俺TUEEEEしたかった悪役令嬢

morimiyaco

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私じゃなくても良くない?

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 学校を卒業してしまったので、する事がない。ただ、ずっと休まる暇も無かったからのんびりしたいな、とチャピコを連れて、王城中庭のガゼボに来ていた。 
 チャピコって誰だって?あの赤ちゃんドラゴンです。結局名前付ける事になって。
 まあその後まんまと従魔契約結ばれたけどね。


 もちろん一人ではないよ。有り難くもラルフ殿下に付けられた護衛(監視?)の騎士は常に貼り付いているし、お茶の準備をしてくれる公爵家から連れてきた専属の侍女も二人付いてきている。
 だけれど、彼らは気配を消すプロだから学校に居た時のように心が休まらない訳では無い。
 侍女がクッションを敷き詰めてくれたベンチで、チャピコを膝に抱え、入れてもらったお茶を楽しみながらゆっくり読書を楽しんでいたら、目の前を金色の光のようなものが何個か走った。
 
 光?
 辺りを見渡すと、こんなに光っているのに侍女も護衛も気づいた様子はない。どういう事かしら。


 『わあ、面白いね。違う世界の魂と混じり合って虹色に光り輝いてるよ』
 『王様といっしょ』
 『ドラゴンの赤ちゃんといるよ』
 『こんなめずらしいの。おうさまにも見せなきゃ!』



 と耳元で口々に声が聞こえたと思ったら、一際大きな光に包まれた後、チャピコと共にどこかへ強制転移させられた。






 目を開けると、チャピコと共に森の中にいて、瞬間的に気づいてしまった。ここは噂に聞く妖精界の妖精の森だと。森とは言うけれど、普通の人間は入ることが出来ない世界とは時間軸のズレた界層。ここと、私たちの世界とでは流れる時間が違うから、戻れたとしても、いつかは分からない。

 まっさきに、ラルフ殿下の辛そうな顔が思い浮かんで、また約束を破ってしまったなと申し訳なく思った。


 『おうさまおうさまこっちなの~』

 3つの金色の光が、私の周りをぐるぐるした後、森の中に消えていった。
 ここにいても仕方ない、こうなったらついていくしかない。妖精王に会って、元の世界に戻してもらわないと。

 チャピコを抱き抱え、光の後を追った。




 着いて行った先には広い空間があり、水の玉が空中にいくつも浮かんでいた。その水の玉と玉とがぶつかって弾けると、中からぱぁっと光が飛び出してくる。

 『あれは~水の妖精が産まれてるの』

 「そうなんだ、すごく綺麗ね」

 『キミの方が虹色の魂でキレイキレイ』
 『おーさまに見せるの』

 「妖精王に会ったら、私帰れるのかしら?」

 『たぶんだいじょぶ』
 『おうさまきれいな子がすき』
 『ボクたちも』

 なんだか安心出来る要素がないわ。妖精は基本的に良い子が多いのだけれど、常識も善悪の判断も人間とは違うのよね。すんなり帰れるか心配になってきた。

 そのうち虹色に光る宮殿に辿り着いた。

 『おうさま、おうさま、すごくきれいなの』
 『おうさまといっしょ』
 

 宮殿に入ると妖精達が口々に言い始めた。

 「人間を連れて来たらいけないと何度も言ったでしょう」

 目の前に、人間の男性くらいの大きさの緑髪緑眼の綺麗な顔をした妖精が現れた。妖精だろうなと思ったのは、なんだか光っていたし羽根が生えていたから。こんなはっきり姿が見えて、大きい妖精は見た事がない。

 「妖精王様ですか?」

 男性を見上げて尋ねると、男性は目を細めた。

 「ああ、君は異世界からの転生者なんだね」
 「わかります?」
 「僕も転生者だからね」

 妖精王様も、気が付いたら妖精王になっていたそう。話してみたら同じ日本人だった。それにしても人間ならまだしも転生したら妖精王とか。

 「それは大変でしたね」
 「妖精は寿命がないからね~。生活に代わり映えもないし、社畜がのんびり妖精ライフに慣れるまで辛かったかな~」
 
 分かる気がする。何も変わらず、ゴールが見えない生活って、手持ち無沙汰で逆に不安になるような。
 バカンスに行っても分刻みで予定を立てて行動したくなる日本人の悲しき習性よね。

