魔眼持ちの伯爵家当主（旧題:魔眼持ちの伯爵令嬢）

29話

「それで？どの教義に反するの？」

私のした質問に対して、教会の人間は答えず、ただ地面に膝を付き、地面に顔をむけているだけだった。

それから暫くしても顔を上げず、答えもしない男が、何を望んでいるのかを察した。

男は伯爵家当主である私に、この場は見逃せと態度で示しているのだ。
確かに、貴族と教会の関係から言うと、この場でこの男言う浄化、もとい処刑を見逃したほうが良い。

しかし、教会と敵対関係になる可能性を考慮しても、黒色の魔眼所持者は欲しい。
それならば私が、この場を見逃してやる必要性はない。

私はそう判断した。

「答えが無いという事は、教義には反しないという事ね。それなら、その子は私が貰っていくわ」

私がそう宣言すると共に、『氷槍』を女の子を縛っているローブを切るために発射した。
私が発射した『氷槍』は綺麗にローブを切断し、女の子は落下を始めたが、即座にフィーナが動いた。

フィーナは落下を始めた女の子を、お姫様抱っこで優しく抱えると、私の元まで運んで来た。

それを見て、私が宣言をしてから呆然としていた教会の男は叫んだ。

「なっ！？きょ、教会に楯突く気か！？」

「何処が教会に楯突いてるの？教義に反してないでしょ？」

「そ、そんな物は関係ない！！強力な闇魔法の魔眼所持者は殺さなければならないのだ！！良いから、その女を渡せ！！」

男はそう叫びながら私に向けて魔法を放った。
それに反応したフィーナが、女の子を降ろして撃退しようとしたが、それを片手を上げる事で止めた。

それと同時に男は私に向かって、『火球』を放って来た。
それを『氷壁』で打ち消し、男を『氷結』で凍り付かせた。

それから『氷壁』と『火球』がぶつかった事で生じた煙が晴れるのを待ち、『氷結』でギリギリ生存可能な範囲で全身を凍り付けにした男を見ながら、野次馬を仲間に引き込むべく演説をした。

「教会の教義を、そんな物と言い切り、一番に博愛の精神を示すべき教会の人間が、ただの女の子が闇魔法の魔眼を発現させただけで、処刑しようとする。

更には、その愚行を止めようとした私達すら攻撃し、殺そうとする。

まさか、そんな者が教会に所属しているなんて。貴方は教会に所属して、一体何がしたいの？」

私の言葉に男は、『氷結』で死にかけている為か、顔を真っ青にして口を少しだけ動かしているだけに留まっていた。

それを見て、流石に長時間は不味いなと判断して、馬車に戻りながら言った。

「それじゃあ、この子は貰っていくわ。それと、その氷は私達が乗っている馬車が、この場から遠ざかれば消えるから、それまで大人しくしてなさい」