思いっきり「妹が」とか、「お兄様」とか言っていたはずなのに、本当に興味がなかったんだな。
でもなんだか急に会話も増えて、もしかして私に興味が湧いてくれたのかな?
「さっきのは兄です」
「兄?お兄さんと仲がいいんだね」
声に少し剣呑な雰囲気を感じ、私は慌てて否定した。
「いえ、全く。むしろいつも偉そうなので、苦手です。勉強も嫌いみたいだし、さっきは初めて兄らしいところを見ました」
大好きだった前世の兄の前で、今世の兄について話すのはなんだか複雑な気持ちだ。
しかも、今の兄はとても残念なヤツなのだ。
しかし侍女が咳払いをしてくるので、悪口はここでやめておいた。
「なるほど。でもあの様子じゃ、妹が可愛くて仕方がないんだな。気持ちは良くわかるよ」
「アルバーノ様も妹さんが可愛いのですか?」
「いや、全然。話もしないな」
何だそりゃ。
会話が噛み合ってないぞ?
じゃあ何が良くわかったというのだろう。
意味が通じないまま、髪が綺麗になったアルバーノが着替えをするというので、私は外へ出た。
お兄ちゃん、前世ではあんなに優しかったのに、今の妹さんとは話さないんだ。
これから仲良くなるのかもしれないけど。
いいなぁ、ジェラシー感じちゃう。
アルバーノを待っている間に、鼻とおでこに薬を塗られた。
ちょっと染みるが、大したことはないらしい。
高級なフカフカ絨毯に擦れただけだからそれも当然だった。
「お待たせ。ああ、薬を塗ったんだね。せっかくの可愛い顔が痛々しいけれど、きっとすぐに治るよ。あ、もし傷が残るようだったら、僕で良ければお嫁にくる?」
アルバーノがイタズラっぽく微笑んだ。
キタ!
来ましたよ、予期せぬところで婚約者フラグが!!
「行きます!アルバーノ様のお嫁さんになりたいです!!」
「え、本当に?傷なんて、残らないに決まってるよ?」
「じゃあもう一度残るような傷、作ってきます!!」
駆け出しそうな私の腕を掴んだアルバーノは、前世みたいに屈託なく笑っていた。
「ははっ、そんな必要ないから。レオナ嬢は面白いな。後で父上にお願いして、正式に話を通してもらうよ」
やったー!
今度こそ素敵な婚約者ゲットだぜ!!
テンションが上がり過ぎて周りが見えていなかった私は、「あの子にそっくりなんだよな、性格が……」と、アルバーノが呟いていたことなど気付いていなかった。
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みんなの感想(1件)
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ご感想ありがとうございます😊
あはは!確かにヤツは拗らせてますね🤣
というか、拗らせばっかりの面倒な人達の話になりつつあるような……。
長くならない予定なので、良かったらまた読んでみてくださると嬉しいです。