 「それなら妖精王様、分かると思いますが、元の世界に帰してください」
 「え~、せっかくの同郷だし、もっと話そうよ」
 「駄目です。私には一緒に居ると約束した人がいるんです。もう約束を破りたくないの」

 ラルフ殿下の顔を思い出して、強い口調で言うと、妖精王は渋々と言った感じで溜息をついた。

 「それなら、僕の加護をつけるからちょくちょく呼ぶの必須だからね。僕がそっちに出張するから」
 「え?そんな簡単に加護って」
 「分かる?もうかれこれ1万年くらい暇なんだよ~」

 そんなに長ければ、もう日本の事など覚えていないんじゃないのかしら。

 「絶対記憶のせいで忘れられないんだよね。前世の事も。僕は日本の話をしたいんだよ」
 「ハイハイ、わかりました。なんでここでは全然違う時代に生まれたのかは分からないけれど、前世は同じくらいの時代っぽいですもんね」

 社畜とか、あの時代でしか使われてない。

 「じゃあまた後で。よろしくね」

 そんな、どうでもいい理由で、妖精王という茶飲み友達が出来た。



 来た時と同じように、唐突に身体が光ると、次の瞬間草原ぽい所にいた。時間的には夕方位かしら?ここはどこかしら?

 向こうにいた時間は僅かだったけれど、あれからどれだけの時間が経ってしまったのか。

 
 「アーシャ!!」

 周りを見渡そうとしたら、いきなり強い力で抱きしめられた。

 「え?ラルフ殿下?」

苦しいくらいの抱擁から、何とか顔だけ抜け出して見上げると顔をクシャクシャに歪めて泣いているラルフがいた。

 「た、ただいま」
 「アーシャ」

 昨日見た時より更に大きくなっていた身体は、小刻みに震えている。その姿に胸が苦しくなって、私も殿下の背中に腕を回した。
 
 「向こうでは2、3時間程度だったの」
 「1年…。あれから1年だ」
 「そんなに…?ここは…?」
 「ここは国境付近だ」
 「そんな遠く」

 向こうでは一日にも満たなかったのに、こちらでは1年経って居たらしい。ラルフ殿下ももう少しで15歳。私の方が数ヶ月だけ年上だったのに、時間軸のせいで殿下の方が年上になってしまっていた。

 「アーシャの魔力を感知したからすぐに転移して飛んできた」

 なにそれ…GPSなの?
 ラルフ殿下はこの一年、親ドラゴンに探索能力の範囲と魔力感知の精度を上げる訓練をしてもらって、私の魔力に限って、どこに居ても見つけられるようになったとか。
 それ一歩間違えたらストーカーとか言うんですけど。

 「ごめんなさい」
 「アーシャのせいじゃないのは分かってる」
 「うん」
 「でももう、離ればなれは嫌だ」
 「ラルフ殿下…」
 「だから卒業の時とか格好つけるのはやめだ」
 「え?」

 ラルフ殿下は、私を抱きしめたまま声を強めた。

 「これからどんな苦労があっても、俺はアーシャを愛するし、最後まで絶対に幸せにするから、どうか他の誰でもない、この俺と結婚して欲しい」
 
 それは、強い強い眼差しだった。

 「なんで私なの?殿下を好きな令嬢ならたくさんいるわ。私である必要なんか…」
 「他にどんな令嬢がいようが、アーシャじゃなければ意味が無いんだ。俺はアーシャだから結婚したいんだ。アーシャ以外はいらない」
 「でも」
 「でもはない。もう絶対逃がさない。どこに逃げても見つけるし、連れ戻すから」

 やばい。溺愛に加えて重度のヤンデレまでついちゃってる。でも嫌じゃないと思ってしまう自分もいる。

 「愛しているんだ」

 どうしよう。15歳の子なんて、前世の自分の子供より年下なのに。ずっと子供対象外だと思ってきてたのに…なんでこんなにドキドキしてしまうんだろう。

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